人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

はっぴいえんど - 風街ろまん (URC, 1971)

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はっぴいえんど - 風街ろまん (URC, 1971) Full Album : http://youtu.be/DOellflZY8c
Recorded at Mouri-Studio in March, July, August & September, 1971
Released by URC (あんぐら・れこーど・くらぶ) URG-4009, November 20, 1971
(Side A)-風
A1. 抱きしめたい (作詞;松本隆/作曲;大瀧詠一) - 3:35
A2. 空いろのくれよん (作詞;松本隆/作曲;大瀧詠一) - 4:09
A3. 風をあつめて (作詞;松本隆/作曲;細野晴臣) - 4:06
A4. 暗闇坂むささび変化 (作詞;松本隆/作曲;細野晴臣) - 1:57
A5. はいからはくち (作詞;松本隆/作曲;大瀧詠一) - 3:37
A6. はいから・びゅーちふる (作詞;多羅尾伴内/作曲;多羅尾伴内) - 0:33
(Side B)-街
B1. 夏なんです (作詞;松本隆/作曲;細野晴臣) - 3:16
B2. 花いちもんめ (作詞;松本隆/作曲;鈴木茂) - 3:56
B3. あしたてんきになあれ (作詞;松本隆/作曲;細野晴臣) - 2:13
B4. 颱風 (作詞;大瀧詠一/作曲;大瀧詠一) - 6:30
B5. 春らんまん (作詞;松本隆/作曲;大瀧詠一) - 2:55
B6. 愛餓を (作詞;松本隆/作曲;大瀧詠一) - 0:33
[ はっぴいえんど ]
鈴木茂 - lead guitar, celesta, vocal
大瀧詠一 - 12st.guitar, 6st.guitar & vocal
細野晴臣 - electric bass, keyboards, 6st.guitar & vocal
松本隆 - drums & percussions, chorus

 3作しかないはっぴいえんどのスタジオ録音アルバムのうち、3作目の『Happy End』(1973年2月)は事実上メンバーがソロ活動に移った頃に一時的に再結成して実質的にはソロとして制作した楽曲を持ち寄った一種のオムニバス・アルバムですから、バンドとして実体のあった時期に作られたのはデビュー・アルバムと第2作である本作の2作きりになります。デビュー・アルバム『はっぴいえんど』とこの『風街ろまん』は構成は似ており、大瀧詠一細野晴臣が交互に2曲ずつ自作曲を歌い、作風の対照がバンドの多彩な表現力を表すものでした。デビュー・アルバムは当時の日本のロックで際立って個性的で優れたものでしたが、はっぴいえんどの最高傑作として世評が高く、70年代の日本のロック・アルバムNo.1とまで言われるのはこのセカンド・アルバム『風街ろまん』の方です。それは主にアルバム全体のコンセプトと統一感にあると思われ、楽曲の多様性ではむしろ『はっぴいえんど』の方が幅広い作風を示していたと思われるのです。
 まず前作ではサイケデリック・ロック的な作風やヘヴィ・ロック的なサウンドがフォーク・ロック的な楽曲と混在していました。大瀧詠一鈴木茂ブルース・クリエイションのメンバーと親しく、細野晴臣松本隆は直前までエイプリル・フールをやっていたのですから、サイケ&ヘヴィなサウンドが顔を出すのは不自然ではありません。またおそらく、デビュー・アルバムでは作曲と作詞は後から組み合わされたものと思われ、発売当時は日本語の抑揚とメロディの不一致が異様で聴きづらい、という不評が多く見られました。『風街ろまん』で評価が好転したのは歌詞の文節を歌い回しで処理する技法が向上したのもありますし、先に『はっぴいえんど』を聴いていれば『風街ろまん』は格段に聴きやすいのです。そして歴史的には、はっぴいえんどの日本語ロックは日本のロックのスタンダードになり、直接間接問わず『風街ろまん』は日本のロック・アルバムの規範というべき影響力を持つに至りました。
(Original URC "風街ろまん" LP Liner Cover & Side A Label)

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 はっぴいえんどのメンバー4人が後にとんでもないエリート集団と判明したのは言うまでもありませんが、『はっぴいえんど』と『風街ろまん』を聴き較べると大瀧詠一の作風はより巧妙になり、初めて採用された鈴木茂の曲は大瀧・細野から上手く学んだ佳曲ですが、細野晴臣の作風の変貌ぶりには呆気にとられます。デビュー・アルバムでサイケデリックな「飛べない空」「敵タナトスを想起せよ!」を提供していたのと同一人とは思えない清涼感に富んだ「風をあつめて」「夏なんです」などを聴くと、本作では松本隆の歌詞が作曲に先行していたのではないかと思われます。アルバム・タイトル『風街ろまん』、A面を「A-風」、B面を「B-街」のネーミングはバンド内作詞家の松本隆以外のアイディアではないでしょう。そのコンセプトを作曲と演奏で具体化していったメンバーの理解力と力量も感服すべきで、レコーディング時にはフォーク系アーティストのバック・バンドとして多忙だったこともあり録音期間は3か月に及びましたが(前作は4日)、時間をかけただけはあったのです。
 2004年発売のボックス・セットでは歌詞は同じで曲違いのライヴ・テイクも発表され、歌詞先行のアルバム作りはほぼ間違いなさそうですが、気になるのはやはりなぜ『風街ろまん』か、ということです。はっぴいえんどのデビュー・アルバムの歌詞カードには「Special Thanks」として数十人のミュージシャン、文学者、画家、漫画家、映画監督、俳優らの名前が掲載されていました。はっぴいえんどが影響を受けたバッファロー・スプリングフィールドのアルバムの真似ですが、『風街ろまん』とはこうした文化人きどりな都会の裕福な大学生の感受性です。エレキ・グループやGSにはあった猥雑な不良性や、ハード・ロック系バンドはもちろんフォーク・クルセダーズやジャックスにもあった反逆性を回避してみせたのが『風街ろまん』で、村八分サンハウス、キャロルのような生粋のロックではありません。しかしはっぴいえんどのようなバンドは次々後を絶たないし、根絶やしにするにはもう手遅れでしょう。