人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

エリック・バードン&ジ・アニマルズ Eric Burdon & the Animals - ライヴ1966-1968 When We Were Young (Living Legend, 1988)

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エリック・バードン&ジ・アニマルズ Eric Burdon & the Animals - ライヴ1966-1968 When We Were Young / Live 1966-1968 (Living Legend, 1988) Full Album : https://youtu.be/AJyhwMdtouw
Tracks 1-4 recorded live in Stockholm, Sweden, January 18th, 1968
Tracks 5,6 recorded live in West Germany 1966
Tracks 7-12 recorded live in New York 1967
Released by Living Legend Records ‎- LLRCD 014, Italy, 1988 (Unofficial)
(Tracklist)
1. Yes I'm Experienced (Burdon, Briggs, Weider, Jenkins, McCulloch) - 4:40
2. San Franciscan Nights (Burdon, Briggs, Weider, Jenkins, McCulloch) - 9:34
3. Moneterey (Burdon, Briggs, Weider, Jenkins, McCulloch) - 16:18
4. 黒くぬれ!Paint It Black (M.Jagger, K.Richard) - 22:32
5. Tobacco Road (J.D.Loudermilk) - 27:02
6. Road Runner (Bo Diddley) - 29:46
7. Maudie (J.L.Hooker) - 32:36
8. 若き思い出 When I Was Young (Burdon, Briggs, Weider, Jenkins, McCulloch) - 35:24
9. Boom Boom (J.L.Hooker)- 38:06
10. What Am I Living For (Jay, Harris) - 40:26
11. 悲しき願い Please Don't Let Me Be Misunderstood (Benjamin, Marcus, Caldwell) - 42:42
12. 悲しき叫び We Gotta Get Out Of This Place (Mann, Weil) - 45:44
[ Eric Burdon & The Animals ]
Eric Burdon - vocal
Vic Briggs - guitar, piano, arrangements
John Weider - guitar, violin, organ
Danny McCulloch - bass
Barry Jenkins - drums

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 60年代ブリティッシュ・ビート5大バンド(ビートルズストーンズヤードバーズキンクスザ・フーは世代的にポスト・ブリティッシュ・ビートに入る)の中でもアニマルズはなまじ特大ヒット曲「朝日のあたる家」「悲しき願い」があるためにオールディーズの一発屋のようなイメージで見られがちなのではないでしょうか。ジェファーソン・エアプレインが「あなただけを」「ホワイト・ラビット」だけの印象でポップス寄りの流行サイケデリック・ロックのように思われがちなのと同じです。ビートルズストーンズキンクスザ・フーをシングル曲のベスト・アルバムまでで済ませても一応60年代の全貌が追えるのは所属レコード・レーベルが変わらなかったので網羅的な選曲が可能だからなのですが、一方アニマルズとなると実は60年代の全活動からまんべんなく選んだベスト・アルバムもありません。'70年代、'80年代の臨時再結成アルバムは除いても、アニマルズは60年代に英コロンビア原盤(米MGM発売)→英デッカ原盤(米MGM発売)→米MGM原盤・発売と三つのレコード会社を移籍しており、ヤードバーズの英コロンビア原盤権委託(米エピック発売→英コロンビア原盤(米エピックが)→米エピック原盤・発売と3期に版権が分かれるのと軌を一にしています。
 しかしヤードバーズは3期それぞれで1枚ずつの計3作、アメリカ編集のシングル集を含めても5枚しかアルバムを残せませんでしたが、アニマルズは英コロンビア時代に2枚(アメリカ盤はシングル曲を加えMGMからアルバム3枚)、英デッカ時代にアルバム1枚(アメリカ盤はシングル曲と新録音を加えMGMからアルバム3作)、米MGM原盤時代にアルバム4作と、アメリカ盤を基準にすると10作ものアルバムを残しています。1968年のラスト・アルバム『Love Is』に至っては2枚組LPです。アニマルズの転機はデッカ移籍時に起こり、米MGMの黒人プロデューサー、トム・ウィルソンによって一気に脱ブリティッシュ・ビートを果たしたロック・バンドに成長しました。ビートルズで言えば『Help !』『Rubber Soul』『Revolver』、ストーンズでは『Out of Our Head (米選曲版)』『Aftermath』『Between the Buttons』、ヤードバーズなら『Yardbirds (Roger the Engineer)』に相当する時期です。トム・ウィルソンはデトロイトでジャズのインディー・レーベル「Transition」1956~1957を主宰して音楽業界に入ったハーヴァード大学法科卒の異色の人物で、同レーベルはサン・ラ、セシル・テイラードナルド・バードらのデビュー・アルバムを世に送ったことでも知られます。ニューヨーク進出後のウィルソンはサン・ラやテイラーのニューヨーク進出を助けながら白人フォークのプロデューサーとしてボブ・ディランサイモン&ガーファンクルにNo.1ヒットをもたらし、アニマルズを手がけた頃はMGM傘下のヴァーヴ・レーベルでフランク・ザッパマザーズヴェルヴェット・アンダーグラウンドを担当していました。今回ご紹介するのはトム・ウィルソンによってエリック・バードン&ジ・アニマルズ名義でアメリカで再デビューした新生アニマルズの素晴らしいライヴ音源です。「朝日のあたる家」「悲しき願い」(後者は演っていますが)の湿っぽいイメージが吹き飛ぶ豪快な演奏が堪能できます。実はオリジナル・アルバムを聴けば、この方がアニマルズ本来の姿なのがわかります。

(Original Living Legend "When We Were Young / Live 1966-1968" LP Liner Cover & CD Label)

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 アニマルズのオリジナル・アルバムは次の通りになります。このうち4までは英米で選曲が異なり、5と6、9と10はアメリカとアメリカ経由のライセンス取得国のみ(ヨーロッパ諸国、日本)でのみ発売になったものです。
1●The Animals (1964; The Animals; US)/The Animals (1964; The Animals; UK)
2●The Animals on Tour (1965; The Animals; US)
3●Animal Tracks (1965; The Animals; UK)/Animal Tracks (1965; The Animals; US)
4●Animalisms (1966; The Animals; UK)/Animalization (1966; The Animals; US)
5●Animalism (1966; The Animals; US)
6●Eric Is Here (1967; Eric Burdon & The Animals; US)
7●Winds of Change (1967; Eric Burdon & The Animals)
8●The Twain Shall Meet (1968; Eric Burdon & The Animals)
9●Every One of Us (1968; Eric Burdon & The Animals; US)
10●Love Is (1968; Eric Burdon & The Animals; US)
11●Before We Were So Rudely Interrupted (1977; The Animals)
12●Ark (1983; The Animals)
 11と12は'70年代と'80年代の一時的再結成アルバム、また60年代作品でも6はエリック・バードンのソロ・アルバムなのですが(事情は後述)、10が2枚組LPなので10作としてもいいでしょう。アニマルズは当初ピアノ、オルガンのアラン・プライスをリーダーとするジャズ・バンド、アラン・プライス・コンボにヴォーカルのエリック・バードンが加わり1962年からアニマルズとしての活動を始めました。ライヴで叩き上げてきた実力はブリティッシュ・ビート・グループ中でも頭一つ抜きん出たものでした。オリジナル・メンバーはアラン・プライス(オルガン)、ヒルトン・ヴァレンタイン(ギター)、チャス・チャンドラー(ベース)、ジョン・スティール(ドラムス)、そしてエリック・バードンです。英コロンビア/米MGM時代のアルバム1~3がこのメンバーの前期アニマルズですが、前期の終わりには元々のリーダーだったプライスが自己のバンド、アラン・プライス・セット結成のため脱退し、後任オルガン奏者にデイヴ・ロウベリーが加入します。才能溢れる元リーダーのプライス脱退は痛手と思いきや、バンドはエリックを中心に結束力を強め英デッカ/米MGMに移籍した4と5の中期アニマルズはトム・ウィルソンのプロデュースの下により充実したアルバムを制作します。英デッカ盤『Animalisms』にシングル曲、新録音を加えて米MGMから『Animalization』『Animalism』をリリースしたバンドは活動の拠点をアメリカに移し、『Animalism』はアメリカのみのリリースとなってオリジナル・ドラマーのスティールが脱退、バリー・ジェンキンズが加入し、またベースのチャンドラーがアメリカ・ツアー中にジミ・ヘンドリックスを見出しジミのマネジメントとプロデュースのために脱退を表明するなど、バンドは一旦解体されてエリックのソロ・アルバム6がエリック・バードン&ジ・アニマルズ名義で発表されます。
 原盤制作も米MGMに移籍し、アメリカを拠点に本格的に再編成されたバンドはエリック・バードン&ジ・アニマルズ名義となり、いずれも佳作、秀作、傑作、名作の部類に入る7~10を生み出しました。この後期アニマルズのオリジナル・ラインナップはエリック、ヴィック・ブリッグス(ギター、ピアノ、アレンジメント)、ジョン・ウェイダー(ギター、ヴァイオリン、オルガン)、ダニー・マカロック(ベース)、ジェンキンズ(ドラムス)の強力な5人でしたが、9ではエリックが惚れ込んだズート・マネー(キーボード)が加入し、マネーにアレンジャーの座を逐われたブリッグスが脱退してマネーのバンドのギタリストだったアンディ・サマーズが加入します。この最終ラインナップが制作した2枚組LPの大作が10『Love Is』で、英デッカ時代の5, 6と並んで最高傑作に上げる評者も多いアルバムです。7~10は完全にブリティッシュ・ビートから脱した重厚なロック・アルバムで、7『Winds of Change』、8『The Twain Shall Meet』なども斬新なブルース・ルーツのサイケデリック・ロックの名作です。アンディ・サマーズはアニマルズ解散後ソフト・マシーンに加わり、10年間の潜伏期を経てポリスのギタリストとして再デビューします。この後期アニマルズはアメリカに渡ったためにイギリスのリスナーからは評判が悪く、9, 10はアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本のみのリリースで長らくイギリス発売されませんでした。今回ご紹介したライヴ音源では1, 2, 4がアルバム7からの曲で2「San Franciscan Nights」は全米9位のヒット曲です。1がジミ・ヘンドリックスの『Are You Experienced ?』へのアンサー曲、4がかつての好ライヴァル、ストーンズ曲の激烈カヴァーなのは言うまでもないでしょう。3はアルバム8収録で全米15位のヒット曲、アルバム7と同時期のアルバム未収録シングル曲8も全米15位のヒットとなっています。9はアルバム2のオープニング曲でジョン・リー・フッカー、6はアルバム3収録曲でボ・ディドリーのカヴァー。7と10もカヴァーでアルバム4の収録曲。5はアニマルズの公式録音がありませんがジェンキンズの在籍していたナッシュビルティーンズがヒットさせ無数のバンド(日本でもジャガーズモップスなど)が取り上げていたロック・クラシックで、アニマルズ解散後のエリック・バードン&ウォーやソロ・アルバムで何度も再演する定番曲。11は全米32位/全英7位、12は全米13位/全英2位のヒット・シングルでイギリス盤はアルバム未収録ですがアルバム3のアメリカ選曲版に収録されています。ヒット実績ではビートルズストーンズに次ぎ、キンクスザ・フーに60年代では大きく差をつけ、ヤードバーズなどおよびもつかないビッグ・ネームだったのですが、熱唱型ヴォーカリスト、エリック・バードンの存在感がかえって古いタイプのバンドに見せているのは、傑出したギタリストを歴代で3人も擁したヤードバーズの再評価と裏腹をなしています。60年代アニマルズのアルバム10作はどれも好作品ですが公式ライヴ・アルバムはないので(ヤードバーズと同じくソニー・ボーイ・ウィリアムソンのイギリス公演のバック・バンドを勤めたものはありますが)、非公式のたぶんラジオ放送用音源を集めたものながらアルバム1枚分に渡って中期~後期アニマルズのライヴが聴ける本作はさらに増補した公式発売が望まれます。ですがやはり皮肉なことにゼムやスモール・フェイセズなど活動中には不遇だったバンドの方が未発表録音、発掘ライヴの公式アルバム化が進んでいるのです。