人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

X - ワイルド・ギフトWild Gift (Slash, 1981)

イメージ 1

X - ワイルド・ギフトWild Gift (Slash, 1981) Full Album : https://youtu.be/y0-kM5XxhqU
Recorded at Clover Recorders, Los Angeles, Golden Sound Studios, Hollywood, March 1981.
Released by Slash Records SR-107, May 1981
Billboard Pop Albums #165
Produced by Ray Manzarek
All tracks written by John Doe and Exene Cervenka except A2 and A3.
(Side one)
A1. The Once Over Twice - 2:31
A2. We're Desperate (Billy Zoom) - 2:00
A3. Adult Books (Billy Zoom) - 3:19
A4. Universal Corner - 4:33
A5. I'm Coming Over - 1:14
A6. It's Who You Know - 2:17
(Side two)
B1. In This House That I Call Home - 3:34
B2. Some Other Time - 2:17
B3. White Girl - 3:27
B4. Beyond and Back - 2:49
B5. Back 2 the Base - 1:33
B6. When Our Love Passed Out on the Couch - 1:57
B7. Year 1 - 1:18
[ X ]
John Doe - bass, vocals, artwork
Exene - vocals, artwork
Billy Zoom - guitar
D.J. Bonebrake - drums

(Original Slash "Wild Gift" LP Liner Cover & Side one Label)

イメージ 2

イメージ 3

 ロサンゼルス・アンダーグラウンド・シーンの生んだ先駆的パンク・バンドXはメンバー闘病中の現在も散発的に活動していますが、一旦解散するまでのスタジオ録音アルバムは'80年代アメリカン・パンクの代表的作品として現在でも高い評価を受けています。

・1980; Los Angeles (英インディー#14) Slash, Produced by Ray Manzarek
・1981; Wild Gift (ビルボード#165) Slash, Produced by Ray Manzarek
・1982; Under the Big Black Sun (ビルボード#76) Elektra, Produced by Ray Manzarek
・1983; More Fun in the New World (ビルボード#86) Elektra, Produced by Ray Manzarek
・1985; Ain't Love Grand! (ビルボード#89) Elektra, Produced by Michael Wagener
・1987; See How We Are (ビルボード#107) Elektra, Produced by Alvin Clark

 このうち最初のスラッシュ盤2枚はインディー・レーベル作品、3作目からはメジャーのエレクトラ盤になります。言うまでもなくプロデューサーのレイ・マンザレクがリーダーだったザ・ドアーズを世に送ったレーベルです。80年代のエレクトラアンダーグラウンド・パンクからはX、アンダーグラウンド・メタルからはメタリカを送り出したレーベルでした。スラッシュ盤のデビュー・アルバム『ロサンゼルス』は現在も主要な音楽ジャーナリズムから高い評価を受けています。各種メディアのアルバム・ガイドの評価では、
・AllMusic [ ★★★★★ ]
・Christgau's Record Guide [ A- ]
・Entertainment Weekly [ A ]
・The Rolling Stone Album Guide [ ★★★★☆ ]
・Spin Alternative Record Guide [ 9/10 ]
・Uncut [ ★★★★★ ]
 となり、発売時にはヴィレッジ・ヴォイスの年間ジャズ、ロック、ポップスアルバム投票で16位に、また1989年のローリング・ストーン誌の「80年代のベスト・アルバム100」では24位、ピッチフォーク・メディアの「80年代のトップ・アルバム100」では91位、2012年のスラント・マガジン誌の「1980年代ベスト・アルバム」でも98位と'80年代ロック名盤の定番アルバムになっています。2003年のローリング・ストーン誌のオールタイム・ベストアルバム500選では286位、アルバム表題曲「Los Angeles」は2009年度発表の「ロックの殿堂ベスト500曲」に選出されました。
 セカンド・アルバム『ワイルド・ギフト』は『ロサンゼルス』と同等以上の高い評価を受けており、
・AllMusic [ ★★★★★ ]
・Christgau's Record Guide [ A+ ]
・Entertainment Weekly [ A ]
・Rolling Stone [ ★★★★☆ ]
・The Rolling Stone Album Guide [ ★★★★★ ]
・Spin Alternative Record Guide [ 10/10 ]
 とほとんど満点に近い評価を勝ち得ています。発売時にはヴィレッジ・ヴォイスの年間ジャズ、ロック、ポップスアルバム投票で2位に(1位はクラッシュ『サンディニスタ』)、さらにアメリカ国産アルバムとしてローリング・ストーン誌、ロサンゼルス・タイムズ紙、ニューヨーク・タイムズ紙、ヴィレッジ・ヴォイス誌から「レコード・オブ・ジ・イヤー」に選ばれてカヴァー・インタビューを飾る出世作となっています。また2003年のローリング・ストーン誌のオールタイム・ベストアルバム500選では334位に選出されました。アルバム単体としての評価は『ロサンゼルス』より高いものの、「'80年代ロックを代表する作品」としての歴史性ではデビュー・アルバム『ロサンゼルス』と2択で『ロサンゼルス』に軍配が上がるようです。ザ・ドアーズのデビュー・アルバム('67.1)とセカンド・アルバム『まぼろしの世界』'67.9はほとんど均質な双子のような作品で、アレンジ力の向上や完成度ではセカンド・アルバムの方が高いのですが1作となるとデビュー・アルバムのインパクトの方が選ばれるのと同じ事情でしょう。似たような例は13thフロア・エレヴェーターズのデビュー作とセカンド、ブラック・サバスのデビュー作とセカンドなどの数々を思いつきますが、Xのデビュー作とセカンドは2 in1CDでもトータル61分しかないのです。

(Includes two-sided black and white printed inner sleeve with lyrics)

イメージ 4

イメージ 5

 Xはミニマム・ミュージックと言ってもいいくらい少ない構成要素をささっと演奏するクールなバンドなので、ドラマチックでダイナミズムを強調したがるブリティッシュ・ロックの愛好者が多い日本ではもっとも好まれない音楽性のバンドと言えるでしょう。短調の曲もほとんどありませんしビートもストレートなロックンロールです。アメリカ本国での絶大な評価はむしろそこにあるので、ビートルズ以降のロックはイギリスとアメリカ(アメリカ国内においては白人と黒人)のアイディアのキャッチボールから発展してきました。優れた成果も多く生まれましたがロックンロールの原産国アメリカとしては輸入加工再輸出国イギリスにはおもしろくない感情もあったわけです。パンク・ロックにしてもポップ・アート的なガレージ・ロックとしてニューヨークで発生したものにイギリス人が目をつけて尖鋭化させたもので、それがイギリスでは既成ロックの否定という尾鰭がついたのでは本末転倒でしょう。
 アメリカのパンクには既成ロック否定どころかロックンロールのルーツ回帰、ロックンロール・リバイバルという側面も大きかったのです。ラモーンズがそうですしブロンディもそうでした。スーサイドやクロームのような極端なバンドですらその側面がありました。商業都市ロサンゼルスのバンドには東海岸ニューヨークのバンドのアート指向や同じカリフォルニアでもサンフランシスコのようなエスケイピズム的指向でもなく、むしろ北部の工業都市シカゴに近いプロフェッショナリズムがありましたから、女性ヴォーカルのエクシーンを迎えなければ親好のあったクロームのような方向に行っていたかもしれないバンドは「ラモーンズ・ミーツ・ロカビリー」というアイディアから「ロカビリー風のスージー&ザ・バンシーズ、またはよりパンクなB52's」に近い、しかもからっとした楽曲を持ち味とするバンドになったのです。本作の名曲「Beyond and Back」は1997年発売のCD2枚組レトロスペクティヴ・アンソロジーの表題曲にもなった代表曲ですが、前作の名曲「Johnny Hit and Run Paulene」とほとんど同じ曲です。一部の曲でレイ・マンザレクがオルガンで客演した前作に対して本作は完全に3ピースのギターバンドのサウンドで曲はよりシンプルに、かつ短い曲ばかりにまとめています。メジャーのエレクトラ移籍第1作になる次作ではバンドの音はヘヴィな方向に向かうので、スラッシュ時代の2作は一対のものとして見事なスタイルをデビューから披露してみせたものでしょう。2001年版の現行CD(Rhino盤)は2作それぞれにレトロ・アンソロジーで発掘されたレア・テイクをボーナス収録して単独発売していますが、1988年の初CD化(Slash盤)は2作をカップリングした2 in1仕様でお徳用です。レア・テイクやサード以降の代表曲まで聴きたければ2枚組アンソロジー『Beyond and Back; The X Anthology』で補えます。未だに日本盤未CD化のXですが、アナログ時代のエレクトラ盤LP発売も'80年代の日本ではほとんど(まったく)話題になりませんでした。さて今日本のリスナーはXをどう聴けるでしょうか。