人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

カトリーヌ・リベロ+2Bis Catherine Ribeiro + 2Bis (Festival, 1969)

カトリーヌ・リベロ+2Bis/カトリーヌ・リベロ+アルプ - N゚2 (Festival, 1969/1970)

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カトリーヌ・リベロ+2Bis Catherine Ribeiro + 2Bis (Festival, 1969) Full Album (expect A2) : https://www.youtube.com/playlist?list=PLMg-rA_eCSBhZnbZPwW1QMlZmtwNvOr55
Released par Festival FLDX487, 1969
Tous les textes sont ecrits par Catherine Ribeiro et mis en musique par Patrice Moullet.

(Face 1)

A1. 緑の光 Lumiere Ecarlate - 3:58
A2. レースの姉妹 Soeur De Race - 2:40 *YouTube not include
A3. カラボスの料金 Les Fees Carabosse - 5:20
A4. 旅 Voyage 1 - 5:30

(Face 2)

B1. 孤独 La Solitude - 2:59
B2. 笑顔、笑い、チップ Un Sourire, Un Rire, Des Eclats - 3:58
B3. 神の子の犯罪 Le Crime De L'Enfant Dieu - 4:30
B4. スパークリング・ポイント Le Point Qui Scintille - 5:58

[ Catherine Ribeiro + 2Bis ]

Catherine Ribeiro - chant
Patrice Moullet - cosmophone, guitare classique
Bernard Pinon - trompette marine electrifiee
Alain Aldag - percussions, orgue
Gerard Lambert - 2nde guitare

(Original Festival "Catherine Ribeiro + 2Bis" LP Liner Cover & Face 1 Label)

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 ゴングやマグマ、アンジュと並び1970年代のフランスを代表する大物ロック・バンド、カトリーヌ・リベロ + アルプのアルバムは先に傑作と名高い第3作『Ame debout 』1971と第4作『Paix』1972をご紹介しました。これが案外閲覧してくださる方が多く、筆者自身もカトリーヌ・リベロ(1941-)についての邦語文献など旧『マーキー』誌の特集記事とそれを増補した『フレンチ・ロック集成』(1994年刊)くらいしか見たことがありません。インターネットの普及でようやく海外文献に当たれるようになったのは2000年代以降になってからです。リベロはアルプ以前の1964年~66年にはフォーク・ロックのポピュラー歌手、1977年以降はシャンソン歌手としてソロ活動をしていますが、ロック時代のカトリーヌ・リベロ + アルプのアルバム・ディスコグラフィーは以下の通りです。*をつけたものはコンピレーション・アルバムになります。

1969 : Catherine Ribeiro + 2bis (LP Festival FLDX487)
1970 : Catherine Ribeiro + Alpes - N゚2 (LP Festival FLDX531)
1971 : Ame debout (LP Philips 6325 180), (CD Mantra 642 091)
1972 : Paix (LP Philips 9101 037), (CD Mantra 642 078)
1974 : Le Rat debile et l'Homme des champs (LP Philips 9101 003), (CD Mantra 642 084)
1975 : (Libertes ?) (LP Fontana 9101 501), (CD Mantra 642 083)
*1975 : La Solitude, double album correspondant aux 2 bis et N゚2 (Compilation, Festival / Musidisc ALB 284)
1977 : Le Temps de l'autre (LP Philips 9101 155)
1979 : Passions (LP Philips 9101 270)
1980 : La Deboussole (LP Philips 6313 096), (CD Mantra 642 088)
*1988 : Catherine Ribeiro + Alpes, Master Serie (Compilation, CD Polygram 842 159-2)
*1988 : Catherine Ribeiro + Alpes (Compilation, double CD Polygram 842 160-2)
*2004 : Libertes ? (Compilation, Long Box 4 CD Mercury 982 36569)
2007 : Catherine Ribeiro chante Ribeiro Alpes - Live integral (double CD Nocturne NTCD 437)
*2012 : Catherine Ribeiro + Alpes 4 Albums Originaux : fondamentaux "Catherine Ribeiro + Alpes - N゚2", "Ame Debout", "Paix", "Le Rat debile et l'Homme des champs". (Compilation, 4CD en coffret chez Mercury Records 279 506-0)
*2015 : Catherine Ribeiro + Alps - Integrale des Albums Originaux 1969-1980 9CD, Universal, 2015

 デビュー作ではバンド名は2Bisでしたが、アルプ名義の初アルバムが『N゚2』(No.2)なので実質的には2Bisがカトリーヌ・リベロ + アルプのデビュー・アルバムとされています。他のメンバーの移動は頻繁でしたが、アルプはリベロとバンドリーダーのパトリス・ムレ(1946-)のバンドでした。75年の『(Libertes?)』でアルプは一旦活動休止し、以降後期のアルプはリベロシャンソン歌手活動と平行して行われ、1980年のアルプ解散アルバム以降リベロは完全にシャンソン歌手に転向しました。リベロの音楽活動全体を知るなら4枚組ボックス・セット『Libertes?』2004があり、アルプの名作は第2作『N゚2』から第6作『(Libertes?)』で、第2作~第5作の4枚組セットが2012年に発売されています。2015年にはようやく全オリジナル・アルバムの9枚組ボックス・セットが発売されましたが、名盤『(Libertes?)』の単体発売は1994年の廃盤CDを探すしかありません。

 2007年のアルプ復活コンサートのライヴ盤はムレは参加していない、シャンソン歌手として大成したリベロが一夜限りアルプ時代の曲のみを披露したスペシャル・コンサートなので、バックバンドは普通のロック・バンド然とした演奏をしており、リベロのヴォーカルもアルプ時代の色、艶、伸びは失われています。シャンソン歌手として大成しはしましたが、ロック歌手としては'70年代でやり尽くした観があります。アンジュのクリスチャン・デュカンがシャンソンからスタートしながら今でもバンドで衰えのないヴォーカルを聴かせているのに対して、リベロにとってアルプでやっていたロックとシャンソンは別物だったということでしょう。また完全な転向をしなければ大成しないほどシャンソンの世界は厳しかったとも言えます

 今ではYouTube日本版によって各種アルバムも試聴できるようになりましたが、英米以外のロック3大国といえるドイツ、イタリア、フランスのうちフランスのバンドは'70年代のうちは国際進出にしくじり、'90年代以降もドイツやイタリアの多くのバンドのようには再評価が進んでいません。特にリベロ+アルプのアルバムは'90年代初頭にCD化されたものの廃盤か限定再発、または通信販売のボックスセットくらいでしか入手が困難で、情報も少なければ聴こうという人も限られてきます。前記2アルバムは英米圏でも代表作とされていますので全曲サイト上にアップされていますが、他にほぼ全曲が試聴できるアルバムは第6作『(Libertes ?)』までになります。後期アルプではリベロはソロによるシャンソン歌手活動やアルバム制作も平行しており、この時期のアルプのアルバムは『Le Temps de l'autre』1977、『Passions』1979ですが、アルプ最終作『La Deboussole』1980は解散記念作品として作られたものでした。

 話を戻せば70年代でもオランダのショッキング・ブルーやアース&ファイア、ゴールデン・イアリングやフォーカスほどにも国際的成功をおさめたバンドはフランスからは出ませんでした。ゴング、マグマ、アンジュ、リベロ+アルプはオリジナリティ、力量、音楽的スケールでは世界的にもトップクラスのバンドと'70年代当時すでに定評があったものの、フランスのロックはドメスティックな嗜好に徹するか(アルプ、アンジュ)、徹底的に独自の無国籍性を追求するか(ゴング、マグマ)、さもなければ実験音楽系になるか(エルドンなど)で、何もそこまで極端に分かれなくてもいいと思いますが、どのフランスのロック・アーティストにも言えるのが英米ロック的なエイト・ビートのリズム・セクションを避けていることでしょう。疾走感のあるエイト・ビートを演奏していたバンドはかろうじてタイ・フォンとアトールくらいしかいません。'70年代のロック・ミュージシャンはアマチュア時代はジャズやブルースを演奏していた例が多いのですが、英米独伊のロック・ミュージシャンはジャズやブルースの素養の上にロックならではのリズム・アンサンブルを演奏しているのに対して、フランスのロック・ミュージシャンはロックをやってもジャズやブルースをシャンソン解釈した感覚のままで演奏している例が目立ちます。ゴングとマグマは多少なりとも英米進出を果たしましたが、リズム・セクションがジャズのままなのが十分な成功を妨げたとも言えます。アンジュはドメスティックなヴォーカル中心のロック・テアトル(演劇的ロック)と呼ばれる非対称的・非可塑的リズムが特徴でしたし、カトリーヌ・リベロ+アルプはドメスティックと言っても純粋なシャンソンよりもジプシー音楽とフリー・フォームのアシッド・フォークから発生したもので、本人たちがロック・グループと標榜しなければジャンル分けに困るような音楽性を持っていました。まだしもアンジュは標準的ロック・バンド編成でしたからフランス版ジェスロ・タルまたはジェネシス、と言えば何となくイメージがつかめます。しかしリベロ + アルプは例えに窮する音楽性です。同時代の実験的シャンソニエでは日本でのみ特別な知名度があるブリジット・フォンテーヌがいますが、フォンテーヌは異端とはいえシャンソンの土壌から出てシャンソン歌手として活動していました。

 リベロゴダールの映画『カラビニエ』1963の娼婦役がデビューの女優出身ですが他に代表作といえるほどの出演映画はない、ファッションモデルが仕事の中心だったようです。1964年からフォーク・ロック歌手としてEP(現在で言うマキシ・シングル。33 1/3prm、A面2曲・B面2曲が標準)デビューし、ボブ・ディランの曲のフランス語詞カヴァーと自国ライターの書き下ろし曲のカップリングで64年と65年に1枚ずつ、66年に2枚の計4枚・16曲をリリースしています。次にリリースされたのは通常の45rpmシングルで、1969年にパトリス・ムーレ(作編曲・コスモフォン、クラシック・ギター)をリーダーとするバンドと組んだ『Aria / La solitude』(avec 2Bis S-Festival 878)で、B面は2BisのB1ですが、A面はアルバム未収録の上ボックス・セットにも入っておらず、再録音のライヴ・テイクは'70年代初頭のフランスのアンダーグラウンド・ロックのオムニバス・アルバム『Puissance 13+2』1971に収録されていますので、同オムニバス・アルバムからの「Aria」が聴けるリンクを引きます。タイトル通り歌詞のないヴォーカリーズ曲になっています。
◎Catherine Ribeiro + 2Bis - Aria : https://youtu.be/Qs38yLCnAnc

 フォーク・ロック歌手時代の曲は割愛しますが、若い女性歌手なら誰が歌ってもいいようなもので、パトリス・ムレと組んだバンドで初めてリベロならではのヴォーカル・スタイルの萌芽が見られたのがわかります。ポピュラー・ヴォーカルから一気にシャンソンに向かったのではなく、リベロが歌手、ムレがバンドリーダーとしてのロック・グループとしての出発が『2Bis』であり、アルプが本人たちにとってシャンソンの伝統とは異なる地点から始まったものだったのがうかがえます。アンジュのようにシャンソンのロック化としてアルプが活動していたのなら、あえて後年のリベロシャンソンへの転向を計る必然はなかったのです。残念ながらリンク先ではアルバム全8曲中A2だけがカットされていますが、1969年のデビュー・アルバム『Catherine Ribeiro + 2Bis』発売と同時にA2とA4がシングル・カットされています。まだゴングもマグマもアンジュもデビューしていない時期でした。リベロとムレが先行作品として参考にしたのは『ティム・バックリィ』(66年10月発売/エレクトラ)、『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』(1967年3月/ヴァーヴ)、ティム・バックリィ『グッドバイ・アンド・ハロー』(67年9月/エレクトラ)、ニコ『チェルシー・ガール』(67年10月/ヴァーヴ)、ニコ『マーブル・インデックス』(68年11月/エレクトラ)、ティム・バックリィ『ハッピー・サッド』(69年3月/エレクトラ)などでした。『ハッピー・サッド』は時期的に遅いのですが、1968年秋のヨーロッパ・ツアーで同アルバム収録曲はほぼ完成したアレンジで披露されており(発掘ライヴ盤『ドリーム・レター』1990で聴けます)、フォーク・ロックを発展させてフリー・フォームに到達した先例は『マーブル・インデックス』と『ハッピー・サッド』がありました。ですがこれはあまりに個人的なスタイルなのでサウンド自体はアーティストごとにまったく異なります。デビュー作『2Bis』ではまだポルトガル移民リベロのジプシー系フォーク色の方が強く出ています。ドロドロのサイケデリック・フォークになるのは『N゚2』からでした。リベロ+アルプより少し遅れてイタリアではアシッド・ロック系カンタウトーレの登場があり、クラウディオ・ロッキ『魔術飛行』1971、アラン・ソレンティ『アリア』1972、マウロ・ペローシ『死に至る病』1972がよく知られますが、アラン・ソレンティの妹ジェニー・ソレンティがヴォーカリストサン・ジュスト『湖畔の家』1974などはリベロ+アルプと極めて近いアルバムです。
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カトリーヌ・リベロ+アルプ Catherine Ribeiro + Alpes - N゚2 (Festival, 1970) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLiN-7mukU_REhU5mTeAQ8Cqi7XBi7VvJt
Released par Festival FLDX531, 1970
Textes par C. Ribeiro, Musique par P. Moullet.

(Face 1)

A1. プレリュード Prelude (instrumental) - 0:17
A2. シルバ Sirba - 5:41
A3. 1970年8月15日 15 aout 1970 - 4:20
A4. シレーヌのキャシー Silen Voy Kathy - 7:20
A5. プレリュード Prelude (instrumental) - 0:25

(Face 2)

B1. プレリュード Prelude (instrumental) - 0:29
B2. 叙事詩ならざる詩 Poeme non Epique - 18:36
B3. アグアスのバラッダ Ballada Das Aguas - 3:29

[ Catherine Ribeiro + Alpes ]

Catherine Ribeiro - chant
Patrice Moullet - cosmophone, guitare classique, orgue, chant(sur Sirba)
Denis Cohen - orgue, percussions
Isaac Robles Monteiro - guitare portugaise (sur le dernier titre)
Pires Moliceiro - guitare portugaise (sur le dernier titre)

(Original Festival "Catherine Ribeiro + Alps - N゚2" LP Liner Cover & Face 1 Label)

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 この第2作から本格的にアルプならではの音楽が始まります。短いインストの前奏曲A1に続くA2から、デビュー作よりぐっとヘヴィでダークなサウンドとヴォーカル・スタイルに深化しているのがわかります。オルガンとパーカッション、クラシック・ギターの使われ方も効果的ですが、このアルバムの白眉は18分半におよぶフリーフォーム・ロックのB2「Poeme non Epique」でしょう。これは結果的に三部作に発展し、のちにアルプは第5作に続編「Poeme non Epique (suite)」25分半、第6作に完結編「Poeme non Epique III」22分半を収録することになります。パトリス・ムレによる改造楽器コスモフォンとパーキュフォンの本格的使用も本作からです。電気式ピックアップを搭載したエレクトリック・ヴィオラ・ダ・ガンバ(ヴィオール)、しかも通常の6弦ではなく共振弦を増やして24弦にしてあるというのがコスモフォンで、256音の音色が駆使できる電子パーカッションがパーキュフォンです。「Poeme non Epique」は全編でコスモフォンとパーキュフォンのサイケデリックな演奏に、明確なメロディ・ラインを持たないリベロの歌と語りを行き来するヴォーカリゼーションが呼応していきます。ティム・バックリィやニコと同じエレクトラ所属のザ・ドアーズ「ジ・エンド」11分40秒(1967年1月のデビュー作に収録)、「音楽が終わったら」10分58秒(1967年9月発表の第2作収録)や、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの第2作収録の「シスター・レイ」17分半(68年1月)のアルプ版ヴァージョンとも言えますが、このヘヴィさはジャーマン・ロックのアモン・デュール『サイケデリックアンダーグラウンド』1969、タンジェリン・ドリーム『エレクトロニック・メディテーション』1970、アシュ・ラ・テンペルのファースト(1971年)に近く、フランスのロックではエルドンの第5作『終わりのない夢』1976まで現れないスタイルでした。アルプ自身も第3作と第4作ではもっと瞑想的なスタイルに向かいますが、第5作と第6作では攻撃的な『N゚2』の作風に回帰します。2年のブランクとリベロシャンソン歌手活動兼業があった第7作~第9作(第9が最終作!)はもっとポピュラーなスタイルになるので、「Poeme non Epique」三部作を含んだ3作がリベロ + アルプの真骨頂とするのは妥当だと思われます。

(旧稿を改題・手直ししました)