人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ラヴィン・スプーンフル The Lovin Spoonful - 魔法を信じるかい? Do You Believe in Magic (Kama Sutra, 1965)

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ラヴィン・スプーンフル The Lovin Spoonful - 魔法を信じるかい? Do You Believe in Magic (Kama Sutra, 1965) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PL94gOvpr5yt2skswtc0ZnKE6kdpz6NBqJ
Recorded in June 1965 - September 1965, NYC
Released by Kama Sutra Records Kama Sutra KLP/KLPS-8050, November 1965 / US#32(Billboard)
Produced by Erik Jacobsen
(Side One)
A1. 魔法を信じるかい? Do You Believe in Magic (John Sebastian) : https://youtu.be/aDvd3NjBqkg - 2:07 / US#9(Billboard)
A2. ブルース・イン・ザ・ボトル Blues in the Bottle (Traditional) - 2:12
A3. きままな暮らし Sportin' Life (Traditional) - 4:04
A4. マイ・ギャル My Gal (Traditional) - 2:38
A5. ユー・ベイビー You Baby (Barry Mann, Phil Spector, Cynthia Weil) - 2:56
A6. フィッシン・ブルース Fishin' Blues (Traditional) - 2:02
(Side Two)
B1. 心に決めたかい? Did You Ever Have to Make Up Your Mind? (J.Sebastian) - 1:59 / US#2(Billboard)
B2. 恋はワイルド Wild About My Lovin' (Traditional) - 2:36
B3. 人生の裏側 Other Side of This Life (Fred Neil) - 2:30
B4. ヤンガー・ガール Younger Girl (J.Sebastian) - 2:20
B5. オン・ザ・ロード・アゲイン On the Road Again (J.Sebastian) - 1:51
B6. ナイト・アウル・ブルース Night Owl Blues (Steve Boone, Joe Butler, J.Sebastian, Zal Yanovsky) - 3:05
[ The Lovin' Spoonful ]
John Sebastian - vocals, guitar, autoharp, harmonica, organ
Steve Boone - bass, vocals
Joe Butler - drums, percussion, vocals
Zal Yanovsky - electric and acoustic guitar, vocals

 ニューヨーク出身のフォーク・ロック・グループ、ラヴィン・スプーンフルはオリジナル・メンバーによる活動期間こそ足かけ3年正味2年程度と全盛期は短命ながら、オリジナル・スタジオ・アルバム4作、サウンドトラック・アルバム2作、バンド名義のソロ・プロジェクト作品1作と録音作品に実りの多かったバンドです。バンドはニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジで活動していたシンガー・ソングライターでマルチ・プレイヤーのジョン・セバスチャン(1944-)が音楽仲間のキャス・エリオット(のちママス&パパス)の紹介で知りあったカナダ生まれのボヘミアン・ギタリストのザル・ヤノフスキー(1944-2002)と意気投合し、セバスチャンと同じアパートに住んでいたミュージシャンでプロデューサーのエリック・ジェイコブソン(1940-)の励ましで結成に向かい、ベースにスティーヴ・ブーン、ドラムスにヴォーカルもとれるジョー・バトラー(1941-)を迎えてオリジナル・メンバーが揃いました。ラヴィン・スプーンフル名義の初録音は4曲のみをエレクトラ・レーベルの白人若手ミュージシャンによるブルースのオムニバス・アルバム『What's Shakin'』1966のために1965年初頭に提供し、本格的には1964年にMGMレコーズ傘下に創設された新興レーベル、カーマ・スートラ・レコーズ(1969年にはブッダ・レコーズと改称)と契約して1965年7月に初シングル「Do You Believe in Magic (魔法を信じるかい?)」で全米デビューします。同シングルが最高位9位(カナダでは最高位3位)の大ヒットになり、新興レーベルのカーマ・スートラは新世代のバブルガム(ティーンエイジャー向け)・ミュージックに力を入れることになります。
 スプーンフルの成功は専属プロデューサーとしてバンドの5人目のメンバーとも言えるジェイコブソンごとカーマ・スートラ・レーベルと契約できたことも大きいでしょう。名字や容貌からも一目瞭然ですが、ニューヨークの後輩バンド、ヤング・ラスカルズがイタリア移民系メンバーのバンドだったようにスプーンフルはユダヤ系移民メンバーのバンドでした。セバスチャン、ヤノフスキー、ジェイコブソンがその核だったわけで、ジェイコブソンというアマチュアリズムとプロのアーティスト意識の両立について共通したセンスを持つプロデューサーの理解があってこそスプーンフルは優れたアルバムを残せたと言えるでしょう。

(Original Kama Sutra "Do You Believe in Magic" LP Liner Cover & Side One Label)

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 スプーンフルの幸運は、やはり先輩格のニューヨークのフォーク・ミュージシャン出身者によってロサンゼルスで結成されたザ・バーズが1965年4月のデビュー・シングル「Mr.Tambourine Man」でNo.1ヒットを飛ばし(同名のデビュー・アルバムは6月発表)、作者のボブ・ディランも含めフォーク・ロックが注目を集めてディランのアルバム『Bringing It All Back Home』(1965年3月発表)と『Highway 61 Revisited』(8月発表)の大ヒットと後者からの先行シングル「Like A Rolling Stone」がやはりNo.1ヒットを記録し、またビーチ・ボーイズも絶頂期の傑作アルバム『The Beach Boys Today !』(1965年3月発表、全米4位)、『Summer Days (And Summer Night)』(7月発表、全米2位)、『Beach Boys' Party』(11月発表、全米6位)と前年ビートルズを始めとするイギリスのバンドに席巻されたアメリカのポップ・マーケットにアメリカ本国のアーティストによる巻き返しが起こっていたことです。1964年7月のビートルズは映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』とそのサントラ盤でしたが、1965年7月のビートルズの最新ヒットは映画『4人はアイドル(ヘルプ)』とそのサントラ盤でした。1965年のローリング・ストーンズのヒット・シングルは「Last Time」(2月)、「Satisfaction」(5月)、「Get Off Of My Cloud」(10月)でしたから、イギリスのバンドとアメリカのバンドでは音楽の風向きがかなり変わってきていたのです。スプーンフルはレコード・デビュー前からクラブの箱バンで叩き上げてきたバンドでしたから演奏力は高く、セバスチャンの父がプロ・ミュージシャンだったこともあってまだポップスと認知されていなかった時代のフォーク、ブルース、ジャズ、リズム&ブルース、カントリーのスタンダード曲に精通していました。
 デビュー・アルバムではメンバーのオリジナル曲は多くありませんがセカンド・アルバムでセバスチャンの作詞作曲家としての才能は一気に開花します。「Do You Believe in Magic」もモータウン・レーベルのマーサ&ザ・ヴァンデラスのヒット曲「Heat Wave」のコード進行から発想したそうでセバスチャンらしい粋なセンスが伺うことができ、またスプーンフルのアメリカ民謡調の曲想とアンサンブルはジャグバンド・スタイルと呼ばれるものでイギリスのバンドにはなかったもので、スプーンフルから逆影響を受けたイギリスの先輩バンドがフォーク・ロック化した後のザ・キンクスになります。スプーンフルは1967年初夏にはザル・ヤノフスキーがトラブルから脱退せざるを得なくなり、ジェイコブソンもバンドから離れ、続く4作目のアルバムのリリース後にはセバスチャンも脱退して実質的に解散してしまいます。1960年代のバンドはおおむね短命で、流行のサイクルは'70年代以降より急激でアーティストの多くは消耗品のような活動を余儀なくされました。じっくりと長期的な活動を睨んでいた'60年代バンドはストーンズグレイトフル・デッドくらいだったでしょう。スプーンフルほど才能に溢れたバンドですら短命な活動に終わったのは惜しまれますが、それを言えばビートルズという化け物が同時代には君臨していたのです。