人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - Live at Boston Tea Party (Dec.12, 1968)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - Live at Boston Tea Party (Dec.12, 1968) : https://youtu.be/7YbDOQ3WMTE
Recorded live at Boston Tea Party, December 12 (1st Set), 1968
Unofficially Released by Keyhole Records (2CD, Remasterd) KH2CD9013, 2014
All Songs written by Lou Reed expect noted.
(Disc 1)
1-1. Heroin - 9:12
1-2. I'm Gonna Move Right In - 5:42
1-3. I'm Waiting For The Man - 7:18
1-4. I'm Set Free - 5:02
1-5. Foggy Notion - 8:17
1-6. Beginning To See The Light - 6:17
1-7. Candy Says - 4:44
(Disc 2)
2-1. White Light / White Heat - 5:18
2-2. Jesus - 4:50
2-3. Sister Ray (Velvet Underground) - 26:17
2-4. Pale Blue Eyes - 6:09
[ The Velvet Underground ]
Lou Reed - vocal, lead guitar, ostrich guitar
Sterling Morrison - rhythm guitar, lead guitar, bass guitar, vocal
Doug Yule - bass guitar, organ, vocal
Maureen Tucker - drums, percussion

 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのボストン・ティー・パーティーでのライヴ盤は1968年12月12日、1969年1月10日、3月13日、7月5日の4種の観客録音が知られています。これらは曲単位でバラバラに組み合わされて多数の海賊盤でリリースされてきましたが、近年ようやくKeyhole(1968年12月12日、1969年3月13日)、Spyglass(1969年1月10日、7月5日)らハーフ・オフィシャル・レーベルから各日2枚組CDの1コンサート・フル収録にまとめられて輸入盤店、輸入盤通販店(タワーレコード、アマゾンなど)で手軽に買えるようになりました。これらは海賊盤時代からの人気音源で、特に3月13日のライヴ音源は『Guitar Amp Tapes』として有名なものです。ハーフ・オフィシャル盤では海賊盤の編集盤時代より良いマスターテープが使用され、デジタル・リマスターされて見違えるような音質の向上が見られます。こうした良質な発掘音源の登場はたいがい公式なオリジナル・アルバムの版権を持つレコード会社の発掘企画に伴うもので、ヴェルヴェットの場合はポリドール・レコードが1995年の5枚組全集ボックス『Peel Slowly and See』を発売した時にボーナス収録された発掘音源の未収録分が海賊盤業者に流れて次々と入ったの編集盤がリリースされました。これを第1次とすると第2次は2012年の『The Velvet Underground & Nico 45th Anniversary』に始まり『White Light/White Heat 45th Anniversary』2013、『The Velvet Underground 45th Anniversary』2014、『Loaded 45th Anniversary』2015で完結したオリジナル・アルバム全4作の45周年記念ボックス・セット・シリーズのリリースで、たかだか1枚のオリジナル・アルバムごとに3枚組~6枚組CDに及ぶ未発表音源、発掘ライヴを収録したこのシリーズに伴いまたもや発掘音源の流出が起こり、ボストンのライヴ音源を始めとする優良音源がインディー・レーベルから続々と発売される事態になりました。
 しかも今回は最良のマスターテープからのデジタル・リマスター、ライヴごとの完全収録と決定版と言えるものになっており、先に発売されていた『The Quine Tapes』2001(3CD)、『Complete Live at Max's Kansas City』2004(2CD)、「45th Anniversary」での部分収録の好評から完全版が発売された『The Complete Matrix Tapes』2015(4CD)よりは元々のマスターテープの質が劣るのでメジャー・レーベルからの発売は無理としてもインディー・レーベルからの廉価盤CDならお釣りがくる垂涎の内容になっており、Keyholeから早く発売された『La Cave 1968 (Problems In Urban Living)』2012などは好評を受けて日本国内のインディー・レーベルからもリリースされました。日本盤は完売後プレミア盤になっており、インディーからの発掘盤は原盤権がかからないので廉価盤発売が可能である一方、初回盤が完売すると再発盤の需要がほとんど望めないため品切れ・追加プレス未定になってしまうので注意が必要です。ちなみにKeyhole盤の本作はジャケットに実際にボストン・ティー・パーティーでの12月12日~14日公演のチラシに使われたイラストと書き文字を使用していることでも良心的なものです。

(Unofficial "Live at Boston Tea Party (Dec.12, 1968)" CD Liner Cover)

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 ボストン・ティー・パーティーは1967年1月に教会だった建物を借りて営業開始され1971年まで続いたマサチューセッツ州ボストンのコンサート会場です。会場名は本当にお茶しか出さないライヴ・ハウスというのではなく、1773年12月当時イギリスの植民地だったマサチューセッツ州のボストンで、イギリスが紅茶の関税を大幅に釣り上げたことに抗議して紅茶葉を海に投棄した政治決起集会に由来します。この事件から植民地アメリカではこれからは紅茶でなくコーヒーを飲もう、という運動が起こり現在に至るまで定着しています。コーヒーひとつ取ってもアメリカ独立の歴史に関わるのです。コンサート会場のボストン・ティー・パーティーではライヴ盤を残したブルース・ロック時代のフリートウッド・マックジミ・ヘンドリックスレッド・ツェッペリングレイトフル・デッドなどが名演を残しており、ボストンは東海岸屈指の古都ですから当時の名のある米英のロック・アーティストはたいがい公演しています。ヴェルヴェットからオリジナル・メンバーでルー・リードと並ぶリーダー格だったジョン・ケイル(ヴィオラ、ピアノ、ベース、ヴォーカル)が脱退したのも1968年9月のボストン・ティー・パーティー公演後のことでした。バンドは第3作『The Velvet Underground』1969.3の制作のためにギタリストのスターリング・モリソンのつてで若いダグ・ユール(ベース、オルガン、ヴォーカル)をケイルの後任に迎え、1968年11月~12月にかけてレコーディングを行います。ルー・リードが率いたヴェルヴェットの最終作で第4作はアトランティック傘下のコティリオン・レーベルに1970年4月~8月にかけて録音された『Loaded』1970.11ですが(その後契約消化のためにルー・リード在籍時最後の1970年8月23日のライヴを収めた『Live at Max's Kansas City』1972、ヴェルヴェット名義のダグ・ユールのソロ・アルバム『Squeeze』1973、発掘ライヴ盤『1969: The Velvet Underground Live』1974が発売されました)、今回ご紹介する1968年12月12日のライヴは前座に過激派政治的パンク・メタル・バンドのMC5(デビュー・アルバム『Kick Out The Jams』1969.2発表直前)が登場して客を煽りまくり、ヴェルヴェットはルー・リードの「おれたちはさっきの馬鹿なバンドとは関係ないからな」という前説から演奏を始めたという伝説のライヴです。1-1、1-3はデビュー・アルバム『The Velvet Underground & Nico』1967.3、2-1、2-3は第2作『White Light/White Heat』1968.1、1-4、1-6、1-7、2-2、2-4はレコーディング中の新作『The Velvet Underground』1969.3から演奏され、『The Velvet Underground』に続いて発売されるはずだったもののコティリオンに移籍して『Loaded』を制作したため未完成アルバムになった幻の本来の第4作(後年『VU』1985.2、『Another View』1986.9の2枚に分けて発売)から1-2(『Another View』収録)、1-5(『VU』収録)が演奏されています。つまり全11曲の演奏曲目中7曲が当時まだ未発表曲です。
 特殊楽器の変則使用を得意としたジョン・ケイル在籍時のデビュー作、第2作からの曲は大きくアレンジを変えており、ユールがオルガンにまわる曲ではモリソンがベースを弾いています。また1-7「Candy Says」はスタジオ盤のユールのヴォーカルではなくリードのヴォーカルで聴くことができ、ユールのソフトなコーラスはケイル時代のヴェルヴェットにはなかった要素です。また観客録音の本作はとんでもないドラムスのサウンドを聴くことができ、このラウドなサウンドは当時のスタジオ録音の常識では考えられないもので、ヴェルヴェットはスタジオ録音でも限界に挑戦したバンドでしたがここまでのドラム・サウンドはさすがのヴェルヴェットでもスタジオ盤では出せなかったものです。『Guitar Amp Tapes』はギターの爆音ノイズ演奏で名高いものですが、本作もその点では十分です。むしろドラムスの爆発的な演奏では本作に軍配が上がるのではないでしょうか。