人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド V.U. - Live at Concertgebouw, Amsterdam (Captain Trip, 2001)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド V.U. - Live at Concertgebouw, Amsterdam, Netherlands (Captain Trip, 2001) Full Concert : https://youtu.be/7OY49Ox5T8o
Recorded Live at Concertgebouw, Amsterdam, Netherlands, November 19, 1971
Released by Captain Trip Records JP, CTCD351, August 2001 from 4CD Box Set "Final V.U. 1971-1973"

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All songs written by Lou Reed except as noted.
(Tracklist)
1. I'm Waiting For The Man - 4:54
2. Spare Change (Alexander) - 3:32
3. Some Kinda Love - 6:51
4. White Light / White Heat - 4:33
5. Hold On (Alexander) - 4:58
6. What Goes On - 4:02
7. Cool It Down - 4:07
8. Back On The Farm (Alexander) - 7:04
9. Oh Sweet Nuthin' - 8:21
10. Sister Ray (Reed, Cale, Morrison, Tucker/Alexander) - 14:45
11. After Hours - 3:20
12. Dopey Joe (Yule) - 3:23
13. Rock And Roll - 4:43
[ V.U. aka The Velvet Underground ]
Doug Yule - vocals, guitar
Willie Alexander - keyboards, vocals
Walter Powers - bass guitar, backing vocals
Maureen Tucker - drums

(Original Captain Trip 4CD "Final V.U. 1971-1973" Disc 2 Liner Cover & CD Label)

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 このアムステルダムのコンセルトヘボウ(コンサートホール)のライヴからは「White Light / White Heat」「What Goes On」「Cool It Down」「Oh Sweet Nuthin'」の4曲が国立放送局からラジオ放送されており、ボックス・セット『ファイナルV.U. 1971-1973』のディスク4のボーナス・トラックにエア・チェック音源が収録されています。アムステルダム・コンサートはCDでは収録時間いっぱいの約75分にまとめられていますが、持ち時間は90分はあったのでしょう。バンド紹介やメンバー自身のMCはカットされていると思われますが、11「After Hours」でライヴ本編を終え12「Dopey Joe」と13「Rock And Roll」はアンコールで演奏された、楽曲のカットはないフル・コンサート収録でしょう。おそらく前座にオランダのバンドが出演した、ヴェルヴェットにしては異例のメジャー・アーティスト待遇のコンサートだったと察せられるのは、会場のコンセルトヘボウがもともとクラシック音楽コンサートのための国立劇場であることでもわかり、例えばピンク・フロイド組曲『The Man and The Journey』コンサート(1969年9月)、キング・クリムゾンBBC放送音源になった『The Night Watch』コンサート(1973年11月)など伝説的なライヴ音源が収録されたのもコンセルトヘボウ・コンサート(重複表現ですが)で、さしずめオランダの武道館か新宿厚生年金会館とでも言ったところでしょうか。ルー・リード在籍中にヴェルヴェットのアメリカ合衆国外でのライヴは行われなかった(逆に1993年の期間限定再結成ではヨーロッパ諸国でのコンサートしか行わなかった)ようですが、おそらく1971年の時点ではオランダのブッキング・エージェントも観客もバンドがルー・リード脱退後のメンバーのヴェルヴェットとは知らず、知ってもあまり気にしはしなかったのだろうと思います。'90年代にエリック・バードン抜きのアニマルズが活動しており来日公演までしていて話題にもなりませんでしたが、すでに歴史的存在になったバンドについてはともかくヴェルヴェットは大多数のリスナーにとって匿名性の強いグループだったと思われ、それはルー・リードがソロ・アルバム第2作『Transformer』1972.12から1973年初頭に「Walk on the Wild Side (ワイルド・サイドを歩け)」を全米チャート16位にヒットさせるまで続いていたでしょう。リードの第4作『Sally Can't Dance (死の舞踏)』1974.8は全米アルバム・チャート10位にまで上がり、同作の発売を見越した発掘ライヴ2LP『1969: The Velvet Underground Live』1974.9の発売によってヴェルヴェット・アンダーグラウンドルー・リードの出身バンドとして再評価されるようになります。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが同時代のバンドで敵視していたのはザ・ドアーズでしたが(特にリードがジム・モリソンに敵対心を燃やしていたそうです)、ジム・モリソン逝去後のザ・ドアーズが急激に人気・レコード売り上げとも凋落してしまったのに較べ、ヴェルヴェットは人気もレコード売り上げもまるで冴えないバンドだったのです。ルー・リードは新しいバック・バンドを連れて1973年9月にコンセルトヘボウ公演を行っており、それはアーティストの格として当然としても、1971年のヴェルヴェットがコンセルトヘボウ公演を果たしているのはマネジメントが強引に売り込んだのではないかと疑ってしまいます。
 前回ご紹介した1971年11月5日のロンドンのアフリカ&東洋文化学校でのコンサートとは同じツアーの一環でメンバーも同一ですし、2週間しか経っていませんからセットリストもアレンジも大差ないものですが、2年前にはブレイク直前のピンク・フロイド、2年後には絶頂期のキング・クリムゾンが演奏するような会場です。当時のオランダのトップ・バンドといえばアース&ファイヤー、ゴールデン・イヤリング、フォーカスなどアート・ロック(プログレッシヴ・ロック)系のバンドが人気を集めており、ヴェルヴェットもニューヨークのアート・ロック系バンドとしてブッキングされたのでしょう。ロンドンでのライヴと演奏フォーマットではそれほど違いはないとはいえ、コンセルトヘボウでのライヴは国際的アクトを意識した緊張感の高いものになっているように聴こえます。ユールのヴォーカルは相変わらずヘナヘナですが、ギターはよりアグレッシヴなプレイになっており、ここでもやはり唯一のバンドのデビュー時からのオリジナル・メンバーで女性ドラマーのモーリン・タッカーの演奏が光ります。ヴェルヴェットはルー・リードのガチャガチャしたギターとタッカーのズンドコしたドラムスが聴こえればヴェルヴェットらしいサウンドになっていたので、このライヴでも本来のヴェルヴェットらしさはモーリン・タッカーのドラムスのおかげでそこそこ雰囲気を保っており、アレクサンダーとユールのオリジナル曲もそれほど違和感がありません。このツアー中に全曲ダグ・ユール作詞作曲によるロンドン録音のスタジオ・アルバム『Squeeze』1972.3(ポリドールのイギリス支社原盤、イギリス、ヨーロッパ、日本でのみ発売)が制作されるのですが、マネジメントの意向によりユール以外のメンバーは録音に参加せずイギリスのセッション・ミュージシャンが演奏に起用されユール以外のメンバーはアメリカに帰国させられて、『Squeeze』の1972年のイギリスでのプロモーション・ツアーはユール+イギリス人メンバーによって行われなます。この時点でヴェルヴェット・アンダーグラウンドは事実上自然消滅したと言っていいでしょう。ユールの才能と個性はリーダー・バンドを率いるには弱く、1972年のライヴはイギリス人メンバーのタイトな演奏でまるでヴェルヴェット・アンダーグラウンドらしくないのが面白く、1973年のダグ・ユール・バンドがヴェルヴェット名義で残したライヴ音源は事実上ユールのソロ・アルバムだった『Squeeze』からのレパートリー中心のガレージ・ロックサウンドになっています。1971年のヨーロッパ・ツアー、1972年のイギリス・ツアーとも誰もライヴ音源の存在など予期していなかったもので、1973年ライヴなどはもはやヴェルヴェットを名乗る必然性すらないものですが、聴いていくとルー・リードが着々とソロ・キャリアを築いていった時期に名義上ヴェルヴェットを続けていたダグ・ユールがいかにマネジメントの強要の下に悪戦苦闘を重ねていたかがしみじみと染みてきて、こういう末路が実際のライヴ音源で明らかになるのはそう多くなく、ドキュメントとしての価値だけでも一聴して損はないでしょう。こうして聴けるだけでも珍重すべきライヴ音源なのは間違いありませせんし、ユールだってそれなりのミュージシャンなのです。