人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ルー・リード Lou Reed - American Poet / Live 1972 (Burning Airlines, 2001)

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ルー・リード Lou Reed - American Poet / Live 1972 (Burning Airlines, 2001) Full Album : https://youtu.be/19pxGafINRM
Recorded live in Ultrasonic Recording Studio, WLIR FM Hempstead, NY, December 26, 1972 as "Saturday Night in Concert"
Released by Burning Airlines/NMC PILOT83, June 26, 2001
All tracks composed by Lou Reed
(Tracklist)
1. White Light/White Heat - 4:04
2. Vicious - 3:06
3. I'm Waiting For The Man - 7:14
4. Walk It Talk It - 4:04
5. Sweet Jane - 4:38
6. Heroin - 8:34
7. Satellite of Love - 3:28
8. Walk on the Wild Side - 5:55
6. I'm So Free - 3:52
10. Berlin - 6:00
11. Rock & Roll - 5:13
[ Personnel ]
Lou Reed - lead vocals and rhythm guitar
with The Tots
Vinny Laporta - guitar
Eddie Reynolds - guitar, backing vocals
Bobby Resigno - bass guitar
Scottie Clark - drums

(Original Burning Airlines "American Poet / Live 1972" CD Liner Cover)

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 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの創設メンバーでリーダー、ソングライターでヴォーカルとギターを担当してバンドの中心人物だったルー・リードは1970年8月にヴェルヴェットを脱退し、ヴェルヴェットはベーシストのダグ・ユールがヴォーカルとギターに回ってリード脱退後のリーダーになるのですが、ユールの率いたヴェルヴェットが自然消滅に至るまでは前回までにご紹介した通りです。一方ルー・リードは1970年、1971年はレコード契約先を探しに潜伏し、ヴィクター傘下のRCAと契約して1972年1月、ソロ・アーティストとしての第1弾アルバムのレコーディングを本人の希望でロンドンに渡って「ロッド・スチュワートが録音したスタジオ」で現地セッション・ミュージシャンを起用して制作します。それが初のソロ・アルバム『Lou Reed (邦題『ロックの幻想』)』で1972年6月に発売され、全米アルバム・チャート189位とチャート下位ながら批評家の注目を集めました。第1作はヴェルヴェット後期にデモ・テイクが録音されたもののライヴ演奏以外では未発表のままになっていた曲を正式レコーディングしたもので(ヴェルヴェットによるヴァージョンも'80年代に発掘アルバム『VU』『Another View』で発表されますが)イエススティーヴ・ハウリック・ウェイクマンらが参加しており、同'72年秋にダグ・ユールがロンドンでセッション・ミュージシャンと制作したヴェルヴェットの新作『Squeeze』'73.2もリードのロンドン録音に対抗したヴェルヴェットのマネジメント側の企画だったかもしれません。一方リードは早くも'72年11月に発売されたソロ・アルバム第2作『Transformer (『トランスフォーマー』)』でヴェルヴェット・アンダーグラウンドの大ファンだったデイヴィッド・ボウイとボウイのバンドのギタリストのミック・ロンソンをプロデュースと演奏で迎え、当時のボウイのグラム・ロック路線にアレンジされたサウンドと充実した楽曲で全米アルバム・チャート29位、全英アルバム・チャート13位のヒット・アルバムになり、'73年初頭にはシングル・カット曲「Walk on the Wild Side (ワイルド・サイドを歩け)」が全米シングル・チャート16位の異色の大ヒットになります。ボウイとロンソンは『The Man Who Sold the World (『世界を売った男』)』'71.4、『Hunky Dory (ハンキー・ドリー)』'71.11、『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders From Mars (『ジギー・スターダスト』、旧邦題『屈折する星くずの上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群れ』)』'72.6、『Aladdin Sane (アラジン・セイン)』'73.4とアルバムもライヴも冴えまくっていた時期で、『Transformer』もリードの出世作であるとともにボウイ&ロンソンの名作といえる作品であり、『Squeeze』がリードのソロ作の陰に隠れてまったく評判にならなかったのはそういう背景があったのです。今回ご紹介するライヴ音源は『トランスフォーマー』発表直後のプロモーション・ツアーでニューヨークのFM局のラジオ番組「Saturday Night Concert」出演時の観客を入れたスタジオでのライヴがアルバム化されたものです。
 この音源は、1992年のルー・リードのボックス・セット『Between Thought and Expression: The Lou Reed Anthology (思考と象徴のはざまで~ルー・リード・アンソロジー)』の解説にも正式にレコード発売を前提に録音されたものと記載され、「素晴らしい未発表ライヴ・アルバム」と賞賛されていますが、同ボックス・セットには収録されませんでした。そのかわり、ラジオ局からの流出テープを元にして海賊盤の定番になり、'90年代までに数十種類の別タイトル・別ジャケットで海賊盤が流通していたものです。2001年に正規にアルバム化されるに当たって『Transformer』のジャケット写真のフォト・セッションからの未発表フォトがジャケットに使われているのは嬉しく、また5の「Sweet Jane」と6の「Heroin」の間にラジオ番組中での5分間のリードへのインタビューが挿入されました。今回引いたリンクにはその珍しく上機嫌なリードのインタビューは含まれませんが、演奏曲の曲順は正規盤と同じものです。海賊盤では発売元によって曲順がまちまちで、実際の曲順が特定できませんでした(正規盤が正しいとは限りませんが、公式発売されたからにはそれが基準となります)。リードは登り調子の勢いでご機嫌ですし、ボックス・セットのルー・リード・ヒストリーの筆者も(1992年当時)未発表を惜しんでいる幻のライヴ・アルバムがこの時期ザ・トッツというバック・バンドを率いた演奏で、長年海賊盤では名盤とされてきたのですが、実際にライヴ・アルバムが制作されたのが鬼才プロデューサー、ボブ・エズリン(アリス・クーパーの『Killer』'71.11、『School's Out』'72.5、『Billion Dollar Babies』'73.2、KISSの『Destroyer』'76.3、ピーター・ゲイブリエルの『Peter Gabriel I』'77.2、また実質的にピンク・フロイドの『The Wall』'79.11のプロデュースも手がけました)のプロデュースになるソロ・アルバム第3作『Berlin (『ベルリン』)』'73.7のプロモーション・ツアーからで、メンバーは辣腕ギタリスト・コンビのディック・ワグナーとスティーヴ・ハンターを中心としたエズリンご用達のバンド・メンバーたち(アリス・クーパー、KISSのアルバムもこのバンドによる制作でした)をバック・バンドにした『Rock' N Roll Animal (『ロックン・ロール・アニマル』)』'74.2と『Lou Reed Live』'75.3(ともに'73年12月21日のコンサートからの収録)でした。今回ご紹介したザ・トッツと『ロックン・ロール・アニマル』バンドを較べると始めたばかりの学生バンドと熟練したプロの違いがあります。ヴェルヴェットもメンバーは楽器のテクニシャンではありませんでしたが優れたオリジナリティを誇るバンドでした。ザ・トッツの場合はオリジナリティなどまったくなく単に平凡なだけです。当時発売が見送られて30年も経ってからインディー・レーベルに正規発売権が売られたのも無理はなく、ザ・トッツにはリードに似た声質のメンバーがいてコーラスに違和感がないのが唯一の取り柄ですが、そのメンバーがリード・ヴォーカルを取ればリード脱退後のダグ・ユールのヴェルヴェットと大差ない程度でしょう。海賊盤の名盤のままの方がお宝感があったかもしれないような貧弱なライヴ・アルバムですが、今日のようなDTM同期のサウンドばかりしか作られなくなってしまった(またはわざわざアコースティック楽器だけのアンサンブルがもてはやされる)風潮の中では、このしょぼくてへなちょこなロックの感触もたまには良いのではないでしょうか。ヴェルヴェット関係でも何か聴こうかな、でもあまり濃くなく、流して聴けるようなものがいいな、という時にはヴェルヴェット時代の代表曲とリード最初のソロ・アルバム2作からの代表曲が半々の本作など案外重宝かもしれません。