人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2017年10月22日・23日/ハワード・ホークス(Howard Hawks, 1896-1977)の男の映画(9)

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 ここから先のホークス作品はジョン・ウェイン主演作が続きます。ホークスの映画でジョン・ウェインの主演作は5本ありますが、1948年の『赤い河』以外の4作は1959年の『リオ・ブラボー』から1970年の、ホークスの遺作になった『リオ・ロボ』の時期に集中しており、ウェイン主演作はいずれも脚本は女流作家リー・ブラケットになり、ホークスのキャリアの最後はブラケット脚本でウェイン主演作に精魂込めた時期と言えるでしょう。特に『リオ・ブラボー』は『赤い河』と並ぶウェイン主演作の名作といえる作品になりました。次回でホークス作品のご紹介は遺作『リオ・ロボ』まで済みますが、ホークスの映画はカロリー豊富なので毎日観るには(どれも面白いですが、面白いからこそ)やや濃厚で、やっと目標の27本を観終えてホッとしています。今年は特に好きとは言えないフリッツ・ラング(全41作)、イングマール・ベルイマン(全44作)、ミケランジェロ・アントニオーニ(全14作)、スタンリー・キューブリック(全13作)各監督作品を初見・再見含めて全作品観ましたが(バカですねー)、ホークス作品を7割弱観るよりは気楽に観倒せたような気がします。なお、今回も紹介はキネマ旬報バックナンバー新作外国映画紹介を使わせていただきました。

●10月24日(火)
リオ・ブラボーRio Bravo (ワーナー'59)*141mins, Technicolor; 日本公開昭和34年(1959年)4月

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ジャンル 西部劇
製作国 アメリ
製作会社 ワーナー・ブラザース映画
配給 ワーナー・ブラザース
[ 解説 ] 「赤い河」「ピラミッド(1955)」のハワード・ホークス監督が久しぶりに作った西部劇。B・H・マッキャンベルの短編小説から、ジュールス・ファースマンとリー・ブラッケットがシナリオを書いている。撮影は「深く静かに潜航せよ」のラッセル・ハーラン。音楽ディミトリ・ティオムキン。「黒船」のジョン・ウェインが扮するシェリフを主人公として、「走る来る人々」のディーン・マーティン、「誇り高き男」のウォルター・ブレナン、「捜索者」のワード・ボンド、ロックン・ロール歌手のリッキー・ネルソン等が彼をめぐって活躍する。その他の出演者はアンジー・ディッキンソン、ジョン・ラッセル、ゴンザレス・ゴンザレス等。製作はハワード・ホークスが監督と兼任している。ワーナーカラー・ワーナースコープ。
[ あらすじ ] メキシコとの国境に近いテキサスの町リオ・ブラボ--保安官のチャンス(ジョン・ウェイン)は、殺人犯ジョー(クロード・エイキンス)を捕えた。しかし、ジョーの兄バーデット(ジョン・ラッセル)はこの地方の勢力家で、彼の部下に命じて町を封鎖したため、チャンスは窮地に陥った。チャンスはジョーを町から連れ出すことも、応援を頼むことも出来なかった。チャンスの味方は、身体の不自由な牢番スタンピイ老人(ウォルター・ブレナン)と早射ちの名人だがアル中の助手デュード(ディーン・マーティン)の2人だった。町を封鎖されたため、若い美人のフェザース(アンジー・ディッキンソン)や、チャンスの親友パット(ワード・ボンド)も町の外へ出られなかった。パットは燃料やダイナマイトを輸送する馬車隊を、護衛のコロラド(リッキー・ネルソン)と一緒に指揮していた。チャンスはフェザースがカルロス(ペドロ・ゴンザレス・ゴンザレス)とカルロス夫人コンスエラ(エステリータ・ロドリゲス)のきりもりするホテル・カシノでイカサマ賭博をしていると知らされ、彼女を尋問した。が、コロラドの証言で、フェザースは無罪だった。パットはパーデットの雇った殺し屋に射ち殺された。チャンスはフェザースの不幸な身の上を知り、なにかと世話をしてやった。これを機会に、2人の仲は接近した。ある日、デュードはバーデッドの配下に、不意をつかれて捕まった。バーデットはチャンスに、ジョーとデュードを交換しようと申し込んだ。チャンスは周囲の状況から、それを承諾せねばならなかった。翌朝、2人を交換することになった。デュードはスキをみてジョーに飛びかかった。これを機に両者の凄烈な射ち合いとなった。チャンスたちが苦戦していると、スタンピイ老人がパットの残していったダイナマイトを、バーデットのたてこもる倉庫に投げつけた。それをチャンスがピストルで射った。さしものバーデットも、遂に降服した。バーデットはジョーと共に監禁された。そして、チャンスとフェザースはめでたく結ばれることになった。

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 古代エジプトファラオの墓建設を描いた超大作歴史映画『ピラミッド』'55を『紳士は金髪がお好き』'53の次に撮った後、ホークスは遺作『リオ・ロボ』'70に至るキャリアの晩年10年余の時期に入ります。その第1作がジョン・ウェイン主演の本作で、以後の作品は猛獣狩り映画『ハタリ!』'61、釣りをめぐるコメディ『男性の好きなスポーツ』'64、レース映画『レッドライン7000』'65、西部劇『エル・ドラド』'66、西部劇『リオ・ロボ』'70ですが、ウェイン主演の『リオ・ブラボー』『ハタリ!』『エル・ドラド』『リオ・ロボ』でホークスの晩年作品は記憶され、『男性の好きなスポーツ』と『レッドライン7000』は不評で興行的にも振るいませんでした。ホークス作品のウェイン主演は『赤い河』'48が初作品ですが次が10年後の本作で、本作から『リオ・ロボ』までの10年間の6作のうち4本までがウェイン主演でそのうち3本が西部劇なのもこれまでのホークスの製作サイクルにはなかったパターンです。本作は保安官対町の裏のボスの悪党という実にわかりやすい設定の中に魅力的なキャラクター像をそれぞれ行動を通して浮かび上がらせて、テキサス西部劇ですからホテル経営者夫妻は夫は臆病、妻は気丈なメキシコ人ですし、葬儀屋は弁髪を結った中国人です。保安官助手のディーン・マーティンは銃の達人ですがアル中ですし、老助手のウォルター・ブレナン(本作は入れ歯を外した演技)は足が不自由で牢屋番しかできない。ワード・ボンドが殺されて、用心棒に雇われていたリッキー・ネルソン(昔の二流ロック歌手と思って本作を観ると認識の変革を迫られます)は簡単にウェインの仲間にならないが、マーティンの危機を救おうと窮地に陥ったウェインを放っておけず助太刀し、乗りかかった船だと頼りになる仲間になります。雇われた殺し屋で占領された町で連邦保安官の到着を待つ6日間、数では圧倒的に不利な状況をチームワークで切り抜けていく進行はスリリングで、若いアンジー・ディキンソンのヒロインぶりもドラマに過不足なく溶け込んでおり、比較していいものか迷いますが黒澤明の数作の代表作が映画の教科書ならホークス作品中もっとも映画の教科書に向いている完成度抜群の作品です。マーティンとネルソンは本職はどちらかといえば歌手ですから一難去って和んでいるシーンで2曲をフルコーラス(!)デュエットしたり(「俺と子馬とライフルと」などいい感じですが)、悪党との決着がついた後にウェインとディキンソンのラヴ・シーンが10分もあるなど物語の上で構成には冗長な場面も目立つのですが、無駄を削って110分よりも遊びを入れて141分にしたのが本作では成功しています。脚本で常連のジュールス・ファースマンと共作しているリー・ブラケットはハードボイルド小説とSFをどちらも書く女流作家で、『三つ数えろ』でフォークナーの助手に抜擢されましたがエドマンド・ハミルトン(キャプテン・フューチャーのSF作家)と結婚後しばらく映画脚本を離れ、本作で復帰し『ハタリ!』『エル・ドラド』『リオ・ロボ』とホークス晩年のジョン・ウェイン作品はすべて手がけることになりました。遊びの部分は劇場やテレビ放映(短縮されるかもしれませんが)なら良いとしてもDVD視聴では冗長に感じられるのは仕方ないですが、本作もまたホークスのキャリアの節目となった傑作です。前述の'59年~'70年(遺作)の期間のホークス作品では本作をいちばんにお勧めします。

●10月25日(水)
『ハタリ!』Hatari! (パラマウント'61)*158min, Technicolor; 日本公開昭和37年(1962年)10月

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ジャンル ドラマ
製作会社 パラマウント映画
配給 パラマウント
[ 解説 ] ハリー・カーニッツの原作をリー・ブラケットが脚色、「リオ・ブラボー」のハワード・ホークスが製作・監督した猛獣狩りのハンターを描く娯楽編。撮影も「リオ・ブラボー」のラッセル・ハーラン、音楽は「追跡(1962)」のヘンリー・マンシーニが担当。出演者は「リバティ・バランスを射った男」のジョン・ウェイン、「狙われた男」のハーディー・クリューガー、「血とバラ」のエルザ・マルティネリ、「気球船探検」のレッド・バトンズ、「太陽の誘惑」のジェラール・ブラン、新人ミシェル・ジラルドンなど。
[ あらすじ ] 東アフリカのタンガニーカ、アルシャの町に近い、モメラ野獣ファームは所長がサイに殺された後、口の不自由な美しい娘ブランディー(ミシェル・ジラルドン)を助け、ハンターたちが力を合わせて運営し、全世界の動物園の信用を得ていた。リーダーはアメリカ人ショーン(ジョン・ウェイン)。ショーンは猛獣狩りに生きがいを求めた男だった。2番目は元オート・レースの選手でスリルを求めてアフリカに来たカート(ハーディー・クリューガー)、3番目はタクシー運転手出身で発明狂のポケッツ(レッド・バトンズ)、ほかにビルとルイというアルゼンチン人がいる。ある日セラフィナ・ダルレサンドロ(エルザ・マルティネリ)という女カメラマンが、銃を使わないこのファーム独特の猛獣狩りをカメラに収めにやって来た。彼女は皆からダラスと呼ばれた。ビルがサイに突かれて入院することになり、冒険を求めてやって来た金持ちのフランス青年チップ(ジェラール・ブラン)が代わりに使ってくれと言ってきた。彼の態度に腹を立てたカートが殴ろうとした時、ショーンが中に入り、腕前を試してから雇った。チップがブランディーと親しくなったのでまたカートは怒った。ダラスが象の子を3頭飼い始め、ショーンを困らせた。しかし、猛獣狩りを恐れず一同と行動を共にするダラスは皆に親しまれるようになった。ポッツの発明した大網をつけたロケットが大木に群棲している猿を400匹捕まえた。壮絶な猛獣狩りが続き、傷の治ったビルも加わり、待望のサイを追うことになった。ショーンが巨大なサイを見つけ、長い間追い回してやっと捕縛した時、皆くたくたになっていた。一行がキャンプに戻るとダラスがいない。ショーンは子象をジープに積んでアルシャに出かけた。他の2頭もついて来た。子像に居所をつきとめられてホテルに追いこまれたダラスはショーンに掴まった。2人はやっと気持ちがとけ合って結婚した。その夜ショーンが彼女の寝室に入ると、ドアの外で大きな音がして子象が3頭部屋に押し入って来た。彼らもダラスと一緒に寝たいのだった。

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 約2時間40分、ホークス作品最長の大作になったのはアフリカ・ロケの景物をこれでもかと見せたいがためで、テレビ放映用短縮版の編集者ならさぞかし腕の振るいがいのある作品でしょう。DVDには原語版以外にもテレビ放映時の日本語吹き替え音声が収録されており、そちらで観てみるとあちこちが吹き替え音声がなく原語に切り替わるのでノーカット版の吹き替えは存在しないのでしょう。カットされたと思われる部分はなくても話は進行しますが、このシーンを切ったら場面転換としてはつながってもテンポはだいぶ早くなってしまうな、と思わせられるので、本作の場合はこののんびりとした運びがアフリカの大地そのものがかもし出すムードになっています。西洋文化圏の人間が思い描く類型的なアフリカ像ではあるかもしれませんが、こういうアフリカ像が好きな人も大勢いるわけで、だだっ広いアフリカの大地を彷彿させるには映画も漠然とだらだら長い方がいい、というのもひとつの見識です。どのくらいだだっ広いかというと犀の角に突かれて大怪我をした隊員を「これから戻るから医者を待機させといてくれ。到着は5時間後だ」と無線機でいうくらいで、平坦地をジープでぶっ飛ばしているから相応の速度として時速60キロとしても300キロ、狩猟隊の本拠地である現地人の村落と狩り場までそれだけの距離があるわけです。当たり前ですが人間と野生動物の生息圏の住み分けもだだっ広いからこそできている、というアフリカの秩序を教えられます。呑気なばかりの映画かというとむしろ事件は豊富な映画で、野生動物の国際保護法と輸出入の規制が厳しくなる以前の時代の映画ですから密猟に近いんじゃないかと思われますが、世界中の動物園やサーカス、ペット用にアフリカの野生動物を生け捕るチームの話なのでライフルでずどん、というわけにはいかないので、生け捕るのは仕留めるよりかえって大変なのが伝わってきます。狩り(捕獲)あり恋あり、ヘンリー・マンシーニが楽曲をつけてヒットさせた子象の行進あり、この子象はたまたま撮影中にヒロインのエルザ・マルティネリに子象が3頭次々となついたことから追加された役割だそうですが、エピソードどころではなく映画のクライマックスの進行まで3頭の子象が大役を果たしており、撮影中にロケ地タンガニカのホークスとハリウッドのリー・ブラケット(本作ではついに単独脚本に昇格)の間で脚本の追加改訂が行われたことでしょう。けっこう国際キャストで賑やかな配役の割りにウェインの他はマルティネリとミシェル・ジラルドンの二人のヒロイン(と3頭の子象)以外は印象が薄いのは大半屋外ロケばかりで男はみんな同じような服装なのと引きのカットばかりなので、いろいろ事件が起きても誰が誰でも大差なくなってくるからで、本作はウェインとマルティネリと子象の映画、他に犀の生け捕り、キリンの生け捕り、猿の生け捕りなどジョン・ウェイン以外の隊員はキャラクターよりも生け捕りをするその行為の方が重要なので、その点がホークス作品としては異色かもしれません。人間ドラマもかなり入り組んで仕組まれているのですが、生け捕り大作戦の連続の方があまりに印象的なのでミシェル・ジラルドンをめぐる恋のさやあても興味を惹かない。マルティネリの方は隊員全員がボスであるウェインの女だと最初から納得しているのが面白く、80分の映画2本分の長さなのに内容は80分の映画1本で済むようなものなので160分あまりも観る疲労感がなくあっという間に終わってしまいます。本作については、これは褒め言葉なのです。