チェット・ベイカー Gerry Mulligan Quartet featuring Chet Baker - Freeway (Chet Baker) (from the album "Gerry Mulligan Quartet Volume 1", Pacific Jazz PLJP-1, 1952) : https://youtu.be/UQPjEwAJ6aM - 2:44
Recorded at at Gold Star Studios, Los Angeles, California on October 15 or 16, 1952
[ Gerry Mulligan Quartet ]
Gerry Mulligan - baritone saxophone
Chet Baker - trumpet
Bob Whitlock - bass
Chico Hamilton - drums
チェット・ベイカー(1929-1988)と組んだジェリー・マリガン(1927-1996)のピアノレス・カルテットはレコード発売前から話題騒然のバンドで、先週取り上げたデビュー曲「Bernie's Tune」で鮮烈なデビューを飾りましたが、ジャズ・マニアの青年実業家リチャード・ボックがマリガン・カルテットのデビューのために創設したパシフィック・ジャズ社から発売されたバンドのファースト・アルバム『Gerry Mulligan Quartet Volume 1』は全8曲中オリジナル4曲、他4曲もマリガンが掘り出してきた鋭い選曲で全曲名曲名演の傑作になりました。マリガン自身が白人精鋭ビ・バッパーとして25歳にしてニューヨークでプレイヤー(バリトンサックス)のみならずビッグバンドや他のバンドへの作曲・編曲・客演で名を上げてきた人であり、特にマイルス・デイヴィスの『クールの誕生』'48~'50では編曲家のギル・エヴァンス、レニー・トリスターノ(ピアノ)門下生でアルトサックスのリー・コニッツとともに黒人白人混交の『クールの誕生』バンドの中で白人中のキー・パーソンだった人です。一方チェット・ベイカーは兵役除隊直後の'52年初頭に21歳にしてチャーリー・パーカーの西海岸ツアーのトランペットに抜擢され、パーカーの相棒トランペット奏者としてはディジー・ガレスピー、マイルス・デイヴィス(独立)、ケニー・ドーハム(アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズへ)、初めての白人青年奏者レッド・ロドニー(私生活トラブルから服役)に続く人でしたが、パーカーはオーディションをチェットの番で即決し、ニューヨークのディジーとマイルスに「すごいトランペットを見つけたぞ」とわざわざ電話したというチェットが生涯誇りにしていた伝説があります。パーカーとの西海岸ツアーの直後にちょうどロサンゼルスで新バンド結成のためにやってきたマリガンに注目されて画期的なピアノレス・カルテットの結成になるのですが、ファースト・アルバムのオリジナル4曲は3曲がマリガン、1曲がチェットの書き下ろしでした。この「Freeway」がチェット作曲で、おそらく初のオリジナル曲です。
白人バッパーはオリジナル曲が少なくアート・ペッパーやスタン・ゲッツやも少ない人ですが、チェットはもっと少なくマリガン・カルテットから独立後もオリジナル曲を含むアルバムなどめったにありません。しかしペッパーやゲッツ同様チェットはアドリブの天才なのでスタンダード曲や他のジャズマンのオリジナル曲をうろおぼえで吹いてほとんどオリジナル曲に改変してしまう天然の才能がありました。このチェット作曲のクレジットがある「Freeway」もカルテットでセッションしているうちになんとなく出来てしまったようなAA'32小節形式の小唄です。しかしピアニストのいないバンドのためトランペットとバリトンサックスの2管とベースがスカスカで緊迫しながらもまろやかな和声を作り、ベースとドラムスのアクセントと2管のアタックがばっちり決まってこのカルテットならではの名演になっており、過不足のまったくない新鮮な演奏で曲とも言えないような曲が名曲になっているのはこの時代のジャズならではの奇跡と言ってよく、ガレスピーやパーカーのビ・バップから学びながらまるで異なるアプローチに到達した白人ジャズではトリスターノともゲッツとも異なるマリガン・カルテットにチェットがいかに不可欠のトランペット奏者だったかを感じ入るような曲であり演奏です。アレンジ抜きにはあり得ないオリジナル曲の発想という点ではほとんどビートルズ以降のロック・バンドのあり方に近いのです。