Gerry Mulligan(1927-1996,baritone sax,piano)。
60年代以降のマリガンは巨匠の余裕でなんでもありになる。もちろん筋は通っている。マイルスと匹敵する唯一の白人ジャズマンたるゆえんだが、マイルスのようなストイックな方向ではなくもっと自由に多彩な活動を楽しんだ。享年68歳だが死の前年にも新作があり(遺作'Dragon Fly'95)、生涯青春が続いた幸福なジャズマンだった。
話題作は再びチェットとの再会ライヴ'Carnegie Hall Concert'74、「クールの誕生」の全曲リメイク'Re-Birth of Cool'92などもあるが、前者はともかく後者にはみんなのけぞった。この人はシャレと本音の区別がつかない食えない面もあるのだ。
はっきりシャレなのがヴァーヴの姉妹レーベル・ライムライトからの'If You can't Beat 'em,Join 'em!'65(画像1)で、「勝てないのなら日和っちゃおうぜ!」とでも訳すか。慣用句'If You can't Join 'em,Beat 'em!'「除け者になるなら立ち向かおうぜ!」の自虐的なもじり。内容はビートルズやディラン、'Downtown'などのヒット曲カヴァー集という企画物。ジャケットには真面目ファン向けに別ヴァージョンもある(画像4)。
マリガンのビッグバンドは不定期活動だがギル・エヴァンス・オーケストラと並ぶ存在で、80年の'Walk on the Water'(DRG,画像2)が達成点だろう。ビル・エヴァンスとの共演でも知られ、現役最高のトランペット奏者になったトム・ハレルも参加。オリジナルが大半だが、最終曲のスタンダード'I'm Getting Sentimental Over You'がなごむ。
90年の'Lonsome Boulevard'(A&M,画像3)は最晩年の作品だが、全10曲中オリジナル9曲で、エリントンの'Mood Indigo'を思わせる'Wallflower''Ring Around a Bright Star'、そして表題曲などオリジナル曲が素晴らしい。オーソドックスなワン・ホーン作品で、ピアノのビル・チャーラップはこれが出世作になった。当時流行のブラジル風味もほどよく、なによりマリガンが若々しい。