人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ジェリー・マリガン Gerry Mulligan Quartet - Nights At The Turntable (Pacific Jazz, 1952)

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ジェリー・マリガン Gerry Mulligan Quartet - Nights At The Turntable (Gerry Mulligan) (from the album "Gerry Mulligan Quartet Volume 1", Pacific Jazz PLJP-1, 1952) : https://youtu.be/DobpBlZawwM - 2:51
Recorded at at Gold Star Studios, Los Angeles, California on October 15 & 16, 1952
[ Gerry Mulligan Quartet ]
Gerry Mulligan - baritone saxophone
Chet Baker - trumpet
Bob Whitlock - bass
Chico Hamilton - drums

 2歳年長(マリガンは1927年生まれ、チェット・ベイカーは1929年生まれ)というだけでなくマリガンとチェットの経歴はマリガン・カルテットの時点で大きな差があり、まずマリガンは徴兵を上手く逃れて豊富なビッグバンドやセッション経験があったこと、バリトンサックス奏者のみならず作曲と編曲でも一流のジャズマンだったことがありますが、チェットはパーカーのバンドへの抜擢以前は2年間兵役に就いていてジャムセッション荒らしの白人青年ビ・バッパーくらいの経歴しかなかったので楽譜の読み書きも不得意なカンとアドリブ一発のチェットとマリガンの対照はよく一緒に組む気になったなと思うようなものですが、バンドはこのくらい対照的な人物同士が組んだ方が実りがあるとも言えそうです。そしてチェットは百戦錬磨の優等生マリガンが舌を巻くような鋭い音感の持ち主でした。このマリガン書き下ろしの名曲が見事な名演になっているのはメンバー4人中いちばん経験不足のジャズマンだったはずのチェットがここでも自信たっぷりな快演を聴かせてくれることにあります。
 黒人バッパーたちのオリジナル曲はだいたいブルースか循環(ロックで言うスリー・コード、ジャズで本来ガーシュインの曲にちなんで「I Got Rhythm」進行と呼ばれていたI度→IV度→V度→I度をくり返すコード進行)、スタンダード曲のコード進行を借りて異なるテーマ・メロディーを乗せる作曲法の3パターンかアドリブの手癖を曲にした程度のもので、ディジーやモンク、パーカーの曲もほとんどがそうです。本当にオリジナルなコード進行の作曲をしていたのはエリントン、サン・ラ、ミンガスくらいしかおらず、エリントンの曲はビ・バップの手法ではいじれず、ミンガスの曲は難しすぎサン・ラはも同様でしかもシカゴのローカル・ミュージシャンだったので、いずれにせよ他のジャズマンに取り上げられるものではありませんでした。白人バッパーのオリジナル曲も黒人バッパーと大差なかったのですが、さすが本格的な作曲家のマリガンはひと味もふた味も違います。上記の3パターンかアドリブの手癖のようなものではなくしっかりとオリジナルなコード進行とリズム・アレンジに計算されたメロディーのある本当に独創的な曲を書いて、しかも親しみやすい仕上がりにする才能がありました。この「Nights At The Turntable」(レコード・プレーヤーの夜または毎夜、いかしたタイトルです)などはマリガン最高の名曲でしょう。しかしポップで実は凝っているこの曲もマリガンのアレンジが決まりすぎていてスタンダード化するには自由度が乏しく、名曲必ずしもスタンダードとはならずの例になっています。つまりこのマリガン・カルテット・ヴァージョンをカヴァーしてオリジナルを超えられないから誰もカヴァーしないので、ジャズの名曲世界というのはこういうこともあるのです。