人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ソニー・クリス Sonny Criss - パレードに雨を降らせないで Don't Rain On My Parade (Prestige, 1969)

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ソニー・クリス Sonny Criss - パレードに雨を降らせないで Don't Rain On My Parade (Bob Merrill, Jule Styne) (from the album "I'll Catch The Sun", Prestige PR7698, 1969) : https://youtu.be/ISWGGNvr2dg - 4:24
Recorded at RCA Studios, Los Angeles, California, January 20, 1969
Released by Prestige Records PR7628, 1969
[ Personnel ]
Sonny Criss - alto saxophone
Hampton Hawes - piano
Monty Budwig - bass
Shelly Manne - drums

 メンフィス州テネシー生まれでハイスクールからはロサンゼルスで育ったソニー・クリス(1927-1977)はバリバリのチャーリー・パーカー派アルトサックス奏者で、パーカーと共演した有名な録音にパーカーの'52年の西海岸ツアー時のライヴ『Inglewood Jam (Bird and Chet)』(カリフォルニア州イングルウッド、トレード・ウィンド・レストラン'52年6月16日収録)があります。チェット・ベイカー(トランペット)とチェットの仲間のラス・フリーマン(ピアノ)、ローレンス・マラブル(ドラムス)を従えてアルトサックスはパーカーとクリスの6人編成で、ハウス・ベーシストのハリー・ババシンが録音していた音源でパーカーの発掘ライヴの中でもメンバーの珍しさ、内容の良さで人気の高いものです。音質は悪くありませんが録音バランスはバンドスタンド録音のためかピアノとトランペットが遠く、ベースとアルトサックスがやたらでかい音に録れているのでチェット目当てだと悔しいのですが、24歳のクリスがパーカー本人を前に全盛期のパーカーの完全コピー演奏をこれでもかと披露する、一方パーカーは割と軽く受け流すものの全力疾走のクリスがあちこちで吹きすぎてしまっているのに対してパーカーの演奏は無駄のない均衡の取れたもので、パーカー本人とパーカー派アルトサックス奏者の聴き較べの好サンプルになっています。ソニー・スティットにせよルー・ドナルドソンにせよ白人のチャーリー・マリアーノフィル・ウッズにせよ本家のパーカーよりもテクニックに任せて吹きすぎてしまう欠点があり、各人各様のやり方でパーカーの影響から脱して行くのですが、クリスの場合パーカーの影響が愛嬌があるというか、どこかそそっかしいところに憎めなさがあるのです。
 クリスは来日公演予定の直前に謎の死を遂げて、公式にはピストル自殺とされましたが日本からプロモーターが直接交渉に出向いた時には日本公演はやりたい放題ビ・バップを演ってほしいという要望に興奮を抑えきれないほど大喜びしていたそうですし、また癌の発症も確認されていて自殺認定の根拠とされていますがスティットなどは末期癌で車椅子の状態になりながら最後の来日公演にやってきて、ツアー途中で危篤になり緊急帰国して亡くなりましたからクリスの死が病苦による自殺とは断定できないのです。クリスのキャリアもまた順調なばかりではありませんでしたが、'50年代後半~'60年代前半の不遇な時期を過ぎて'66年の『This is Criss !』でプレスティッジ(プロデューサーは悪名高いオーナーのボブ・ワインストックじきじきから信頼のおけるドン・シュリッテンに替わっていました)からカムバックし、'69年までに7作の会心作を連続録音します。フィフス・ディメンションのヒット曲「Up, Up, And Away」をジャズ・カヴァーした'67年の同名アルバムが有名ですが、同アルバムでもパーカーの曲を取り上げているように、プレスティッジでの7連作は最新ポップスとビ・バップを半々に演奏して違和感のないものでした。「パレードに雨を降らせないで」は'63年のミュージカル『ファニー・ガール』でバーブラ・ストライザンドが歌い、翌'64年のミュージカル・アルバムからシングル・カットされヒットしましたが、'68年に『ファニー・ガール』が映画化され再ヒットしたのでクリスも改めて取り上げてみたのでしょう。メンバーもレジェンダリー・ウェスト・コースト・ビバッパーズともいうべき素晴らしい顔ぶれがテレパシーで結ばれたかのようなばっちり決まった洒落っ気のある演奏を聴かせてくれます。ジョン・コルトレーンの名高いインパルス時代のワンホーン・カルテットよりこのソニー・クリス・カルテットの方がジャズの真髄に近いのではないでしょうか。原曲がいかに身も蓋もないポップス曲かを念のため上げておきます。この曲は数十種に及ぶヴォーカル・カヴァーを生んでいますが、おそらく日本では一番知られているであろうカヴァー・ヴァージョンも上げておきます。

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Barbra Streisand - Don't Rain On My Parade (from the album "Funny Girl: Original Broadway Cast Recording",Capitol Records ‎SVAS 2059, 1964) : https://youtu.be/oZTSuMErgsw - 2:46

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Japan - Don't Rain On My Parade (from the album "Adolescent Sex", Ariola Hansa ‎AHAL 8004, 1978) : https://youtu.be/2JcSyogpYxc - 2:54