人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ビリー・ホリデイ Billie Holiday - 捧ぐるは愛のみ I Can't Give You Anything But Love (Columbia, 1936)

イメージ 1

ビリー・ホリデイ Teddy Wilson and his Orchestra Featuring Billie Holiday - 捧ぐるは愛のみ I Can't Give You Anything But Love (Jimmy McHugh, Dorothy Fields) (Original Released by Columbia/Brunswick, 1936) : https://youtu.be/onqmumWEHx8 - 3:30

 1928年のオール黒人キャストのレヴュー(ショー)、『Lew Leslie's The Blackbirds of 1928』でヒット曲となり、ハワード・ホークス監督、ケーリー・グラントキャサリン・ヘップバーン主演作品『赤ちゃん教育』'38のテーマ曲に採用されて以降5作の映画主題歌に使用され広く愛されたスタンダード曲。AA'32小節の小唄であっけない構成に豊かな歌心があるような愛らしい曲ですが、チェット・ベイカー(トランペット)、リッチー・カミューカ(テナーサックス)、ピート・ジョリー(ピアノ)をメンバーに1日で11曲を録音した没レコーディング・セッション(後に『Chet Baker Meets Art Pepper』として全曲発掘発売、現行CDでは『The Route』と改題)からペッパー服役中の1962年に未発表音源のコンピレーション・アルバムで発表された次のテイクは、セクステット・セッションで唯一アルトサックス、ベース、ドラムスのトリオで演奏されたペッパー異色の名演です。

イメージ 2

Art Pepper Trio - I Can't Give You Anything But Love (from the album "The Artistry Of Pepper",Pacific Jazz JR-8113, 1962) https://youtu.be/Cy8MywyBPDE - 4:10
[ Personnel ]
Art Pepper - alto saxophone
Leroy Vinneger - bass
Stan Levey - drums
Recorded at the Forum Theatre, LA, July 26, 1956

 ニューヨークのインディー・レーベルの名門ブルー・ノートも次々レコーディング・セッションを録っては配給力の限界から録音したセッションの1/3程度しか発売できず、レーベル休止後に未発表アルバムが続々出てきたレーベルでしたが、日本では大人気、ヨーロッパでも愛され、アメリカ本国ではまったく無名のままで亡くなったこのピアニストもリリース作以上の数の未発表アルバムが没後発表されました。

イメージ 3

Sonny Clark Trio - I Can't Give You Anything But Love (from the album "The Art Of The Trio", Blue Note GXK8157, 1980) : https://youtu.be/hFrb90F5aCk - 3:49
[ Personnel ]
Sonny Clark - piano
Jimmy Merritt - bass
Wes Landers - drums
Recorded on November 16, 1958

 次のヴァージョンは、オリジナル・シングルB面曲にジーン・アモンズ・カルテットにソニー・スティットがテナーサックスで客演した「Seven Eleven」が収められているためリンク先ではソニー・スティットと間違って記載されていますが、A面のこの曲はアモンズのテナーの1ホーン・カルテットの演奏です。ジーン・アモンズスタンリー・タレンタインに引き継がれるいわゆる「ボス・テナー」タイプのブルース=ソウル色の強いテナーで、こちらはアメリカ本国では一流の人気テナー奏者と認知されていますが、日本ではあまり語られない人です。

イメージ 4

Gene Ammons Quartet - I Can't Give You Anything But Love (Original Released by Metronome ‎B574, 1950 - from the album "The Gene Ammons Story: The 78 Era", Prestige P-24058, 1976) : https://youtu.be/CaD4IgMQMMk - 2:41

 ビリーやレスター・ヤング、パーカーがキャリアの後期、バド・パウエル(ピアノ)が初期に契約していたヴァーヴ・レコーズはスター・プレイヤー主義の会社だったので、活動の不安定なビリーよりも堅実なエラ・フィッツジェラルド、パウエルよりオスカー・ピーターソンを重用し(レスターの替わりには白人テナーNo.1のスタン・ゲッツ、パーカーの替わりにはパーカーそっくりさんのスティットがいました)、パーカーやレスター、ビリー没後、パウエル渡欧後はスティットやゲッツ、ピーターソン、エラを第一人者とするようなちゃっかりしたメジャー・レーベルでした。アルト奏者のスティットはパーカー生前には比較を嫌ってテナーを吹く方が多かったのですが、パーカー没後にはアルトサックスに戻ります。スティットの手法はテーマ吹奏でもアドリブでも2分音符・全音符を機械的に避けて和声の経過に沿って装飾的に8分音符・16分音符の音階昇降を代入するもので、実際はパーカーには似ても似つかない演奏です。ビ・バップをシステム化したサックス奏者としてはルー・ドナルドソンとともに早くキャノンボール・アダレイに先駆けますし、実力実績歴史的貢献ともに落とせないジャズマンですがドナルドソンやキヤノンボールのような自然体でもにじみ出る華に乏しい。ハード・バップに進まずビ・バップ一徹だった好ましい人ですが名演とされる音源を聴いてもどこか重みに欠ける印象があり、40代を刑務所暮らしで棒に振ったアート・ペッパーが50代の復帰後、同世代アルト奏者でもっとも共演を望み実現した相手がスティットで、ジャッキー・マクリーンとも望んだがペッパーの急逝でかなわなかったという話を聞くとミュージシャンズ・ミュージシャン的な渋さがあるのかな、と判断に自信が持てなくなるような気もしてきます。ともあれ、スティットの同曲の演奏をご紹介しましょう。

イメージ 5

Sonny Stitt with The Oscar Peterson Trio - I Can't Give You Anything But Love (from the album "Sonny Stitt Sits In With The Oscar Peterson Trio", Verve MG V-8344, 1959) : https://youtu.be/MyuNbI6ZrgI - 4:03