人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

バド・パウエル Bud Powell - アイル・キープ・ラヴィング・ユー I'll Keep Loving You (Mercury, 1949)

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バド・パウエル Bud Powell - アイル・キープ・ラヴィング・ユー I'll Keep Loving You (Bud Powell) (from the album "Bud Powell Piano", Mercury MG 35012, 1950) : https://youtu.be/6duz89qyBQo - 2:42
Recorded in New York City, February 23, 1949
Originally 10 inch LP "Bud Powell Piano" Released By Mercury Records MG 35012, 1950
Reissued c/w Mercury MG C507 "Piano Solos", 12 inch LP as "Jazz Giant" by Verve/Norgran Records ‎MG N-1063, 1956

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[ Personnel ]
Bud Powelk - unaccompanied solo piano

 ビ・バップ3大ピアニストといえばセロニアス・モンク(1917-1982)、バド・パウエル(1924-1966)、ちょっと考えてレニー・トリスターノ(1919-1978)ですが、モンクは作曲も演奏もユニークすぎて'50年代後半まではリスナーに恵まれず、トリスターノは華々しくデビューしたものの難解な演奏に磨きがかかり生前の公式アルバム発売は3枚きり(!)と徹底して反主流ジャズを貫いた人でした。この少し兄貴分の二人に較べてパウエルはビ・バップ・ビッグバンドのクーティー・ウィリアムス楽団からチャーリー・パーカークインテットを経て独立し、作曲も演奏もビ・バップ・ピアノの規範になるスタイルを確立したことからモダン・ジャズでもっとも影響力が大きかったピアニストです。モダン・ジャズのサックス奏者はパーカー派かそれ以外か、というのがパウエルにも当てはまり、モダン・ジャズのピアニストはパウエル派かそれ以外に大別されるしパウエル派でなくてもパウエルのスタイルを踏まえているのは常識というほどの存在です。このジャズ・ピアノの革新的天才3人がいずれもハンディキャップを負ったピアニストで、トリスターノは全盲、パウエルとモンクはパウエルは20代前半にはすでに、モンクは中年期に統合失調症統合失調症の発症が始まっていたのがキャリアの消長を大きく左右したのは痛ましいことでした。作曲の面ではトリスターノは頑としてスタンダード曲の改作に固執した人で、モンクはブルース、循環、AA'BA'32小節の小唄の3パターンと典型的なビ・バップ作曲家で(ただし異常な旋法とリズム・アクセントはモンクならではのものでした)、自由な小節構造とオリジナルなコード進行の点ではパウエルがジャズの枠にとらわれない作曲の才がありました。このロマンチシズム溢れる壮大な曲想のバラード「I'll Keep Loving You」はパウエル2作目('47年の初アルバム録音の後入院生活を送ったので2年ぶりの録音でした)の10インチ・アルバム6曲のためにレイ・ブラウン(ベース)、マックス・ローチ(ドラムス)とのトリオで演奏したうち、ほとんどその場で作曲してソロ・ピアノ演奏で録音されたものです。曲想はまったくジャズではなく、過剰なほど没入した情熱的演奏によってかろうじてジャズになっているようなものです。
 この曲を取り上げるのはほとんどピアニストばかりですが、高校の同級生がバド・パウエルの弟リッチー・パウエル(のちブラウン&ローチ・クインテット)だったことからパウエルと知遇を得てマイルス・デイヴィスの『Dig』'51に同年生まれの親友ソニー・ロリンズとともに起用されジャズ界にデビューしたアルトサックス奏者ジャッキー・マクリーン(1930-2006)が、オーネット・コールマンに触発されて製作したアルバム『Let Freedom Ring』'63(「自由の鐘を鳴らせ」かっこいいタイトルです)で、パウエルのこの曲をアルトサックス+ピアノ・トリオ編成でとりあげています。他はマクリーンの自作曲3曲の全4曲から成る、名曲「Melody for Melonae」から始まる名作ですが、ピアノのウォルター・ビショップJr.(1932-1990)はパウエル派のパーカー・フリークで'52年のラテン曲セッションや'54年のラスト・レコーディング「Plays Cole Porter」でボロボロのパーカーと共演した人、ビリー・ヒギンズ(1936-2001)はオーネット・コールマンのオリジナル・カルテットで名を上げてモンクのレギュラー・カルテットやブルー・ノート社のハウス・ピアニストに出世した売れっ子ドラマー、ハービー・ルイス(1941-2007)はロサンゼルス時代にハロルド・ランド(ex.ブラウン&ローチ・クインテット)の『The Fox』'59でレコーディング・デビューしニューヨークに進出してアート・ファーマーベニー・ゴルソンのジャズテットでジミー・ギャリソンの後任についていた新人でした。古い恩人のバド・パウエルは'64年帰国しますが、当時は'59年以来パリを拠点にヨーロッパで活動しており、滞欧中のパウエルをモデルにした映画『ラウンド・ミッドナイト』'86でテナー奏者に置き換えて美化されたのは噴飯物な綺麗事でしかなく(映画で描かれたファンのフランス人青年のモデル、F・ポードラも近年縊死自殺しました)、伝えられる近況は公私ともに無残なものでした(帰国後のパウエルは畏敬と同情を集め、フリー・ジャズ系の若手メンバーと佳作アルバムを1枚発表しますが統合失調症重篤に慢性化し、クラブ出演も散発的になり、拒食症から全身衰弱と栄養失調に陥って'66年に亡くなります。享年42歳でした)。マクリーンのヴァージョンは感動的ですがオーネットの感化からサックスによる肉声表現に挑んでピッチは不安定、所々ハーモニクス奏法らしき変則奏法からリードがひっくり返ってフリーク・トーンを発生させています。ビショップのピアノはバド以上に耽美的ですし、ベースとドラムスはテンポ・ルバートで装飾に回っています。それでいて前衛的な演奏にはちっとも聴こえないひとなつっこさがマクリーン節なのですが、マクリーン本人にとってはこのアルバムは初のフリー・ジャズへの挑戦で、そこでパウエルのこの曲を選んだというのも深い思いが込められているように感じられるのです。

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ジャッキー・マクリーン Jackie Mclean - I'll Keep Loving You (from the album "Let Freedom Ring", Blue Note BLP-4106, 1963) : https://youtu.be/fMqkJ1mFIYw - 6:18
Recorded at The Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, March 19, 1962
Released by Blue Note Records BLP-4106, May 1963
[ Personnel ]
Jackie McLean - alto saxophone
Walter Davis, Jr. - piano
Herbie Lewis - bass
Billy Higgins - drums