人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ビル・エヴァンス Bill Evans Trio - 恋とは何でしょう What Is This Thing Called Love? (Riverside, 1959)

イメージ 1

ビル・エヴァンス・トリオ Bill Evans Trio - 恋とは何でしょう What Is This Thing Called Love? (Cole Porter) (from the album "Portrait In Jazz", Riverside Records RLP 12-315, 1960) : https://youtu.be/mSr52pyHBDQ - 4:35
Recorded in New York City, December 28, 1959
[ Bill Evans Trio ]
Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)

 この曲ほどの大スタンダードになると厳選しても1回には収まりません。たいがいの'50年代ジャズマンなら演奏しているくらいなのですが、ビル・エヴァンスマイルス・デイヴィスのバンドから独立して初めて組んだレギュラー・トリオの第1作でも実に微妙なニュアンスの解釈の演奏が聴けます。ビ・バップ以降のモダン・ジャズ・ピアノはヴァーティカルな和声法解釈による革新的なバド・パウエル派と伝統的和声法に非パウエル派で二分されていたと言って良い状況でしたが(パウエル派にも伝統派にも属さない革新派のセロニアス・モンクレニー・トリスターノは例外的な存在でした)、ホリゾンタルな和声法解釈によるビル・エヴァンスの登場はさらにエヴァンス派という新たな流派を生み出すことになります。
 ヴォーカルではビリー・ホリデイに10年遅れて、ネルソン・リドル・オーケストラとの名盤でシナトラ最高傑作のひとつ『In The Wee Small Hours』で円熟した歌唱が聴けます。シナトラはビリーは同年生まれなのですが、10代でデビューしたビリーより5年あまり遅いデビューながら'50年代半ばにはビリーを引き離してトップクラスのヴォーカリストとして乗りに乗っていました。シナトラの優雅かつ豪奢なオーケストラ・バラード路線の大成功がキャリア後期のビリーの羨望を招いて、良くも悪しくもビリーをますます必ずしも本領ではないバラード指向に向かわせたのは間違いありません。

イメージ 2

Frank Sinatra with Nelson Riddle Orchestra - What Is This Thing Called Love? (from the album "In The Wee Small Hours", Capitol Records ‎W-581, April 1955) : https://youtu.be/GIOJ2gkrNvc - 2:36
Recorded at Capitol Studios, Los Angeles, California, February 16, 1955
[ Personnel ]
Frank Sinatra (vo),Nelson Riddle (arr,conduct), Nelson Riddle Orchestra

 ビル・エヴァンスホリゾンタルな和声解釈はエヴァンスが一から発明したものではなく、理論派ジャズマンのジョージ・ラッセルマイルス・デイヴィスのブレインでアレンジャーのギル・エヴァンス(ビル・エヴァンスのマイルス・セクステット加入もこの二人の推薦によるものでした)が旋法と和声の照応の面から推し進めていたものでしたが、ビ・バップに触発されて独自にエヴァンスの先駆となるようなアプローチを生み出していたレニー・トリスターノのジャズは黒人ジャズのリスナーはもちろん白人リスナーにとっても取りつくしまのないようなもので、ミュージシャンズ・ミュージシャンの極めつけのようなジャズマンでした。次のトリスターノのオリジナル曲(Subconsciously(無意識的な)と"Subconscious-Lee(無意識下のリー)"をかけています)は一聴明らかな通り「What Is This Thing Called Love?」の改作ですが、ビ・バップのスタンダード改作がコード進行の細分化と置き換えによるものだったのとは異なり、切れ目のないメロディーとシンコペーションするリズム・アクセントを極端に追求したものです。ビル・エヴァンスがトリスターノの手法をもっと親しみやすい音楽性に消化したものとすれば、セシル・テイラーはモンク、パウエルのパーカッシヴな発想でトリスターノの手法をより複雑なインプロヴィゼーションに発展させていったと言えます。

イメージ 3

Lennie Tristano Quintet featuring Lee Konitz - Subconscious-Lee (Lennie Tristano) (from the album "Subconscious-Lee", Prestige Records PRLP7004, 1955) : https://youtu.be/RK4U0Q3LbWE - 2:50
Recorded in New York City, January 11, 1949
[ Lennie Tristano Quintet feat. Lee Konitz]
Lennie Tristano (p), Lee Konitz (as), Billy Bauer (g), Arnold Fishkin (b), Shelly Manne (ds)

 コール・ポーターは20世紀前半のアメリカのポップス作曲家では際立った斬新なコード進行の魔術師でしたが、ならばいっそう和声の束縛から自由にベース、ドラムスだけをバックにしたテナーサックス・トリオの演奏で試みた奏者にソニー・ロリンズがいます。オーネット・コールマンのピアノレス・カルテットの登場までピアノレスのバンド編成はたいへん実験的な手法で、ジェリー・マリガン・カルテットやジミー・ジュフリー・トリオのような例外的成功例はありましたがマリガンやジュフリーの手法は本人たちにしか使えないものでしたし、しかもロリンズの場合はワンホーンのピアノレス・トリオだったのも注目を集めました。結果は6曲入りの傑作ライヴ・アルバム『A Night at the Village Vanguard』'58になりましたがCD化の際に未発表曲、未発表テイクが次々と発掘され、1999年版の2枚組CDでは全18曲(別テイク含む)に集成されています。「What Is This~」はLP発売時は選曲に洩れ、完全版CDで発掘された演奏曲です。14分あまりのテナー、ベース、ドラムスだけの演奏をお楽しみください。

イメージ 4

Sonny Rollins Trio - What Is This Thing Called Love? (rec.'57/from the album "A Night at the Village Vanguard - 1999 Reissue Edition (2CD, 18Tracks)", Blue Note ‎Records 7243 4 99795 2 9, 1999) : https://youtu.be/sBDulH-XsSM - 14:03
Recorded at The Village Vanguard, New York City, November 3, 1957
Originally Released by Blue Note Records BLP 1581(6Tracks Only), 1958
[ Sonny Rollins Trio ]
Sonny Rollins (ts), Wilbur Ware (b), Elvin Jones (ds)