人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2018年6月19日~21日/ 本多猪四郎(1911-1993)監督時代のゴジラ映画より(2)

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 さてようやく、本格的な怪獣対決路線のゴジラ映画の時代がやってきました。ここからカラー、ワイドスクリーンにもなり、東宝のドル箱作品だけあってレストアされた現行の映像ソフトではVHSテープやLD時代以上に素晴らしい画質を堪能できるのは嬉しいことです。実は『モスラ対ゴジラ』に先だって『ゴジラの逆襲』'55以来のゴジラ映画『キングコング対ゴジラ』'62があり、これはアメリカのRKO映画社から5年間の期限で8,000万円の名称使用料(商標権利料)を支払って製作された正式な日本版キングコング映画でもありますが、観客動員数1,255万人・興行収入4億3,000万円を記録し、当時の日本映画で『明治天皇と日露大戦争』'57(製作費2億円)の純益5億4,300万円に次ぐ歴代2位の超特大ヒット作になっており、これは歴代ゴジラ映画でも最高の興行成績でもあると同時に対決形式のゴジラ映画シリーズを生み出す具体的なきっかけにもなりました。さすがに次の『モスラ対ゴジラ』'64は観客動員数722万人・興行収入3億1,000万円、『三大怪獣 地球最大の決戦』'64は観客動員数541万人・興行収入3億9,000万円、『怪獣大戦争』'65は観客動員数513万人・興行収入4億1,000万円と、『ゴジラ』'54の観客動員数961万人・興行収入1億6,000万円、『ゴジラの逆襲』の観客動員数834万人・興行収入1.7億7,000万円にも観客動員数で及ばず物価指数に照らせば興行収入も及ばないことになりますが、日本の映画観客数は'63年をピークに翌年の'64年(昭和39年)から激減の一途をたどり、それは東京オリンピック開催のテレビ中継によりテレビが一気に家庭に普及したためオリンピック開催中は映画館はがらがらで、しかもテレビで満足した観客の映画館離れがオリンピック終了後も進む一方だった(もっとも'65年3月公開の公式オリンピック記録映画、市川崑監督の『東京オリンピック』は製作費も3億5,360万円に上りましたが配給収入=純益12億2,321万円の超特大ヒット作になりました)という趨勢では、ゴジラ映画は東宝の命綱だったのです。オリンピックの年'64年にシリーズ復活したゴジラ映画が4月29日公開(ゴールデンウイーク)の『モスラ対ゴジラ』、12月20日公開(冬休み)の『三大怪獣 地球最大の決戦』と2本も作られた背景、のち'75年までジリ貧をなじられながら毎年ゴジラ映画のシリーズ新作が作られ、内容もファミリー向け映画になっていったのはそうした背景からでした。
 またゴジラ映画を筆頭に日本製の怪獣映画はモンスター映画としての国際性のみならず特撮の質が高いことで諸外国でも人気があり、輸出商品としての需要もあったので、海外市場からの収入も堅実な分野だったのです。『モスラ対ゴジラ』は英語圏では日本版オリジナル・ヴァージョンは『Mothra Vs. Godzilla』、アメリカ版吹き替え編集ヴァージョンは『Godzilla Vs. The Thing』で、これはモスラ単独初登場作品『モスラ』'61のアメリカ版吹き替え編集ヴァージョンが『The Thing』であることに由来します。『三大怪獣 地球最大の決戦』はキングギドラ初登場の作品で、実際は単体初登場作品が『空の大怪獣ラドン』'56のラドンも出てきますからゴジラモスララドンキングギドラの四怪獣なのですが、四大怪獣では語呂が悪いのと地球側怪獣だけなら三大怪獣ともこじつけられるのでこうなったのでしょう。そこら辺ややこしくなるので英語圏タイトルは日本版オリジナル・ヴァージョン、アメリカ版吹き替え編集ヴァージョンとも『Ghidorah, The Three-Headed Monster』に統一されています。年2作ゴジラも初めてでしたが翌年も連続ゴジラ映画は初めてなので次作はシンプルに『怪獣大戦争』ですが、英語圏では日本版オリジナル・ヴァージョンは『Invasion Of Astro-Monster』と宇宙人侵略が強調され、アメリカ版吹き替え編集ヴァージョンは『Godzilla Vs. Monster Zero』と誤解を招きはしないかと思うようなタイトルになっています。また子供時代にゴジラ映画をご覧になった方には、『三大怪獣 地球最大の決戦』は「金星人の王女さまが出てくる」「モスラゴジララドンキングギドラとの戦いの共闘を呼びかける」「ザ・ピーナッツが怪獣語の通訳をする」、『怪獣大戦争』は「ゴジラが5回シェーをする」「X星人の女性(の顔)が全員水野久美」「ニック・アダムズの声がいかした納谷悟朗」といえばそういやそんなゴジラ映画があったな、と思い浮かべていただけるのではないでしょうか。そういう次第で、今回も一度目は気楽に、二度目はメモを採りながらどうにか感想文をひねり出してみましたが、敵はオリンピックとテレビではゴジラ映画のシリーズ化と内容の変化は避けられなかったと今さらながら製作側の苦渋もうかがわれ、内容の低年齢化をあげつらうのも酷な気がするのです。

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●6月19日(火)
モスラ対ゴジラ』(東宝'64)*本多猪四郎監督, 89min, Color; 昭和39年4月29日公開

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○解説(キネマ旬報映画データベースより)「海底軍艦」の関沢新一のオリジナル・シナリオを「海底軍艦」の本多猪四郎が監督した空想怪奇映画。撮影もコンビの小泉一。
○あらすじ(同上) 南海の孤島インファント島沖に台風X号が発生、大暴風雨となった。新産業計画として発足した倉田浜干拓工事現場も、壊滅してしまった。新聞記者酒井(宝田明)と中西純子(星由里子)は、流木の中から、放射能を含んだ異様な牙を発見した。その頃、静の浦の海上に、三〇メートルもある巨大な卵が漂着した。この巨大な卵を囲んで三浦博士(小泉博)以下学界の面々が調査したが、正体がつかめなかった。そして巨卵は興行師熊山(田島義文)と政界ボス虎畑(佐原健二)が買い取り、商売に利用しようとたくらんでいた。三浦博士らは、酒井、純子らと対策を練ったが、そこえ妙なるメロディと共に小美人(ザ・ピーナッツ)がインファント島からモスラの卵を返して欲しいとやって来た。しかしこの小美人をも商売の対象とした熊山らのために、人間社会に失望してインファント島へ帰っていった。一方倉田浜干拓地では、大音響と共に海底が地割れし、不死身の大怪獣ゴジラが出現した。恐ろしい放射能を吐き、蓄積したエネルギーをぶちまける巨竜に、何ら防禦の道はなかった。三浦博士と酒井、純子の三人は、モスラを頼ってインファント島へ行った。願を聞いたモスラは、大きく羽ばたいて静の浦へと進撃した。巨大な孵化装置の上にのっている卵を間にゴジラモスラの対戦が始った。放射能を吐くゴジラと、金色の猛毒粉をふりまくモスラだが、遂に老蝶モスラは、ゴジラ放射能で消滅した。しかし卵からかえった二匹のモスラは、毒糸でゴジラをからめとり、海底深くしずめていった。

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 シネマスコープとどう違うのかはさておいて、堂々たる「東宝スコープ」のTMタイトルから夜の海面の波濤を横移動するクレジット・タイトルのバックからカラー映像(東宝は『空の大怪獣ラドン』'56ではイーストマンカラー、『キングコング対ゴジラ』'62ではテクニカラーを使ってどちらも「総天然色」とだけ表示していますが、データがない本作はおそらくイーストマンカラーと思われる発色です)とワイドスクリーンの幸徳を思い知らされます。モスラの卵が台風に流されて漂着したのが本編開始からほぼ5分目で、そこまでで主人公の新聞記者酒井(宝田明)とヒロインの助手、新人カメラマン純子(星由里子)、またモスラの卵が漂着することになる浜の漁師たち、後でゴジラの出現地になる倉田浜干拓地の欲深い人々が紹介されます。浜に上がった虹色の卵と人物たちの合成も見事で、キネマ旬報によれば30メートルとありますが取り巻いた人々との比率からではもっと大きく見えます。酒井と純子が到着すると、卵は漁師から買い取ったと主張するハッピー興行の熊山(田島義文)が登場し、政界ボス虎畑(佐原健二)と卵を見世物にレジャーランドを開こうと密談するのが10分目、そこに「やめてください。卵を返してください」といつの間にか部屋に忍んでいる双子の小美人(ザ・ピーナッツ伊藤エミ伊藤ユミ)が登場、そこに酒井と純子が到着して熊山・虎畑に抗議し、小美人からインファント島の守り神モスラの卵との事情を聞いて改めて熊山たちに談判、熊山たちは卵を返すどころか小美人たちを買い取ろうと酒井たちに言い出す始末で、小美人たちが一旦諦めてモスラの迎えで帰っていくのが本編20分目、倉田浜干拓地から異常な放射能検出の報からゴジラ出現が本編30分目と、この倉田浜は名古屋の城下町らしく35分目には城の大破壊、すかさず対策本部の場景になります。夜行性動物というゴジラの設定は閑却されているようでゴジラ出現と名古屋破壊も白昼堂々です。対策本部の場景が2、3分で報道記者室に切り替わると、宝田明が「モスラにやっつけてもらえれば」と言い出し、小美人たちと交渉できるのは宝田明と星由里子しかいない、と三浦博士(小泉博)が二人を急かしてインファント島に渡るのが35分目、全身赤塗りのインファント島の男たちに捕らえられ、日本語を話す長老にモスラの助力を断られる(40分目)、小美人にも断られる(45分目)、しかし星由里子の歎願でモスラが鳴き声を上げ、ザ・ピーナッツモスラのテーマ曲(インファント島語版)を歌い「モスラは力をお貸しします」とこれがもう余命の短いモスラの最後になると語るのが50分目です。対策本部の作戦風景からすぐ東進するゴジラの姿になり、興行がフイになった熊山が虎畑のホテルの部屋に乗り込んで虎畑を殴り倒し、虎畑は熊山を射殺し、その時ゴジラがホテルを襲撃して逃げ遅れた虎畑が瓦礫の下敷きでお陀仏になるのが55分目。そして続く5分で壊されたホテル近くの赤土の原にワイヤーで安直されたモスラの卵に迫るゴジラ、駆けつけたモスラと小美人、モスラゴジラの戦いになりますが、モスラは60分目で力尽きて地上で卵を覆って死んでしまいます。「でも卵があります」と小美人。ゴジラは戦車攻撃、空挺隊の爆弾投下をものともせず進んでいくのと小美人の歌声に親モスラの翼に抱かれた卵とインファント島のモスラ誕生祈願の舞踏がオーヴァーラップし、ゴジラが防衛部隊と放電施設をすっかり壊滅させると70分目。ゴジラの進行方向の離島の学校に生徒や教師たちが避難しそびれているのが明らかになり、ザ・ピーナッツの歌とインファント島の祈祷の舞踏が高まって卵から二匹の幼虫が孵化するのが75分目。本作のゴジラはオリジナルのゴジラより三白眼で頭も小さめに見えますが、モスラの幼虫も『モスラ』'61の幼虫より茶色く見えます。近接戦ではゴジラの尻尾に噛みつく攻撃しかできない幼虫は80分目からゴジラの白熱放射を逃れて岩山の隙間に隠れて左右からゴジラに撚糸を噴射、ゴジラは全身を撚糸に包まれてもがき、崖から海中に転落して沈んでいきます。「また来てくれますね」「はい。さようなら」と別れを告げる双子小美人、そしてはるかな海面で映画は終わります。
 宝田明と小泉博がそれぞれ『ゴジラ』'54、『ゴジラの逆襲』'55の時から見違えるような落ち着いた俳優になっているのがまず安心して観ていられますし、本作を観るとやはり『ゴジラの逆襲』の小田基義監督は脚本に恵まれなかったとともに不向きだったのかな、と本作の本多猪四郎監督の手際と較べると思わないではいられません。小田監督も東宝と新東宝を股にかけたプログラム・ピクチャーのベテランであり、新東宝では木下恵介脚本で後に木下自身の監督作となる『日本の悲劇』'53を企画した意欲的姿勢もあり、前年に東宝の特撮変身人間シリーズ三部作『美女と液体人間』'58(佐原健二主演、本多猪四郎監督)、『電送人間』'60(鶴田浩二主演、福田淳監督)、『ガス人間第一号』'60(三橋達也主演、本多猪四郎監督。また番外編として本多猪四郎監督作品『マタンゴ』'63)の先駆作となった『透明人間』'54を手がけて成功させていますが、巨大怪獣ものはまた別の難しさがあったということでしょう。『モスラ対ゴジラ』に戻れば、この映画にしても特に監督の個性や演出の妙を意識させることはないのですが、プログラム・ピクチャーとしては『ゴジラ』'54より柔軟になっている。テンポも快調だしシークエンスごとの密度にもムラがなく、自然な展開(と感じさせる無理のない演出)で快適に観ていられます。たぶん『ゴジラの逆襲』を本多監督が手がける段取りになっていたら続編に回された課題が大きすぎて、『ゴジラ』同様監督自身の共同脚本によって引き受けたとしても『ゴジラ』自体があれ1作で完結した映画だった分『ゴジラ』の続編であってしかも別の作品にするには『ゴジラの逆襲』のようにはあっけない出来では終われなかったでしょう。本多監督は『ゴジラ』の次の監督作の撮入予定が入っていたので『ゴジラの逆襲』の監督は実質的にゴジラの発案者で生みの親である東宝プロデューサーの田中友幸(1910-1997)が小田基義監督に回すに任せたので、『キングコング対ゴジラ』で再びゴジラ映画の監督を勤めることになっても先に『ゴジラの逆襲』がありましたからシリーズ第2作でなら抱えこむことになったプレッシャーは稀薄だったと思いますし、その上『キングコング対ゴジラ』はキングコングを主役と決めて作られた企画でしたからなおさらです。この時期本多監督の社会派的視点は変身人間シリーズ作品の方に現れていると考えられ、本多監督(8作)に次いでゴジラ映画を多く手がける(5作)ことになる福田淳監督の『電送人間』も含め変身人間シリーズ三部作と番外編『マタンゴ』は人間の我欲をまともに描いていることで後の円谷プロのテレビシリーズ『怪奇大作戦』'68につながる恐怖映画の異色作になっています。ひるがえって本作はモスラの卵や双子小美人を見世物にしようとする悪役の名前も熊山、虎畑と言う具合で明快なプログラム・ピクチャーであり、のち「ウルトラQ」のニュース取材民間機パイロットや「ウルトラマン」の長官役になる佐原健二が悪党役でなかなかこれもはまっているので面白いのですが、本作はすでに同年12月公開の『三大怪獣 地球最大の決戦』の企画と並行していたでしょうからゴジラの最期は続編を暗示した生死不明の敗退になっており、東京オリンピック開催はこの年10月10日から24日までの2週間ですが、すでに映画観客動員数にはオリンピック開催の事前特集番組とテレビ普及ではっきりと衰退が現れていたとすれば、ゴールデンウイーク映画の本作の健闘は讃えられてしかるべきでしょう。モスラはもともとインファント島の守り神、ザ・ピーナッツ演じる双子小美人は(インファント島の島民は別に小人でも何でもないので)一種の妖精なので『モスラ』でも自衛はしても攻撃はしない存在だったので今回はゴジラ退治に日本を助ける役割を勤めることになり、本作はゴジラが悪役怪獣として出てくる昭和シリーズでは最後の作品でもあります。本多監督の手堅い演出で次作、次々作とゴジラは徐々に人間の味方となっていきます。このあたりの1作ごとのゴジラの変化も案外スムーズに行われているのはシリーズ定着=プログラム・ピクチャー化のための周到な計算以上に丁寧なサービス精神がうかがわれ、これはこれで娯楽映画のあり方としては正統な手法であるとも認めないではいられません。

●6月20日(水)
三大怪獣 地球最大の決戦』(東宝'64)*本多猪四郎監督, 93min, Color; 昭和39年12月20日公開

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○解説(キネマ旬報映画データベースより)「宇宙大怪獣 ドゴラ」の関沢新一のオリジナル・シナリオを、すでにコンビの本多猪四郎が監督した空想科学映画。撮影もコンビの小泉一。1971年に「ゴジラモスラキングギドラ 地球最大の決戦」に改題され、「東宝チャンピオン祭り」で公開。
○あらすじ(同上) 一九××年。日本は異常な温暖異変に襲われていた。××放送「20世紀の神話」取材班進藤(夏木陽介)、直子(星由里子)はこの異常現象をテーマにキャンペーンをしようと連日大奮闘。そんなとき金星人を自称する女予言者、サルノ王女(若林映子)が現れ、地球の大変動を告げた。サルノ王女の予言は当った。阿蘇火山からラドンが復活し、北極海からはゴジラが眠りからさめ行動を開始した。そして、さらに金星を死の星とした宇宙怪獣キングギドラが現れ地球は大混乱におちいった。キングギドラの誕生をまのあたりに見た帝都工大の村井助教授(小泉博)は、キングギドラを撃退するにはモスラゴジララドンらの力を借りる以外にないと考え、モスラの支配者、インファント島の小美人(ザ・ピーナッツ伊藤エミ伊藤ユミ)に協力をたのんだ。一方横浜に上陸したゴジラは横浜を全滅させ、ラドン松本市で対決し、さらに小競合を続けながら富士山頂近くでにらみあっていた。が、そこに割って入ったのが小美人の要請でインファント島からやって来たモスラである。モスラの仲裁にもかかわらずゴジララドンの敵対心を柔らげることはできなかった。モスラは単身キングギドラに向った。しかしモスラキングギドラの敵では無く、危機におちいった。が、モスラ危しとみたゴジララドンは力を合せてキングギドラにむかった。さすがのキングギドラも、この三怪獣の攻撃に降参して地球を去っていった。

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 本作は怪獣多数登場が売りものの作品だけあって、クレジット・タイトルも銀色の鱗、ゴジラに襲いかかるラドン(『空の大怪獣ラドン』'56)、モスラの幼虫、がばりと向かってくるゴジラストップモーションがバックになります。映画は開巻いきなり相次ぐ気象異常や巨大隕石の落下からゴジラに次ぐ怪獣の災禍を警告する科学者の主張を取材する報道記者直子(星由里子)の場面から新聞社での待機中に中近東の国「サウジアラビナ」から王位継承権を持つサルノ王女(若林映子)来日の報を受けた兄の警察官・進藤(夏木陽介)の姿になり、進藤はサルノ王女来日時のボディガードに任命されます(キネマ旬報あらすじの「××放送「20世紀の神話」取材班」は妹直子のみで、兄進藤については誤り)。一方航空機の中で大使からそろそろ日本到着と告げられたサルノ王女が宇宙からの声を聴く場面になります。進藤のもとにサルノ王女の乗った飛行機は爆破されたとの報が続き(これがすんなり流されてしまうのはどうかと思いますが)、謎の男装の女性が金星人を名乗って街頭で日本の災害の危機を訴えているのを直子が目撃し、金星人預言者の話題がニュースになります。ここまでが本編から15分で、星由里子が実家でボーイフレンドとからかわれている村井博士(小泉博)の巨大隕石の学術調査予定の話題をし、母サト(英百合子)と兄とテレビを観ると青空千夜・一夜の「あの人は今」の公開番組でモスラに会いたい、という少年たちにインファント島からやってきた双子の小美人(ザ・ピーナッツ伊藤エミ・ユミ)がモスラの近況を話して歌を披露(今回は日本語の別曲)、幼虫のうち一匹は死んでしまったが一匹は島を守っている話をインファント島の情景とオーヴァーラップで語ります。25分目で王女暗殺は失敗ではないか、と金星人預言者の記事を示すサウジアラビナ(セルジアと略されたりもしています)国の大臣が王女の死に疑念を抱いて部下を叱責している様子と、続くシークエンスで阿蘇山の登山者の登頂を止めようとする預言者の女性、そして阿蘇山から出現するラドンが描かれます。ザ・ピーナッツがインファント島に帰ろうとする港に「その船を出航させてはいけません」と女預言者が現れ、直子は女預言者を家に連れ帰ります。双子小美人は直子の家に船に乗るのは止めました、と現れ、「でももう間に合いません」と言う台詞に続いて船の沈没が映ると35分目。女預言者をかくまう進藤と直子の家にサウジアラビナ国の大使が現れ、女預言者をサルノ王女と確認し連れ去ろうとするのを進藤が追い払い、一方巨大隕石が日に日に巨大化するのが描かれて、ゴジラ上陸が45分目。ゴジララドンが松本に向かうという報とともに進藤はサルノ王女に塚本博士(志村喬)の研究所精神科の科学療法を受けさせますが、サルノ王女に異常はなしと診断され王女は「私たちの星、金星を壊滅させたキングギドラが地球にやってきています」と予言します。松本城を破壊するゴジラゴジラに襲いかかるラドンザ・ピーナッツが対策本部に星由里子とともに現れ、預言者の語るキングギドラの危機とキングギドラ撃退のためにはモスラだけでは無理でゴジララドンの協力が必要であること、そのためモスラゴジララドンを説得させることを説き、モスラを呼ぶ歌を歌う中キングギドラが飛翔してくるのが本編開始60分目で、次いで塚本研究所では睡眠療法でサルノ王女からサルノ王女の意識は5,000年に地球に逃げ延びてきた金星人であることが判明します。ゴジララドンの戦いは続き、70分目でようやくモスラ幼虫は日本上陸、ゴジララドンの動きを撚糸で引き止めます。モスラが呼びかけるゴジララドンへの説得となかなか聞き入れないゴジララドンの会話をザ・ピーナッツが進藤と直子に通訳します。モスラ幼虫は共闘の説得を諦め、地上に降りてきたキングギドラに単身向かっていきます。それにつられてようやくゴジララドンキングギドラに向かっていきます。80分目で怪獣たちの戦いの最中サルノ王女は姿をくらまし、岩窟の中で祈りを捧げますが、暗殺を狙う大使に狙撃されます。追ってきた進藤が大使に銃撃して岩窟を転げ落ちた王女を抱き起こすと、意識を取り戻した王女からは金星人の意識は消えてサルノ王女に戻っています。怪獣たちの戦闘で崩れ落ちる岩窟から進藤は王女と脱出し、大使は落盤に押し潰されます。そこまでで85分が過ぎ、3対1の怪獣対決でキングギドラが去って行き、王女が記者会見の後で進藤に「あなたには三度助けられました。金星人の記憶は消えていても、それだけは忘れていません」と感謝と別れの言葉を告げ、「私たちはインファント島に帰ります。さようなら」と海岸の岸壁で見送るゴジララドンに、小美人の声とともに海に去って行くモスラ幼虫の姿(海面だけで姿は見えませんが)で映画は終わります。
 本作の見所は何といってもキングギドラ、長い三つ首の翼竜で腕はないのに二足歩行で尻尾は2本といういかれた造型の最強怪獣の登場に尽きますが、欠点はと言えばクライマックスであるはずのゴジラモスラ(幼虫)、ラドンとの戦いがちっとも盛り上がらず、正確にはモスラ幼虫の共闘の呼びかけがゴジララドンに聞き入れられずモスラ幼虫が一匹でキングギドラに向かって行き、ならばおれもとゴジララドンキングギドラに向かっていくあたりまでは期待させるのですが、そこから先は延々取っ組み合いになるだけで最後はキングギドラは根負けしたような具合で飛び去って行くのでゴジラモスラ幼虫、ラドンが共闘してキングギドラを撃退したという風にはまったく見えないのです。どうも続編再登場の余地を残して終わらせる癖がゴジラ映画にはついてしまったようで、これは後発の大映の『ガメラ』'65が第2作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』'66以降第3作『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』'67、第4作『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』'68ときっちり相手の怪獣にトドメを刺しているのに倣ってスター級の怪獣は残すが1作限りの相手はトドメを刺すようになってようやく解消されます。本作『三大怪獣 地球最大の決戦』と次作『怪獣大戦争』では宿敵キングギドラを追っ払っただけ、という不完全燃焼な終わり方をするので(『怪獣大戦争』ではキングギドラを一時的に操っていたX星人が自爆しますが)、'54年の『ゴジラ』のように初代ゴジラが絶命するか、『モスラ対ゴジラ』のように戦いの最中寿命の尽きた成虫モスラが殉死するかといったカタルシスがない、ということになる。本作は『ローマの休日』'53の設定を換骨奪胎して、さらに5,000年前にキングギドラに滅ぼされて地球に逃れてきた金星人の遺伝的記憶が現代の中近東の王女の意識を乗っ取るとアイディアはなかなか面白く、さらにザ・ピーナッツモスラに頼んでモスラゴジララドンに地球の脅威キングギドラ撃退のため共闘を呼びかける、その怪獣語の会話を星由里子たちにザ・ピーナッツが通訳するのが当時の観客からも失笑を買ったそうですが、現役人気双子デュオ歌手のザ・ピーナッツのイメージが強かった当時はともあれおとぎ話の妖精として観てしまえばそういう能力の存在なのだろうと見てしまうのはおかしいでしょうか。これは伊藤姉妹の滑舌が抜群に明瞭で言葉づかいも過剰なくらい丁寧な標準語であり、非現実的なほどにインファント島の小美人という虚構になりきっているからでもあると思います。これにはザ・ピーナッツが猛烈に多忙な売れっ子歌手なので、身長30センチメートル(もっと小さく見えますし、統一されていないようにも見えますが)という特殊な設定を生かしてザ・ピーナッツの映像・音声だけは別撮り・別録音して合成編集されているため、双子小美人の言動はアドリブの余地のない様式的な印象を与えることにも由来していると思われます。ザ・ピーナッツ若林映子預言者の金星人と信じるのも当然なので、そもそもゴジラのいる世界ですからどんな超自然現象やご都合主義が起ころうが何の不思議もないので、『モスラ対ゴジラ』の悪党同様本作の悪党も巻き添えを食って死にますし、本作のザ・ピーナッツはテレビ番組「あの人は今」のリクエストに応えて親善来日している設定です。つまり田中友幸プロデューサーと本多猪四郎監督が円谷英二特撮監督とともに作ってきたゴジラ映画は、シリーズ化の定着を目指すとともにいよいよ方向性が明快になってきたということで、それは次作で翌年のお正月映画として封切られた『怪獣大戦争』ではなおさらはっきり打ち出されるものです。

●6月21日(木)
怪獣大戦争』(東宝'65)*本多猪四郎監督, 94min, Color; 昭和40年12月19日公開

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○解説(キネマ旬報映画データベースより)「風来忍法帖」の関沢新一がシナリオを執筆、「宇宙大怪獣 ドゴラ」の本多猪四郎が監督したS・Fもの。撮影もコンビの小泉一。1971年3月17日より、74分の短縮版が「怪獣大戦争 キングギドラゴジラ」と改題の上、「東宝チャンピオンまつり」にて公開。
○あらすじ(同上) 一九××年――宇宙に新惑星X星が出現した。宇宙パイロット富士一夫(宝田明)とグレン(ニック・アダムス、声・納谷悟朗)はX星探険に派遣された。X星には地球よりはるかに科学の進んだX星人がいた。が、今X星は宇宙怪獣キングギドラのために地上には住めなくなり地中に身を隠していた。X星の統制官は富士たちに、キングギドラを退治するために地球に住むゴジララドンを貸してくれと申しいれた。そのころ地球上では富士の妹ハルノ(沢井桂子)の恋人で発明狂鳥居哲夫(久保明)がつくった不協和音を発する女性用護身器を、世界教育社員と称する波川女史(水野久美)が買いたいと申し出ていた。それから数日後X星人は地球上に現われ、眠っていたゴジラを湖底から、ラドンを火口から、それぞれ無重力コースにのせてX星に運び去った。ところがこれはX星人の謀略であった。X星人にとって最大の敵ゴジララドンを連れ去ったX星人は直ちに地球に宣戦布告をしてきた。キングギドラX星人の発する誘導電波であやつられていたのだった。そして今やゴジララドンもX星人の誘導電波にあやつられ地球を攻撃してきたのだ。そのころ地球上の科学者桜井博士(田崎潤)は、怪獣をあやつるX星人の誘導電波を断ち切るための妨害電波の完成を急いでいた。一方のグレンと哲男は、ふとしたことから波川女史がX星人であることを知った。が、波川女史は、X星人の誓いにそむいてグレンに恋をし、X星人のために抹殺されてしまった。だが波川女史はグレンに哲男がつくった女性用護身器が発する不協和音が宇宙人のウィーク・ポイントであることを知らせた。桜井博士の妨害電波も完成し、荒れ狂う三匹の怪獣にあびせられた。哲男の発明した不協和音も拡大されてX星人に送られた。苦心の研究は実り、誘導電波を断ち切られたゴジララドンは再びキングギドラと対決して、見事に撃退した。不協和音のためにX星人も全滅した。ゴジララドンは海底に沈み、地球上にはまた平和がよみがえった。

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 本作クレジット・タイトルのバックは宇宙時代を意識したか勇壮なマーチが流れ(これは伊福部昭作曲のゴジラ映画のテーマの数々でも'54年版ゴジラ変拍子マーチに次いで人口に膾炙しました)、ロケット、円盤、衛星アンテナが次々と映ります。本編は宇宙空間をバックに「一九六×年、宇宙は新しくX星の誕生を見た」地球からは木星の陰になってこれまで観測されていなかった惑星が発見され、そのX星にロケットP1号で富士(宝田明)とグレン(ニック・アダムス、声=納谷悟朗)が調査に向かいます。グレンは宇宙ロケットと地上にエレベーターを設置し、富士は丘に日章旗星条旗を立てようとして謎の足跡を見つけますが、気づくとグレンの姿がない。グレンの失踪に焦る富士をX星人を名乗る謎の声が地下基地への入口を示し、富士を招き入れます。グレンを見つけた富士はX星の統制官を名乗る男に、X星は怪物ゼロの存在によってX星人は地下にしか住めず水の欠乏に苦しむ生活環境になっている、と映像を見せます。X星人の言う怪物ゼロとはキングギドラでした。X星人は地球では怪物ワン(ゴジラ)と怪物ツー(ラドン)によって怪物ゼロを撃退したと聞いたと言い(前作を指していますが、都合上モスラが抜けています。ザ・ピーナッツの出演スケジュールが合わなかったか、3作連続では飽きられるか、ザ・ピーナッツまで出すと完全に前作の続編になってしまうからでしょう)、癌の完全治療法を含めたX星の科学知識を見返りに友好関係を築きゴジララドンを借りたい、と申し入れ、P1号の帰還で伝えられたX星人の提案は世論に受け入れられますが、富士とグレンは何か秘密を隠した様子のX星人に不審を抱きます。ここまでが30分で、航空宇宙局に勤める富士の妹のハルノ(沢井桂子)の恋人で民間発明家の鳥居哲夫(久保明)の発明、ノイズを発信する携帯装置レディ・ガードの特許を5,000万円で買いたいという世界教育社員社員を名乗る謎の美女・波川(水野久美)が現れ、鳥居はこれで家族に結婚を反対されているハルノと結婚できると喜ぶ話が並行して語られます。帰国した富士は鳥居とハルノに会い依然結婚に反対しますが、グレンが交際している女性が謎の美女・波川と知って鳥居の話から富士は波川に不審を持ちます。グレンは富士に波川との観光先でX星人統制官の姿を見たと言い、X星人の円盤が湖底に眠るゴジラ、岩山に眠るラドンを冬眠状態のまま捕獲するのを目撃するのが35分目。富士とグレンはゴジララドンを連れ帰るX星人の円盤に同乗し、一方統制官が波川にグレンに近づきすぎるなと叱責する様子から水野久美X星人の一味であることが暗示され、X星に到着した富士とグレンがX星人の放ったゴジララドンキングギドラを撃退する様子が描かれて40分経過、X星人地下基地内を探る富士とグレンが女性のX星人がすべて水野久美と同じ容貌なのに気づき、また水不足というX星人が豊富な水を管理しているのを知りますが、X星人から癌の特効薬のデータというオープンリールテープを渡されて地球に戻ります。その間鳥居は世界教育社を訪ねてX星人統制官が送りこんだ地球人に化けた部下に拉致監禁されます。世界教育社はX星人の地球侵略基地だったということです。オープンリールの内容が公開公聴会X星人の地球植民地降伏勧告だったのが判明するのが50分目、グレンに自分がX星人であることを明かしてX星人帰化してと水野久美が懇願し、グレンを拉致しに来たX星人にXビーム光線銃で消滅させられるのが55分目。グレンは鳥居と同じ牢に拉致監禁されます。X星人キングギドラは自分たちが電磁波で操っており、ゴジララドンも今やX星人によって埋め込まれた装置で操縦されていると地球に戦線布告。防衛隊側は電磁波操縦破壊装置の開発を急ぐとともに地上部隊で応戦し、鳥居とグレンは水野久美の遺言から鳥居のノイズ発信機レディ・ガードがX星人の弱点と知り、レディ・ガードのノイズで脱出してくるのが60分目。それから20分間ゴジララドンキングギドラの大暴れが続き80分目でピークに達しますが、鳥居の開発したノイズが日本中の電波媒体から発信されX星人が「殺人音波だ!」と悶絶するとともにX星人の円盤もエンジン・トラブルを起こし、X星人の電磁波が弱まっている隙にゴジララドンキングギドラの電磁波操作受信装置を破壊する電波攻撃を放って3怪獣が昏倒するのが85分目。「電磁波操縦装置がやられました!」「我々が地球人に負けるはずがない。未来に向かって旅立つのだ!」と敗北を悟ったX星人が円盤、地上基地とも自爆し、昏倒から目覚めたゴジララドンキングギドラと2対1の戦いになり、ラドンに抱え上げられたゴジラの体当たりで3怪獣が崖から海中に没し、キングギドラが海から空の彼方に飛び去っていき、「ゴジララドンはどうなったんでしょう」「あのままやられているわけはないよ」やれやれ片づいた、という富士たちに「君たちはまたX星に徹底的な調査に飛んでもらうよ」との長官の指令に苦笑して顔を見合わせる富士とグレンの表情で映画は終わります。
 本作にモスラと、モスラとセットで出演するのが欠かせないザ・ピーナッツが出せなかったのはさすがに3作連続モスラ登場ではモスラがレギュラー怪獣化しすぎるのもあったでしょうし、おそらく俳優のギャランティで最高なのはザ・ピーナッツだったからでもあり、また多忙なザ・ピーナッツが抜き撮りとは言えモスラともども金星に赴く筋立て(ゴジララドンは冬眠中拉致してくればいいですが、モスラは双子小美人の許諾が必要と面倒な手続きが要ります)はシナリオがややこしくなり、双子小美人の祈りで行動するモスラに電磁波操縦装置というと、ジュラ期恐竜のゴジラ翼竜ラドンと違って、もともと神秘的な存在のモスラが電磁波操縦と双子小美人の祈りのどちらに従うかと面倒な話になります。そこで本作は主人公は『モスラ対ゴジラ』では新聞記者・酒田だった宝田明が宇宙飛行士・富士として出てくるので、モスラおよびザ・ピーナッツの登場は外したのでしょう。モスラを外したなら代わりにアンギラスや田中プロデューサー&本多監督の東宝怪獣『宇宙大怪獣ドゴラ』'64のドゴラなどはどうかとたぶん企画段階では検討されたでしょうが、アンギラスは『ゴジラの逆襲』ですでにゴジラに殺られていますし宇宙の凶悪エネルギー体怪獣ドゴラ(クラゲみたいなやつです)は世界観が違いすぎるのでゴジラ映画には相乗りできない、とどちらも即座に却下されたに違いなく、また5,000年前に金星を死の星にしたはずのキングギドラクレヨンしんちゃん映画レベルの悪役宇宙人X星人にあっさり操縦されているなど、だいぶ本作も後年第1作『ゴジラ』'54を除く昭和ゴジラ映画シリーズの全般的イメージに近づいてきました。モスラの説得なしにキングギドラを撃退するゴジラも初めて描かれたので、1作ごとにゴジラの立場も変化しています。東宝では『フランケンシュタイン対海底怪獣バラゴン』'65(本多監督、ニック・アダムズ、高島忠夫水野久美主演)や『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』'66で日米合作の特撮路線も始まっていたので、ニック・アダムズと水野久美の主演から本作は'65年8月公開の『フランケンシュタイン対海底怪獣バラゴン』の姉妹作とも言えて、X星調査は日米共同ですしX星に着くと宝田明が最初にするのは手頃な丘に日章旗星条旗を立てに行くことです。ゴジラの「シェー!」で有名な本作ですがX星で4回、地球に戻って1回やっていますが、電撃または宇宙空間なので「シェー!」を意識せずに観ればそれほど取ってつけたようには見えません。ゴジラのシーンは当然円谷英二特撮監督によるものですが、シェーをさせるアイディアも円谷英二が乗り乗りだったそうですから敗戦国の悲哀をこめた『ゴジラ』'54から10年が経ってそれほどスタッフのゴジラ映画への意識も変化したということでしょう。『ゴジラの逆襲』以降ゴジラ映画は東京湾でオキシジェン・デストロイヤーで倒された初代ゴジラの存在が前提となった2代目ゴジラになっているはずなので、それは宝田明の役も違えば、前作にも志村喬の塚本博士が登場するので(『ゴジラ』では山根博士)パラレルワールド的ではありますが、初代ゴジラ出現から10年経って何度となく2代目ゴジラが現れてもオキシジェン・デストロイヤーに代わる対ゴジラ兵器が開発されていないことにも国民的な総意があると言えて、敗戦国日本は再軍備を禁止された国との前提が現実の日本とゴジラ映画の中の日本をつなげています。シリーズの方向性が明確になってきたのは要するにゴジラ映画は怪獣好きな子供の見る夢にだんだん近づいてきたということで、X星人クレヨンしんちゃん映画の悪役宇宙人なのは当然で、クレヨンしんちゃん映画の方がゴジラ映画の末裔である冒険ファンタジーなので(しんちゃん映画も東宝です)、水野久美のような子供にもわかる「きれいなおねいさん」が悪役側のヒロインとして出てくるのが何より証拠となっていて(「なぜ全員同じ顔なんだ!?」と宝田明が叫ぶと、X星人は「君たちは美しい女性は嫌いか?」と答えます)、次回ご紹介する第10作『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』'69では遂に怪獣好きの子供の空想の世界として作品そのものがメタ映画化するという現象も起こります。シリーズ第4作~第6作『モスラ対ゴジラ』『三大怪獣 地球最大の決戦』『怪獣大戦争』は'64年・'65年の2年のうちにすでにそうした方向への転換が1作ごとに自然に進行していて、これらが'70年代にも短縮版編集されて「東宝チャンピオンまつり」の目玉作品として新作と交互に再公開され、テレビ放映頻度も高い作品になったのは、観客の嗜好がすでに初代『ゴジラ』や変身人間三部作のような陰鬱な特撮映画からは離れたのを痛感させられます。田中プロデューサー、本多監督、円谷特撮監督にはどちらの志向もあり、今回の3作も十分に丁寧に作られた面白い映画です。そしてたぶん、このあたりで止めておけばゴジラ映画の水準の高さを示す有終の美となったところで、次作・次々作の第7作『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』'66、第8作『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』'67はタイトルが示す通りいよいよファミリー向け怪獣映画化します。しかしそれ自体は悪いことでしょうか?