人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

セロニアス・モンク Thelonious Monk Quintet - プレイド・トゥワイス Played Twice (Riverside, 1959)

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セロニアス・モンククインテット Thelonious Monk Quintet - プレイド・トゥワイス Played Twice (Thelonious Monk) (Riverside, 1959) : https://youtu.be/k4-QRVktODQ - 8:00 (Take 3, Master Take)
Played Twice (Altanate Take 1) : https://youtu.be/TWI1dXQftPg - 6:57
Played Twice (Altanate Take 2) : https://youtu.be/m1pMZS3mUqw - 7:54
Recorded in New YorK City, June 1, 1959
Released by Riverside Records as the album "5 by Monk by 5", RLP 12-305, 1959
[ Thelonious Monk Quintet ]
Thelonious Monk - piano, Thad Jones - cornet, Charlie Rouse - tenor saxophone, Sam Jones - bass, Art Taylor - drums

 セロニアス・モンク(1917-1982)はチャーリー・パーカーバド・パウエルマイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンらと並んでモダン・ジャズの最重要ジャズマンとされているだけに未発表スタジオ・テイクやライヴ音源はほぼ完全に発掘され、2009年に1975年の最後のライヴとなったコンサート音源が発掘CD化されて誰もがモンクの未発表音源は打ち止め、と思っていました。沒後にモンクの早い引退は統合失調症の悪化で、晩年は家族の顔にも反応しなくなっていたのが明らかにされましたが、モンク最初の発症は1959年秋の西海岸ツアーで、サンフランシスコのホテルから外出したモンクはホテルに帰れなくなり、捜索されてようやく発見されました。この時には本人、家族、知人関係者にも笑い話になり、直後の10月に録音されたソロ・ピアノのアルバムは『Alone in San Francisco』'59と題されサンフランシスコのバスに乗るモンクの写真がジャケットを飾ったほどです。そのアルバムの前のアルバムが'59年6月録音の『5 by Monk by 5』'59で、5人編成で5曲のモンク・オリジナル曲を収めたことに由来するタイトルです。モンクは『Alone~』の次にライヴ盤『Thelonious Monk at the Blackhawk』'60('60年4月録音)を吹きこんで'56年以来のリヴァーサイド社との契約延長を断り、新録音を始めるのは最大手コロンビア社との契約第1弾アルバム『Monk's Dream』'63('62年10月・11月録音)になりますから、『5 by Monk by 5』は結果的にモンクが録音した、バンド編成でのスタジオ・アルバムでリヴァーサイド社最終作にもなりました。
 このアルバムはモンクのレギュラー・カルテットにゲストのサド・ジョーンズを迎えて快調に録音され、6月1日には新曲「Played Twice」が納得いくまで3テイク、6月2日にはモンクの初期の曲「Straight No Chaser」「I Mean You」「Ask Me Now」の新ヴァージョンが録音され、アルバム40分弱にはなりましたが、個人経営レーベルのリヴァーサイド社のオリン・キープニーズはあと1曲をリクエストし、すぐにモンクが作ってきた新曲「Jackie-ing」が難曲で6月4日はこの1曲の完奏テイクを録るのに3時間を費やしたそうです。楽曲としてはAA'BA'形式の「Played Twice」の方がAA'形式の「Jackie-ing」より奇怪なリズム構成を取っていますが、モンクの曲は一見あっけらかんとしているのに、演奏していると自分が何小節目にさしかかっているのかわからなくなってくる点では共通しているので、このあんまり怖くないお化けの行進のような「プレイド・トゥワイス」もプレイヤー泣かせの曲です。

 先に触れたセロニアス・モンクの未発表音源が、実は昨年2017年に、批評家ナット・ヘンホフの主宰した新レーベル、キャンディドのために1959年7月にまるまるアルバム1枚スタジオ・アルバムが録音されていたことが判明して発掘発売されました。『5 by Monk by 5』の翌月録音で、本作と同じチャーリー・ラウズ、サム・ジョーンズアート・テイラーのレギュラー・カルテットにゲストにフランス人ジャズマンのバルネ・ウィランを迎えたクインテット作品です。未発表の新曲はありませんがラウズ参加後のレギュラー・バンドでは初演になる曲ばかりで(のちにコロンビア社で新ヴァージョンを録音しますが)、キャンディド社と言えば翌'60年にマックス・ローチ『ウィ・インシスト!』、『ザ・ワールド・オブ・セシル・テイラー』『チャールズ・ミンガス・プレゼンツ・チャールズ・ミンガス』を次々と送り出した短命ながら意欲的なインディー・レーベルでしたから、モンクのアルバム・レコーディングが記録も秘匿されて60年近く眠って、しかもインディー・レーベルからの発掘リリースなのは、リヴァーサイドからコロンビアへの移籍決定で契約上キャンディド社が発売中止にせざるを得なかった(しかもモンクはサンフランシスコ事件後は家族のつきそいなしには外出しなくなり、コロンビアへの移籍初録音は丸2年以上遅れた)、そういういわくつきのアルバムなのでメジャーからは出せない著作権法的事情があるのでしょう。ヘンホフはレコード売り上げを左右するほど影響力のあったジャズ批評家でしたが、最大手コロンビア社の手前か、またはモンク自身がサンフランシスコ事件後はマネジメントを通してしか仕事関係者とは話さず、最後のスタジオ録音になった'71年のピアノ・トリオ録音では30年以上の旧友アート・ブレイキーにすら一言も口をきかなかったといいますから、モンク(またはモンク家、マネジメント)側の意向もあったのかもしれません。
 さて、モンクを尊敬したジャズマンの筆頭格に上げられるセシル・テイラーのバンド出身の、モンクへの敬愛は人後に落ちないスティーヴ・レイシー(ソプラノサックス、1934-2004)がキャンディド社から出した、モンクの未発表アルバムやキャンディド社の諸作と同じスタジオで録音したアルバムでは、モンクのオリジナル曲を3曲、テイラーから2曲、パーカーから1曲をピアノレス・カルテットで演奏しています。ドラムスはパーカー・クインテットスタン・ゲッツ・カルテット、セロニアス・モンク・カルテットの歴代ドラマーで、本作の頃はエリック・ドルフィーのプレスティッジ三部作のドラムスを勤めたロイ・ヘインズ(1925-存命、最新ライヴは2016年)ですが、このアルバムで演奏している「Played Twice」はもっとも早いこの曲のカヴァーだと思います。ところがピアノレス、しかもメンバーの理解が行き届いているあまりに演奏がスムーズに仕上がりすぎ、オリジナルの持つ面妖なムードをさっぱり洗い流した、軽快でスウィンギーなヴァージョンになっていて、これはレイシーとしてはちょっと目算違いだったのではないかと思われます。こなれているのは良いことですが、この曲の場合少々危なっかしいくらいでもいいので、ここらへんにもジャズの難しさがあります。

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Steve Lacy Quartet - Played Twice (Candido, 1961) : https://youtu.be/Qc_xJuvVyNU - 5:44
Recorded at The Nora Studios, New York City, November 19, 1960
Released by Candido Records Candido 8006(Mono) and 9006(Stereo) as the album "The Straight Horn of Steve Lacy", 1961
[ Personnel ]
Steve Lacy - soprano saxophone, Charles Davis - baritone saxophone, John Ore - bass, Roy Haynes - drums