人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

セロニアス・モンク・カルテットThe Thelonious Monk Quartet - セロニアス・イン・アクション Thelonious in Action (Riverside, 1958)

セロニアス・モンク - イン・アクション (Riverside, 1958)

f:id:hawkrose:20200527145652j:plain
セロニアス・モンク・カルテットThe Thelonious Monk Quartet - セロニアス・イン・アクション Thelonious in Action (Riverside, 1958) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLp1OjP0tJn_Hw0oASDQAl8f5u3_rAGDSU
Recorded live at the Five Spot Cafe, August 7, 1958
CD bonus tracks were recorded live at the Five Spot Cafe, July 9, 1958
Released by Riverside Records mono LP RLP 12-262, 1958/stereo LP RLP 1190, 1960
All songs were composed by Thelonious Monk, except where noted.

(Side 1)

A1. Light Blue - 5:14
A2. Coming on the Hudson - 5:24
A3. Rhythm-A-Ning - 9:25
A4. Epistrophy (Theme) (Kenny Clarke-Thelonious Monk) - 1:05

(Side 2)

B1. Blue Monk - 8:31
B2. Evidence - 8:48
B3. Epistrophy (Theme) (Clarke-Monk) - 1:05

(CD Bonus Tracks)

7. Unidentified Solo Piano - 1:54
8. Blues Five Spot - 9:56
9. In Walked Bud - 10:57
10. Epistrophy (Theme) (Clarke-Monk) -1:05

[ The Thelonous Monk Quartet ]

Thelonious Monk - piano
Johnny Griffin - tenor saxophone
Ahmed Abdul-Malik - bass
Roy Haynes - drums

(Original Riverside "Thelonous in Action" LP Liner Cover & Side 1 Label)

f:id:hawkrose:20200527145706j:plain
f:id:hawkrose:20200527145719j:plain
 このブログではセロニアス・モンクと並んでレニー・トリスターノセシル・テイラー、アンドリュー・ヒルらのアルバムを紹介してきました。いずれも優れたジャズ・ピアニストで、しかも一人一派と言ってよい作風のアーティストです。ホーン奏者ではオーネット・コールマンエリック・ドルフィー(ともにアルトサックス)の初期の代表作をご紹介しました。本当はアルトサックスではチャーリー・パーカー、ピアノではバド・パウエルが最重要ジャズマンなのですが、パーカーやバドは代表作を選ぶのが難しく、激しいキャリアの消長こみで聴かないとなかなか全貌のつかめないアーティストです。ジャズマンに限りませんが、キャリアを編年順に追う意義のあるアーティストと、キャリアの推移と作品理解にあまり関係のないアーティストがあります。前者の場合は創作力の消長が年代的に表れるアーティストですから労力をかけて全貌を追えばわかりやすいとも言えますが、後者の場合は必ずしもキャリアが直接作品には反映しないので、ある意味前者のようなタイプよりわかりづらいのです。前者では創造力の盛衰が率直に作品に現れますが、後者のタイプのアーティストはキャリアと作品との乖離が起こる場合もあります。早いうちに作風を確立してアルバムごとにアイディアを小出しにしていったアーティストもいれば、請け負い仕事を受けているうちに参加作を増やしていったジャズマンも後者に含まれます。セロニアス・モンク(1917-1982)はレコード・デビューの時点で生涯を押し通せる独創性を確立していました。以後のモンクのアルバムは参加メンバーによって印象が左右されるものが大半で、モンク自身はキャリアの累積による作風の変化がほとんど見られなかったアーティストになるでしょう。パーカーやバドのように年代を追って聴かないと全貌がつかめないタイプもやっかいですが、モンクの場合は創作力の絶頂期と代表作が必ずしも対応していないのです。

 モンクの伝記ではクリント・イーストウッド制作のドキュメンタリー映画セロニアス・モンク ストレート・ノー・チェイサー』1988がアメリカ国立フィルム登録簿に認定された古典となっており、書籍では2014年秋に刊行された村上春樹編・訳『セロニアス・モンクのいた風景』が広く読まれています。どんな辞典やガイドブック、音楽サイトでもセロニアス・モンクはジャズ史上最重要ジャズマンとされていますが、モンク以前のアーティストでモンクと匹敵するジャズマンはルイ・アームストロングデューク・エリントンくらいになります。モンクと同じくらい偉くて、モンクより早い世代のジャズマンはこの2人になり、モダン・ジャズ全体を文化として体現したのはパーカーやパウエルよりもモンクと見なされています。パーカーやパウエルはジャズ界のカリスマでこそあれアメリカ国内では生前ついに文化人とは見なされませんでしたが、モンクは生前のうちに本人の意志とは関係なく文化人に祀り上げられたジャズマンでした。カウント・ベイシーチャーリー・パーカーはモンクと同等以上の重要ジャズマンですが、ここまで名前を上げた5人のジャズマンが新旧の古典ジャズの生みの親と目されます。ジャズは20世紀アメリカのポピュラー音楽の総称とも言えて、舞台用ミュージカル曲やフォーク・ブルースから、明快なアンサンブルでポップスの刷新やモダン・ブルース、R&B、ロックン・ロールなどのジャンルにポピュラー音楽の主流を転換させたのも、多くはジャズ・ミュージシャンが担ったものでした。20世紀にアメリカ中心に起こったポピュラー音楽の改革は即興的で自発性に富んだバンド・アンサンブルが主流音楽全般に浸透したことにあり、それは黒人ジャズマンが既成音楽を作り変えたものが白人リスナーに受容され、やがて白人ミュージシャンにも同様なスタイルが現れてジャンルが混淆していくという過程を経たものでした。ジャズの場合史上初のソロイストとしてルイ・アームストロングがおり、パーカーやパウエルもソロイストの系譜に属します。エリントンのスタイルとモンクのスタイルは戦前と戦後を二分するアンサンブル上の発想の改革になりました。パーカーやパウエルと同世代で、活動は彼らより早かったのに、モンクの真価が認められるまでレコード・デビューから10年あまりかかったのも、モンクの音楽が志向していたアンサンブル上の改革をグループ表現として実現できるのがジャズマンにすら困難だったことによります。

 モンクがピアノ・トリオでようやく新しいグループ表現を成功させたのは『Thelonious Monk Trio』1952-1954でしたが、管楽器入りの編成では試行錯誤が続きました。1956年~57年にかけて録音されたバンド編成での『Brilliant Corners』『Monk's Music』『Mulligan Meets Monk』でも『Brilliant Corners』は当時のジャズの水準では前衛的すぎ、『Monk's Music』は当時一般的なハード・バップ様式の録音ではモンクの音楽が破綻してしまう皮肉な例になり、1ホーンでアンサンブルの形式化から逃れた『Mulligan Meets Monk』が小ぶりなアルバムながらもっとも無理がない仕上がりになった内容的にはモンクのピアノ・トリオにジェリー・マリガン(バリトンサックス)が加わった域にとどまっていました。同作が録音された1957年夏に、モンクはマイルス・デイヴィスクインテットを謹慎馘首されていたジョン・コルトレーン(テナーサックス)をフロントにしたカルテットで念願のライヴ活動を再開し、このカルテットが大評判を呼んで半年間の長期クラブ出演がかない、モンクとコルトレーンをともに一躍ニューヨークの一流ジャズマンに押し上げました。リヴァーサイド・レコーズはコルトレーン参加のカルテットのスタジオ録音を望みましたが、当時コルトレーンはプレスティッジ・レコーズ専属だったため半ば非公式にテスト録音されたアルバム片面分のスタジオ録音しか実現しませんでした。

 翌年にもモンクは同じファイヴ・スポット・カフェからクラブ出演の依頼を受けました。コルトレーンはマイルスのバンドに復帰していたので、ジャズ・メッセンジャーズのメンバー再編によりフリーになってリヴァーサイド・レコーズ専属になっていたジョニー・グリフィン(テナーサックス)をフロントに、前年のウィルバー・ウェア(ベース)、シャドウ・ウィルソン(ドラムス)からアーメット・アブダル・マリク(ベース)とロイ・ヘインズ(ドラムス)にメンバーを替えたカルテットで前年同様に長期公演が行われて好評を博しました。リヴァーサイドは前年のコルトレーン参加時にライヴ録音をしていなかったのを悔やんでいたので、今度はグリフィンとアブダル・マリクもリヴァーサイド専属という好都合もあり、ようやくモンクのレギュラー・バンドによるライヴ・アルバムが実現しました。それがLPでは2枚で分売され、1958年のうちに矢継ぎ早に発売された『Thelonious in Action』と続編『Misterioso』の2作になります。この2作はやはりリヴァーサイドが1961年夏に制作したビル・エヴァンス・トリオのライヴ二部作『Sunday at the Village Vanguard』『Walz For Debby』に匹敵する、アーティストの絶頂期と制作時・録音条件がかみ合った名作になりました。モンクの創作力は1952年~1958年に絶頂期に到達していましたが、ベスト・メンバーによるレギュラー・バンドの録音、しかもライヴによるモンクのオリジナル曲のベスト選曲の決定ヴァージョンとも言える内容がようやく実現したのです。これは前年までの臨時編成メンバーによるスタジオ録音アルバムではなし得なかったもので、ベースのアブダル・マリク、ドラムスのヘインズともに1957年カルテットのメンバーより優れ、グリフィンもコルトレーン以上に柔軟にグリフィン自身の個性とモンクの音楽性を消化したものでした。

 次回では『Misterioso』をご紹介するので、今回はアルバムの背景の概略解説にとどめます。なおモンクは1951年に弟分のバド・パウエルの麻薬所持容疑について黙秘したことからモンク自身が冤罪をかぶって2か月間拘置され、ニューヨークの音楽家組合からクラブ出演禁止処分を受けて、それがようやく解除されたのが1957年でした。コルトレーンとのカルテットはモンクにとっても起死回生のカムバックでした。念願のピアノ・トリオ+テナーサックスというレギュラー編成をコルトレーン参加の1957年に成功させたモンクが、その成果を下敷きにグリフィン以下メンバーを一新した1958年カルテットの録音が『Thelonious in Action』と『Misterioso』二部作で、1959年以降はモンク・カルテットのテナーはチャーリー・ラウズに交替し、モンクはリヴァーサイドから大手コロンビア移籍を経てコロンビアと契約満了する1968年までラウズを起用し続けます。『Thelonious in Action』と『Misterioso』二部作に使用された1958年のライヴ録音の全容は以下の通りです。7月9日はテスト録音で、8月7日が本番の収録になりました。なお、このアルバムはモンク最後のモノラル・リリースになり、ステレオ盤は1960年に発売されました。現行CDではのちに発掘されたオリジナルLP未収録テイクも追加され、いっそうこの二部作の価値を高めることになりました。

[ The Thelonious Monk Quartet at the Five Spot Cafe 1958 ]

Thelonious Monk - piano, Johnny Griffin - tenor saxophone, Ahmed Abdul-Malik - bass, Roy Haynes - drums
Recorded live at the Five Spot Cafe, NYC, July 9, 1958
1. Unidentified Solo Piano Original Jazz Classics OJCCD 103-2
2. Blues Five Spot -
3. In Walked Bud / Epistrophy (theme) -
4. 'Round Midnight Original Jazz Classics OJCCD 206-2
5. Evidence -
*Original Jazz Classics OJCCD 103-2 "Thelonious Monk - Thelonious In Action" (CD)
*Original Jazz Classics OJCCD 206-2 "Thelonious Monk - Misterioso" (CD)
Recorded live at the Five Spot Cafe, NYC, August 7, 1958
1. Light Blue Riverside R 45421, RLP 12-262
2. Coming On The Hudson -
3. Rhythm-A-Ning Riverside RLP 12-262
4. Epistrophy (theme) -
5. Blue Monk -
6. Evidence -
7. Epistrophy (theme) -
8. Nutty Riverside RLP 12-279
9. Blues Five Spot -
10. Let's Cool One -
11. In Walked Bud Riverside RLP 12-279, RLP 483/484
12. Just A Gigolo Riverside RLP 12-279
13. Misterioso -
*Riverside RLP 12-262, RLP 1190 : Original Jazz Classics OJC 103, OJCCD 103-2 "Thelonious Monk - Thelonious In Action"
*Milestone M 47043 "Thelonious Monk - At The Five Spot"
*Riverside RLP 12-279, RLP 1133; Original Jazz Classics OJC 206, OJCCD 206-2 "Thelonious Monk - Misterioso"
*Milestone M 47043 "Thelonious Monk - At The Five Spot"
*Riverside RLP 483/484, RS 9483/9484 "The Thelonious Monk Story"
*Riverside R 45421 "Thelonious Monk - Light Blue / Coming On The Hudson"

(旧稿を改題・手直ししました)