人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2019年4月16日~18日/一気観!『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ!(6)

 興行収入に表れる観客動員数だけを映画の成功の指標にするのはあまり良くない見方で、初公開時に不評で不入りだった映画がのちに再評価され永く観続けられる例は評判の良かったヒット作が忘れ去られるよりも多いので、時流に乗った作品ほど風化しやすいとも言えます。しんちゃん映画でも永らく最大ヒット作はテレビ版が話題の高かった第1、2作目で3作目からは落ち着いたので、第9作『オトナ帝国の逆襲』、第10作『戦国大合戦』でしんちゃん映画の認知度を高めた原恵一監督時代もしんちゃん映画への注目度がもっとも低下していた時期の監督交代だったので観客動員数では不振なスタートでした。原監督の傑作2作からバトンタッチした水島努監督の2作、続くムトウユージ監督の3作は出来も快調なら好調な観客動員数を引き継いだのでタイミング的にも恵まれましたが、好調な時期も5年以上続くと観客の方でシリーズにやや飽きが出てくるという現象が起きる。ムトウ監督によるシリーズ第13作『3分ポッキリ大進撃』2005が興行収入13億円、第14作『踊れ!アミーゴ!』2006が14億円、第15作『歌うケツだけ爆弾!』2007が第1作、第2作に次ぐ15億5,000万円の大ヒット作を記録してから、初代監督の本郷みつる監督が12年ぶりに担当した第16作『ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者』2008は12億3,000万円、テレビ版監督の一人しぎのあきら監督による第17作『オタケベ!カスカベ野生王国』2009は10億円、『嵐を呼ぶオラの花嫁』2010は12億5,000万円と不安定になり、増井壮一監督による第19作『黄金のスパイ大作戦』2011は12億円、第20作『オラと宇宙のプリンセス』2012は劇場版シリーズ20周年記念作の大作となるも9億8,000万円と『オタケベ!カスカベ野生王国』より下がり、原監督時代の第7作『温泉わくわく大決戦』'99(9億4,000万円)に次ぐ動員不振になってしまいます。今回・次回ご紹介するのは観客動員数の不安定からしんちゃん映画のマンネリ化が囁かれた時期ですが、橋本昌和監督による第21作『B級グルメサバイバル!!』2013は「今度のしんちゃん映画はいいぞ」と話題作になり興行収入13億円の好調を取り戻し、続く高橋渉監督の第22作『逆襲のロボとーちゃん』2014は18億3,000万円と歴代3位を塗り替え、橋本・高橋監督が交替制になって第23作の橋本監督作品『オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』2015は23億円と、シリーズ歴代興行収入トップ2だった初代の本郷監督の第1作『アクション仮面VSハイグレ魔王』'93(22億2,000万円)、第2作『ブリブリ王国の秘宝』'94(20億6,000万円)を塗り替える歴代1位の特大ヒット作になります。続く高橋監督の第24作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』2016も21億1,000万円、とーちゃんのひろしが藤原啓治氏から森川智之氏に交代後の橋本監督の第25作『襲来!!宇宙人シリリ』2017が16億2,000万円、昨年の高橋監督の第26作『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』2018が18億3,000万円と好調が続いており、第26作公開後にテレビ版スタートから主人公しんのすけを演じてきた矢島晶子さんが降板し小林由美子さんに交代しましたから、2019年4月19日封切りの橋本監督による最新作で第27作『新婚旅行ハリケーン~失われたひろし』はしんのすけ役が小林由美子さんに交代した初めてのしんちゃん映画になります。ひろし役の交代、しんちゃん役の交代は主人公だけに大きいですが、それまでのレギュラー・キャラクターの交代同様イメージを崩さず行われておりファンからも交代を惜しむ声こそあれ批判的な意見は上がっておらず、この紹介は第24作までで一旦区切りますが、劇場版自体は今後も良い出来が期待できるので興行収入の推移は観客の興味の持続次第とも言えそうです。なお各作品内容の紹介文はDVDボックスの作品紹介を引用させていただきました。

●4月16日(火)
『映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者』(監督=本郷みつるシンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2008.4.19)*93min, Color Animation
しんのすけがうっかり開けてしまった不思議な扉。それは、地球と暗黒の世界"ドン・クラーイ"を繋ぐ闇の扉――侵略者たちの陰謀だった!ひょんなことから選ばれし勇者となったしんのすけに次々と迫る闇の魔の手。突然現れた謎の少年"マタ"とともに、伝説の金矛を手にした勇者しんのすけが立ち上がる!

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 前作のしんちゃん映画15周年記念の第15作『歌うケツだけ爆弾!』からスポンサー・製作に原作コミックス「クレヨンしんちゃん」の版元・双葉社が参入しましたが、本作は双葉社創立60周年記念作品を謳って製作・公開された作品でもあります。テレビ版・劇場版の予想以上の大ヒットと長期化、ファミリー作品としての定着は原作出版社にも大きな収益をもたらしたでしょうし、劇場版の興行収入安定でようやく出版社側も製作参入に腰を上げたのでしょう。テレビ版メイン監督のムトウ監督が3作を手がけてから本作では初代テレビ版メイン監督・劇場版監督の本郷みつる監督が12年ぶりに劇場版を担当することになったのは、やはりテレビ版立ち上げメイン監督であり劇場版第1作・第2作を20億円以上の特大ヒット作にして、以来その記録は抜かれていなかった本郷監督の業績に期待をかけたと思われます。本郷監督は大人のファンがついたしんちゃん映画を再び子どもの楽しむ作品にリセットする意図があったそうで、本作が初期のしんちゃん映画に似た雰囲気なのは本郷監督の意図通りということになります。映画は人間界を支配しようと企む暗黒世界ドン・クラーイの帝王アセ・ダク・ダーク(銀河万丈)が闇を打ち払う三つの宝と勇者の伝説を知り三つの宝の一つ「銅の鐸」を奪取し、残る二つの宝「金の矛」と「銀の盾」を奪おうとしますが、一足早くダークの企みを知った戦士マタ・タビ(大西健晴)によって「金の矛」と「銀の盾」が人間界へ送られる場面から始まります。その頃しんのすけ(矢島晶子)はデパートでアクション仮面(玄田哲章)の新作おもちゃ「アクションソード」を買ってもらいます。ところが家に帰って箱を開けてみると、アクションソードはものさしに変わっていました。その数日後、しんのすけは幼稚園からの帰りにシロ(真柴摩利)にそっくりな黒い犬・クロ(間宮くるみ)を拾い、クロを飼うことにします。その夜、目を覚ましたしんのすけは突然家を訪ねてきたプリリン(本田貴子)というセクシーな女性に出会い、頼まれて一緒に外出します。しかし、プリリンの正体は人間界に送り込まれたダークの部下でした。しんのすけはダークの策略にかかり、人間界とドン・クラーイを繋ぐ扉を開いてしまいます。翌日、しんのすけが開いた扉から闇が人間界に流れ込み、その影響で野原家にさまざまな災難が降りかかってきます。その時、しんのすけの前にマタ・タミ(堀江由衣)という男装の少女が現れます。マタはしんのすけが「金の矛」に選ばれた勇者と告げ、しんのすけを守るためにやってきたと言います。マタと共にダークと戦う決意をしたしんのすけですが、マタが現れたことを知ったプリリンが罠を仕掛けてダークの部下アルマ・ジロー(川村拓央)やタコ怪人(福崎正之)、マック・ラ・クラノスケ(宮本充)らに追われ、野原一家はご近所を巻きこむ逃走と反撃のすえに、しんのすけはものさしの正体だった「金の矛」キンキン(金田朋子)とクロの正体だった「銀の盾」ギンギン、さらにダークから取り戻した「銅の鐸」ドウドウ(屋良有作)を揃えた「金の矛の勇者」となりダークの策略を打ち砕いて地球の危機を救い、ダークに捕らえられていたマタ・タミの父マタ・タビを救出し、ハッピーエンドを迎えます。
 本作は監督・脚本・演出とも本郷みつる単独で、第4作の傑作『ヘンダーランドの大冒険』'96で最高の達成を見せた本郷監督らしいダーク・ファンタジー趣向やミュージカル場面の挿入がコミカルなしんちゃん世界とあいまって本作自体は十分面白く、水準をクリアする作品です。しかししんちゃん映画のシリーズの水準自体が原恵一水島努ムトウユージの歴代監督時代に大きく質的変化を遂げてしまったので、単独で観るならともかく連続で観直す、またはまだ近作の記憶が新しいうちに本作を観ると微妙なニュアンスや意外な展開に富んだ近作から突然内容が荒っぽくなった印象は否めず、また直前のムトウ監督の作風が本郷監督も含む歴代監督の美点を抽出してさらに洗練とダイナミズムを加えたものだったために、本郷みつる監督作品らしい骨の太い強引さやあっけらかんとしたコメディ感覚がシリーズ作品をリセットしたとは言えるものの、それが物足りなさを感じさせることにもなっている。アニメ版・劇場版とも初代監督の本郷監督の功績の大きさがあってこそその後のシリーズもありますし、同じ監督だから当然でもありますが、本作は『ヘンダーランド~』の前か直後に作風が逆戻りしている印象があるので、シロが活躍してひまわり(こおろぎさとみ)があまり出番がないのもひまわり登場は本郷監督から原監督にテレビ版メイン監督・劇場版監督が代わってからのキャラクターだからでしょう。男装(というより性別不詳)のヒロイン、マタ・タミとプリリンに挟まれたしんのすけはグラマーなおねいさんの悪党プリリンの色香にまんまと籠絡されてしまいますが、これも初期しんのすけのキャラクターでもっと純粋な子どもの直観で悪人を見分けられるようになっている近作のしんのすけには似あいません。本作は近作の評判もあって順調な興行収入を上げましたが、本作をいまいちと感じた観客が少なからずあったのは次作の観客動員数低下に現れてしまいます。

●4月17日(水)
『映画クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国』(監督=しぎのあきらシンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2009.4.18)*98min, Color Animation
しんのすけが拾った謎のドリンクを勝手に飲んだひろしとみさえ。すると突然二人は動物の姿に変わってしまった!そう、それは過激エコ組織"SKBE(スケッベ)"が秘密裏に進める"人類動物化計画"だったのだ!しんのすけは皆を元の姿に戻すことができるのか!?しんのすけの雄叫びが、今世界中に響き渡る!

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 本作と次作はテレビ版「クレヨンしんちゃん」スタート時からのスタッフで'70年代からの長いアニメーターのキャリアを持つしぎのあきら(1954年生まれ)が監督を担当しています。出来はずばり次作『超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』の方が良く、またシリーズ前作『~金矛の勇者』が観客離れを招いたか本作は興行収入も10億円ぎりぎりと歴代下位2位と振るいませんでしたが、本作公開から半年後に臼井儀人氏が事故死により急逝したため臼井氏生前最後の公開作となり、また本作のテレビ放映時(2010年4月9日)この感想文筆者はサナトリウム入院中で、入院生活に退屈しきった病棟の患者のみなさんと大食堂の大型テレビで観たので、その日は朝から「今夜はしんちゃん映画のテレビ放映があるぞ」と病棟中で楽しみにしていたので格別な思いがあります。肝心の映画の内容はというと、何しろ精神病棟だったので連日しんちゃん映画の世界以上の異常事態が日常だったので春日部じゅうの人々が動物化してしまう話とだけしか覚えておらず、今回DVDで観直してようやく細かな筋がわかり、しんちゃん映画としては水準よりはやや下位の出来ともわかりました。映画はアヴァンでみさえ(ならはしみき)がしんのすけ(矢島晶子)と離ればなれになる夢を見たあと、本編は春日部市ふたば町に新しく就任した四膳守(しぜん・まもる)町長(山寺宏一)を中心にエコロジー活動が盛んになっていく様子で始まります。ふたば幼稚園の課外授業で地域の清掃活動に参加していたしんのすけ(矢島晶子)は河原で謎のアタッシュケースを発見し、中に入っていた不思議な緑色のドリンクを持って帰ります。ところがその夜、冷蔵庫に冷やしておいたそれをひろし(藤原啓治)が飲み、みさえも飲んでしまいます。すると翌日、二人は動物のような仕草をするようになり、遂にある日ひろしはニワトリ、みさえはヒョウに変身してしまいます。驚く一家の下に突然ブンベツ(山本高広)と名乗る男が率いる謎の集団が現れ、その場にいたかすかべ防衛隊とひろしたちを捕えます。かすかべ防衛隊の面々は何とか逃げ出しますが、ひろしとみさえは謎の集団に連れ去られてしまいます。そんな中、しんのすけとかすかべ防衛隊の面々は謎の集団を追って現れたビクトリア(後藤邑子)と名乗る女性と出会い、四膳の正体を知らされます。四膳は実は過激な環境保全組織「Save Keeping Beautiful Earth=通称SKBE(スケッベ)」のリーダーで、環境破壊に歯止めをかけるため人類を動物に変える「人類動物化計画」を進めており、ひろしとみさえが飲んでしまったドリンクはその計画のために人間を動物に変えてしまう「人類動物化ドリンク」でした。そして、一度人類動物化ドリンクを飲んで動物になってしまった人間は、次第に自分が人間だった記憶をすべて忘れてしまいます。四膳がひろしたちの体から人類動物化ドリンクのエキスを取り出そうとしていることを聞かされたしんのすけは、ひろしたちを救うべくひまわり(こおろぎさとみ)とシロ(真柴摩利)、ビクトリア、うっかり失敗作のドリンクを飲んで半動物化したかすかべ防衛隊の風間くん(真柴摩利)、ネネちゃん(林玉緒)、マサオくん(一龍斎貞友)、ボーちゃん(佐藤智恵)とSKBEの基地へ向かいます。運良くブンベツを見つけ追跡してていくと秘密の入り口を発見し、すると春日部地下には未開の森が広がって中心地に基地がありました。動物の力を使いピンチを乗り越えていくかすかべ防衛隊ですが、しんのすけが原因で捕まってしまいます。四膳の前に連れてこられたかすかべ防衛隊は四膳から過激エコロジー思想を聞かされ、そしてしんのすけは完全に動物となった両親と再会します。しんのすけはヒョウになったみさえに襲われますが、お尻がきっかけでみさえは記憶を取り戻し部屋を脱出、人力発電させられていたかすかべ防衛隊を解放しませ。野原一家はSKEB幹部のマイハシ(折笠愛)を退け、かすかべ防衛隊は動物の力を使って戦い、ビクトリアは先に潜入し捕まっていましたが目を覚まし基地を破壊していきます。排水設備が破壊され水流に飲まれるしんのすけたちがたどり着いた先は春日部、そして遂にひろしも記憶を取り戻します。しかし春日部は四膳の計画が止まらず住民が変身した動物でいっぱいでした。地下からモニュメントが浮上し四膳との最後の戦いが始まります。四膳は特製ドリンクで怪物に変身し野原一家を追い詰め、しんのすけも動物になり戦うも絶体絶命のピンチになりますがシロクマになったひまわりが助けに入り形勢が逆転します。なおも諦めの悪い四膳でしたがそこにビクトリアが現れ四膳の妻「良子」であると知らされます。四膳が過激な計画を起こした理由は自然を顧みない人類への絶望だけでなく妻良子の浪費とゴミの分別をしない態度でした。四膳夫妻は夫婦喧嘩を始め、良子は動物化ドリンクを飲もうとしますが愛する妻だけは動物にできないと守はそれを弾き、愛を取り戻し四膳夫婦は仲直りし、動物化した人間は一人残らず元通りになり、春日部は以前より自然を大切にする町になります。
 ひろしがニワトリ、みさえがヒョウ、風間くんがペンギン、ネネちゃんがウサギ、マサオくんがコウモリ、ボーちゃんがオオセンザンコウ(「……アリクイ?」「オオセンザンコウ……絶滅危惧種」)、しんのすけがゾウ、ひまわりがシロクマで、さらに動物化した春日部市民も園長先生(納谷六朗)がヒツジ、よしなが先生(高田由美)がイヌ、まつざか先生(富沢美智恵)がキツネ、あげお先生(三石琴乃)がハムスター、となりのおばさん(鈴木れい子)がカバ、風間ママ(玉川紗己子)がペンギン、ニュースキャスター団羅座也(茶風林)がオランウータン、さいたま紅さそり隊の女子高生ふかづめ竜子(伊倉一恵)、魚の目お銀(星野千寿子)、ふきでものマリー(むたあきこ)がナマケモノ、とレギュラー・キャラクターの動物化で楽しませてくれるのは単純明快に面白いですし、過激エコロジー団体の陰謀というのもしんのすけの住む春日部市というのは次から次へと町ぐるみの騒ぎに巻きこまれる町だなあと本作の工夫がうかがえますが、SKEBの陰謀を阻止するヒロインが首謀者の奥さんでそもそもこの奥さんが浪費やゴミ分別にまるで頓着ないのが首謀者の過激エコロジー思想のきっかけで、夫婦喧嘩の決着と仲直りが「愛は地球を救う」で事件解決になる、というのはいささか尻すぼみの観があります。脚本の静谷伊佐夫氏はしぎのあきら監督のスタジオぴえろ時代からの盟友だそうですが、本作は春日部市動物化や半動物化したしんのすけやかすかべ防衛隊の幼稚園児の活躍に着想がとどまっていて、ハッピーエンドに着地するまでの展開や曲折に意外と見所がありそうで少ない、という不満が出てきます。ヒョウに動物化してから長く経ってしまったみさえがしんのすけを忘れて襲いかかり、しんのすけの尻で記憶を取り戻して泣いて抱きしめる場面は『オトナ帝国~』の幼児化したひろしがしんのすけに嗅がされた自分の靴の蒸れた臭いですすり泣きながら記憶を取り戻す場面の再現ですが、これも演出や意外性ともに『オトナ帝国~』の場面ほどの感動にはおよばない。本作はもっと面白くなりそうな着想が十分に生かされないままこぢんまりとまとまってしまったような作品ですが、しぎの監督も次作ではまったく趣向を変えてシリーズ上位に位置づけられる秀作を放って興行収入も回復するので、ヴェテランらしい手腕が本作では良くもわるくも小粒に、次作では意欲的に作品に結実したと言えそうです。

●4月18日(木)
『映画クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』(監督=しぎのあきらシンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2010.4.17)*100min, Color Animation
◎ある日、タイムマシンでしんのすけの未来の花嫁タミコがやって来た。大人になったしんのすけが、未来都市"オオトキオ"の支配者"金有増蔵"に捕まってしまい、5歳のしんのすけの力が必要だという。お互い、本当に未来のケッコン相手なのかと疑いつつも、とりあえずネオトキオへ向かう二人だが……。

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 本作はコミックス「クレヨンしんちゃん」の作者・臼井儀人氏急逝の半年後に公開されました。エンディングクレジットあとに1枚タイトルで「臼井儀人先生に感謝をこめて」と献辞が出るのはプログラム・ピクチャーのファミリー向けアニメーション映画としては異例です。反響も前作『オタケベ!カスカベ野生王国』より初日と2日目の初動観客動員数160%と好調で、公開5週目で観客動員数100万人突破で最終的には興行収入12億5,000万円に達し、観客動員が不安定になっていた時期ながら健闘を見せた作品です。しんちゃん映画の場合興行収入が伸びるのは公開後の口コミによる面が大きいと思われ、公開5週目で足を運ぶ観客は本作の好評を知ってから映画館を訪れた人が大半でしょう。本作は演出にのちに第22作『逆襲のロボとーちゃん』2014から第21作『B級グルメサバイバル』2013の橋本昌和監督と1作ごとに交替制で劇場版レギュラー監督になる高橋渉がしぎの監督とともに当たっており(前作では演出補佐でした)、また企画自体はスタッフ全員の合議でしょうが横手美智子さんの脚本が冴えており、横手美智子さんは『ジャングルはいつもハレのちグゥ』2001でシンエイ動画作品の実績があり、その後も『SHIROBAKO』『監獄学園』『荒野のコトブキ飛行隊』など水島努監督作品でヒット作を放っている名手ですが、未来のしんのすけのピンチを救うために5歳のしんのすけの力が必要と未来からしんのすけの婚約者がやってきてかすかべ防衛隊の5人が未来へタイムトラベルし、そこでディストピア化した未来の春日部にいる大人になった自分たちと出会う、というとっておきのアイディアを十分に生かした本作はしぎの監督のしんちゃん映画の秀作と言える出来で、これは観たあとで「今やってるしんちゃん映画面白いよ」と口コミで広がるだけある会心作です。アヴァンで危機一髪に陥ったアクション仮面姿のしんのすけ(神奈延年)が「5歳のオラを連れてきてくれ!」と恋人にスティック型タイムマシンを投げ、タイムマシンを受け止めた恋人は悪人の制止を振り切ってタイムマシンを作動させる場面が描かれます。本編に入るとある日、遊んでいるしんのすけ(矢島晶子)たちの前に、タイムマシンで時を越えた女性・タミコ(釘宮理恵)が現れます。タミコは未来からやって来たしんのすけの婚約者、つまり花嫁と名乗り、未来のしんのすけが未来都市・ネオトキオの支配者・金有増蔵(内海賢二)に捕えられてしまい、未来のしんのすけを救うためには5歳のしんのすけの力が必要と語ります。しんのすけは半信半疑ながらも、かすかべ防衛隊の友だちと共にタミコに連れられて未来の春日部にタイムトラベルします。未来へやってきたかすかべ防衛隊が目にしたのは、華やかな大都市ネオトキオと、ネオトキオとは対照的に荒廃した春日部の町でした。未来の世界では地球に隕石が衝突したため日傘効果が起き、一日中夜のような状態になってしまっています。しんのすけを捕まえているネオトキオの支配者・金有増蔵は電力を供給する会社の社長で、街の電力をすべて支配しています。未来の年老いたひろし(藤原啓治)とみさえ(ならはしみき)、大人になったひまわり(こおろぎさとみ)や、さまざまな職業に就いた未来の大人風間くん(真柴摩利)、大人ネネちゃん(林玉緒)、大人マサオくん(一龍斎貞友)、大人ボーちゃん(佐藤智恵)と出会いながら、未来のしんのすけを助けるためかすかべ防衛隊とタミコはしんのすけを捕らえた金有の下へ向かいます。しかし、5歳のしんのすけが現れたことを知った金有増蔵が放った刺客「花嫁(希望)軍団」がしんのすけとタミコを狙って一行の前に立ちはだかります。花嫁(希望)軍団から逃走しつつ未来のしんのすけ救出に向かおうとするしんのすけたちですが、その最中にタミコが金有電機のロボットに捕まってしまい、大人しんのすけの命と引き換えに金有電気エリート社員の大人風間くんと結婚させられることになります。しんのすけは自分の未来の花嫁を救うため、未来の家族やかすかべ防衛隊の力を借りてスタジアムの大結婚式を阻止してタミコと捕らわれている大人しんのすけを救出するために会場に乗り込みます。
 便宜上ざっくりしたあらすじになりましたが、実はタミコは金有増蔵の娘でありながら春日部に太陽の光を取り戻そうとする大人のしんのすけと恋仲になっており、「大人になったらどうなってるだろう」と雑談しながら遊んでいるしんのすけたちの前に約20数年後の未来からやってきたタミコとしんのすけたちがかわすとんちんかんな会話、雑談で話した「未来の自分」が皮肉なかたちで実現したり頓挫したりしている未来の自分と出会う幼稚園児たち(未来の春日部はスラムと化しており、大人マサオくんはコンビニのバイトをしながら売れないマンガ家、大人ネネちゃんはネネちゃんママそっくりの容貌のふたば幼稚園のやさぐれた先生、大人ボーちゃんは夢が実現してみんなを助ける発明家になっており、大人風間くんは金有電機のエリート社員で子ども風間くんは裏切り者と責められます)の大人の自分との出会い方も工夫が凝らされ、禿頭になった初老のひろしとぶくぶくのメタボになったみさえはあっさり5歳のしんのすけたちを受け入れて助太刀します。結婚式場に子どものかすかべ防衛隊と大人の本人たちが団結して乗りこみ、大人の風間くんも石化させられた大人しんのすけの救出に協力することになり、絶体絶命かと思われた状況が大人ボーちゃんの発明から打開され、さらに国際警察官になった大人ひまわり(黄色いコスチュームに身をつつみ、顔はみさえ似で、ひろしとみさえを「パパ、ママ」、しんのすけは「にーちゃん」と呼びます)がかっこ良く駆けつける、と見せ場もギャグも意外性やサスペンスもたっぷりある作りで、2度は使えないおいしい設定を十分に盛り上げています。テレビ版の番外編的なエピソード(空想のかたちで描かれます)を除けば劇場版では大人になって言葉を話すひまわりは本作きりであり、大人ひまわりを演じるこおろぎさとみさんもおいしい役ですが、タミコ役の釘宮理恵さんも「しんちゃんの未来の花嫁」役を演じてチャーミングで、石化が解けた大人しんのすけ(口元以外の顔は映らない演出になっています)と5歳のしんのすけが「おバカ(Oh Bikkuri Aggressive Kanarisugoi Amazing)パワー」の増幅で春日部上空の隕石群の日傘状態を解決して春日部に太陽の光を取り戻し、現代に戻ったしんのすけにひろしがさりげなく地球に衝突する可能性のあった流星群が逸れた、と告げるまで本作はアニメ作品ならでは可能な荒唐無稽(スティック型タイムマシンがピンポイントで時間移動できないのも「みらい」「いま」「むかし」の三つのボタンしかないから、というギャグもあります)でご都合主義な部分は存分に利用しながらも組み立てが巧妙で作品世界の中のリアリティに一貫性があるので説得力があり、いくつかの危機脱出シーンは『歌うケツだけ爆弾!』と同じアイディアがありますが二番煎じを感じさせないアレンジの工夫がある。内容も『歌うケツだけ爆弾!』以来の優れた出来になっており、前作『オタケベ!カスカベ野生王国』がやや低迷したかと思われたのを十分に挽回する会心の秀作になっています。しんちゃん映画は同じ趣向が2度は使えないものが大半ですが、中でも未来へのタイムトラベルものは今のところ本作きりで、「未来の自分たちと出会って協力する」趣向は2度は使えないものであり、そういう意味でも本作が本作きりの達成を示してくれたのはシリーズ中でも珍重すべき逸品と言えます。シリーズへの注目度によっては公開時期次第ではもっと大ヒットしても良かったと思える作品です。