人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

イル・パエーゼ・デイ・バロッキ Il Paese Dei Balocchi - 子供達の国 (CGD, 1972)

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イル・パエーゼ・デイ・バロッキ Il Paese Dei Balocchi - 子供達の国 Il Paese Dei Balocchi (CGD, 1972) Full Album : https://youtu.be/xcdHAfCh6aQ
Recorded at presso gli Studi Crthophonic de Roma, September 1972
Released by CGD Records CGD FGL 5115, 1972
All music and lyrics written by Armando Paone
Arranged and Strings Conduct by Claudio Gizzi
(Lato 1)
A1. 夢の国へ Il Trionfo Dell'Egoismo, Della Violenza, Della Presunzione E Dell'Indifferenza - 2:34
A2. あきらめ Impotenza Dell'Umiltà E Della Rassegnazione - 4:09
A3. 希望の唄 Canzone Della Speranza - 3:55
A4. 逃亡 Evasione - 7:40
(Lato 2)
B1, 子供達の国 Risveglio E Visione Del Paese Dei Balocchi - 4:40
B2. 子供達との出会い Ingresso E Incontro Con I Baloccanti - 2:00
B3, 愛の調べ Canzone Della Carita - 0:45
B4. 自己陶酔 Narcisismo Della Perfezione - 1:01
B5, 虚栄 Vanita Dell'Intuizione Fantastica - 6:56
B6. 夢から覚めて Ritorno Alla Condizione Umana - 4:18
[ Il Paese Dei Balocchi ]
Armando Paone - organ, voce solista, Fabio Fabiani - chitarrista, Marcello Martorelli - chitarra, basso, Sandro Laudadio - batterista, voce solista

(Original CGD "Il Paese Dei Balocchi" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover and LP Sleeve & Lato 1 Label)

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 このバンドはマイナー・レーベルのCGDからバンド名と同題の本作を残した他は'79年に突然シングル1枚を発表した以外はアルバム・ジャケットに記されたインフォメーション以外何の情報もなく、日本盤は1982年にキングレコードの「ヨーロピアン・ロック・コレクション」から発売されましたがイタリアのレコード会社にもまったく資料が残っていなかったそうです。イタリアのロックは1968年頃から、ちょうど日本のグループ・サウンズのように急激に発展しましたが、1971年~72年にかけてはアンダーグラウンド・シーンから起こったプログレッシヴ・ロックがメジャー会社・マイナーなインディー社を問わずブームになり、ソロイストのシンガー・ソングライター(カンタウトーレ)にいたるまで新しい'70年代ロックは一律にプログレッシヴ・ロックとして扱われて大流行を見せました。イル・パエーゼ・デイ・バロッキもおそらく数年間のアンダーグラウンドでの活動ののちようやくブームに乗ってアルバム・デビューしたバンドと思われますが、イタリア経済は'74年のオイル・ショックで大打撃を受け、よほどの支持層の厚い大物か国際進出を果たしていたバンド以外は'71年~'74年に1枚~せいぜい4枚のアルバムを残して解散、消息不明になってしまいます。イル・パエーゼ・デイ・バロッキは1枚しかアルバムを残せなかったのですが、その唯一作は大物プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ(PFM)やバンコ、オルメら海外進出を果たしたバンド、海からの春風のようなイタリアらしい抒情的アルバムを残した短命バンドのクェラ・ベッキア・ロカンダやチェルヴェロなどともひけをとらない質の高さと完成度を誇るもので、日本での再発売をきっかけに欧米での再評価も高まり、イタリア'70年代前半のロック・アルバムでも根強い人気を獲得するようになりました。
 ヴォーカル・パートのほとんどない本作はA面の4曲、B面の6曲に曲間を設けない、事実上片面1曲ずつの構成ですが、いかにもプログレッシヴ・ロックらしいハードなユニゾン・リフのA1から攻撃性はそのままにシームレスにA2のストリングスのアンサンブルに移るのはキング・クリムゾンの『太陽と戦慄』'73を思わせ、また2分台後半から夢幻的で甘美なギター主導のインストルメンタルに変わる天上的に美しいA4の流れ、それを引き継ぎさらに波乱に富んだ展開をしながら大団円のB4が終わるまではピンク・フロイドの『狂気』'73も顔負けの構成力で、クリムゾンとフロイドの画期的アルバム『太陽と戦慄』『狂気』の前年に本作がひっそりと制作・発表されていたのには驚かされます。『太陽と戦慄』『狂気』をまろやかに調和させたフランスのピュルサーの名盤『ハロウィーン』'78はフランスのバンドがイギリスのプログレッシヴ・ロックから良い影響を受け'70年代プログレッシヴ・ロックの最良の部分を濃縮洗練させた到達点と見なせますが、イル・パエーゼ・デイ・バロッキはまだクリムゾンやフロイドが円熟した作風を打ち出す前に『太陽と戦慄』や『狂気』の出現を予告するようなアルバムを作ってしまった。イタリアらしい抒情性もあればさすがにクリムゾンやフロイドほどのスケールの大きさやきめ細やかはなく所々荒っぽいのですが、些細な未熟さなど気にならないくらいこのアルバムには独自の世界があり、聴き手を音楽に陶酔させるだけの(やや小ぶりとはいえ)充実した完成度を認めないではいられません。また決して難解でも聴きづらい音楽でもないため一聴しただけで宝物になり、このデリケートな音楽は騒がずひっそりと聴いていたいという気になる。
 そんな次第で本作は数次の再発売によって必ずしも稀少盤とは言えませんが、ひっそりと聴き継がれているイタリアの'70年代ロックの珠玉的アルバムです。本当はこんな風にご紹介の対象にはすべきではなく、何かの縁でご興味を持たれ手に取られてこそますます貴重な出会いとなるような作品でしょう。