人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ジョン・コルトレーン John Coltrane - 至上の愛 A Love Supreme (Impulse!, 1965)

ジョン・コルトレーン John Coltrane - 至上の愛 A Love Supreme (Impulse!, 1965) Full Album : https://youtu.be/ll3CMgiUPuU

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Recorded at The Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, December 9, 1964
Original Released by Impulse! Records Impulse! AS-77, January 1965
Produced by Bob Thiele
All tracks composed by John Coltrane
(Side A)
A1. パート1 : 承認 Part 1 : Acknowledgement - 7:42
A2. パート2 : 決意 Part 2 : Resolution - 7:20
(Side B)
B1. パート3 : 追求 Part 3 : Pursuance - 10:41
B2. パート4 : 賛美 : Part 4 : Psalm - 7:05

[ The John Coltrane Quartet ]

John Coltrane (1926-1967) - bandleader, liner notes, vocals, tenor saxophone
McCoy Tyner (1938-2020)- piano
Jimmy Garrison (1933-1976) - bass
Elvin Jones (1927-2004) - drums, gong, timpani

(Original Impulse! "A Love Supreme" LP Gatefold Inner Cover & Side A Label)

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 数日前、3月6日にこのブログでアルバート・アイラー(1936-1970)のアルバム『スピリチュアル・ユニティー』1965(1964年7月録音)をご紹介した時、アイラーがもっとも敬愛していた先輩ジョン・コルトレーンが、親友だったジャズマン、エリック・ドルフィー(1928-1964)の1964年6月末の急逝(ドルフィーの遺品の楽器は遺族からコルトレーンに寄贈されました)とアイラーのニューヨーク・デビューによる心境の変化から作り出したアルバムがコルトレーンスピリチュアル・ジャズ路線の始まりになるこの『至上の愛』です、と文中で触れました。結果的に『至上の愛』の録音から2年半後(1967年7月)の急逝にいたるまでがコルトレーン晩年のスピリチュアル路線の作風になったのですが、このアルバムはジョン・コルトレーンがまだマイルス・デイヴィス(1926-1991)のバンドのメンバーだった時に作り上げた『ブルー・トレイン (Blue Trane)』1957(同年9月録音)、マイルスのバンドから独立して自分のバンドで活動し始めた最初のアルバム『ジャイアント・ステップス (Giant Steps)』1960(1959年5月・12月録音)と並ぶコルトレーンの3大代表作の一つでもあり、タイトル曲がコルトレーン最大のヒット曲となった『マイ・フェイヴァリット・シングス (My Favorite Things)』1961(1960年10月録音)や、メジャーのMCA/ABCレコーズの新設レーベル「インパルス!」に看板アーティストとして迎えられ以降5年間「ジョン・コルトレーン・カルテット」の固定メンバー、マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)が揃った第1作『コルトレーン (Coltrane)』1962(1962年4月・6月録音)やタイトル通りのスタンダード曲集『バラード (Ballads)』1963(1961年12月・1962年9月・11月録音)と並ぶ人気アルバムです。ジョン・コルトレーン、またこのアルバムについて興味がおありの方は日本語版ウィキペディアにも独立項目がありますから、辞典的な事柄についてはそちらをご覧ください。

 この『至上の愛』はジャズの名盤ガイドブックには定番のアルバムですし、その後のロックやソウル・ミュージックに与えた影響もマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー (Kind of Blue)』1959(同年3月・4月録音、コルトレーンビル・エヴァンス参加)やチャールズ・ミンガスの『ミンガス・アー・ウム (Mingus Ah Um)』1959(同年5月録音)と並んで大きいため、モダン・ジャズのリスナーには一家に1枚かならずあるような定番ですし、さらに邦題の『至上の愛』というのが決まっているので「至上の愛」というタイトルだけ借りた曲が日本では無数にある(西城秀樹THE ALFEEまで)ありさまです。コルトレーンのレパートリーはカヴァーやオリジナル曲のいずれも短調の曲が多いのですが、全4曲コルトレーンのオリジナル曲の『至上の愛』は全曲短調で、アルバムAB面トータル34分弱が「至上の愛パート1」から「パート4」と組曲をなしている交響曲的な構成でもあるので、ジャズ喫茶などでは「『至上の愛』のリクエストは受けつけません」というお店も実際に多かったりします。しかしアルバムの人気は非常に高いので、コルトレーン没後にメンバーだったエルヴィン・ジョーンズマッコイ・タイナーの日本公演では『至上の愛』全曲再現ライヴが何度も行われています。

 もちろんアメリカ本国やヨーロッパでも発表当時からこのアルバムは絶大な評価を受けているので、発売年には新聞やジャズ雑誌で年間最優秀アルバムに選ばれ、2002年にはアルバム収録テイクの翌日にアーチー・シェップ(テナーサックス、1937-)とアート・デイヴィス(ベース、1934-2007)が加わって6人編成で録音された「パート1 : 承認 (Part 1 : Acknowledgement)」の未発表テイクとコルトレーンが生前唯一『至上の愛』全曲をライヴ演奏したフランス公演の放送用録音を合わせたコルトレーン没後35周年記念の2枚組デラックス・エディションCD、2015年には発売50周年記念でさらに未発表別テイクを1枚分追加した3枚組コンプリート・マスターズCDが発売されました。2002年の没後35周年記念版に連動して2003年には『至上の愛』の制作過程を現存メンバーやスタッフに取材した研究書、アシュリー・カーン『ジョン・コルトレーン「至上の愛」の真実 スピリチュアルな音楽の創作過程 (A Love Supreme: The Story of John Coltrane's Signature Album)』(日本語訳2006年刊・改訂版2014年刊)が刊行され、見開き内ジャケットのコルトレーン自身による長いライナー・ノーツと詩の解明、「パート1 : 承認 (Part 1 : Acknowledgement)」の6人編成テイクが没になった事情や、「パート1 : 承認」の6分10秒目から「A love supreme」と唱え始めるコーラス(このアルバム中唯一ヴォーカル入りのパート、ライヴではヴォーカルなし)が従来メンバー全員と思われていたのがセッション後メンバーが帰宅してからコルトレーン一人がオーヴァーダビングしたものと判明しました。

 そういったことを踏まえて『至上の愛』をブログでご紹介しようと思っていた最中、コルトレーン・カルテット唯一の現存メンバーだったマッコイ・タイナーさんの訃報を知ったので、ついに『至上の愛』を演奏したオリジナル・メンバーは全員鬼籍に入ったかと感無量です。ちなみにマッコイさんは『「至上の愛」の真実』の取材を受けたものの、アルバム録音の時の記憶はぜんぜんなかったそうです。マッコイさんやエルヴィンさんは当時コルトレーンのバンドの正式メンバーを勤めるかたわらブルーノート・レーベルの若手アーティストの録音参加や自分自身のアルバム制作で毎日のようにクラブ出演やレコーディング、忙しい日はレコーディングもライヴも両方こなしていた超多忙なジャズマンだったので、レコーディングはさあ新曲録るぞと1964年12月9日と10日(10日録音分は全部没テイク)の2日だけ、ライヴでは翌1965年7月26日の1回だけしか演奏しなかった『至上の愛』など録音した時のことなど曖昧な記憶しかなく、むしろコルトレーンのバンドを脱退してからずっと後、コルトレーンの没後に『至上の愛』の再現ライヴをリクエストされるようになったわけです。

 しかしアドリブ勝負のジャズマンというのはそもそもやり逃げ体質の人種とはいえ、これだけのアルバムを作ったメンバーたちが(コルトレーン本人には渾身の一作だったでしょうが)何も覚えていないとはかえって神がかった気配が漂ってきます。2002年版2枚組CDと2015年版3枚組CDに収録されている唯一オリジナルのコルトレーン・カルテット全員で『至上の愛』が全曲演奏されたフランスのアンティーブ・ジャズ祭のライヴ・ヴァージョン(LP時代から有名だったフランス国営ラジオ局音源)はスタジオ盤より1.5倍近い、48分あまりにおよぶさらに壮絶な名演です。このライヴから半年も経たずに5年間メンバーだったマッコイさんとエルヴィンさんは相ついで脱退してしまいますが、記憶にないというのは何か離婚にも似たような心理的作用が働いたとしか思えません。

The John Coltrane Quartet - A Love Supreme (Live at Festival Mondial du Jazz Antibes, July 26, 1965) : https://youtu.be/Fe_-14-w8pU

[ The John Coltrane Quartet ]

John Coltrane - tenor saxophone
McCoy Tyner - piano
Jimmy Garrison - bass
Elvin Jones - drums