人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アモン・デュールII Amon Duul II - 狼の街 Wolf City (United Artists, 1972)

アモン・デュールII - 狼の街 (United Artists, 1972)

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アモン・デュールII Amon Duul II - 狼の街 Wolf City (United Artists, 1972) Full Album : https://youtu.be/7LM75RePolw
Recorded at Bavaria Studios, July 1972
Released by United Artists Records
UAS 29 406 I, 1972
Produced by Olaf Kubler, Amon Düül II

(Side 1)

A1. きらめく流星群の徘徊 Surrounded by the Stars (Karrer, Rogner) - 7:44
A2. 奇妙なコートの男 Green-Bubble-Raincoated-Man (Weinzierl) - 5:03
A3. ジェイル・ハウス・フロッグ Jail-House-Frog (Weinzierl) - 4:50

(Side 2)

B1. ウルフ・シティ(狼の街) Wolf City (Karrer, Fichelscher, Rogner, Weinzierl, Meid) - 3:18
B2. 袋小路を通り抜ける風のように Wie der Wind am Ende einer Strasse (Karrer, Fichelscher, Rogner, Weinzierl, Meid) - 5:42
B3. ドイツ・ネパール Deutsch Nepal (Kubler, Meid) - 2:56
B4. 夢遊病者の限りなき橋 Sleepwalker's Timeless Bridge (Fichelscher, Rogner) - 4:54

[ Amon Duul II ]

Renate Knaup-Krotenschwanz - vocals
Chris Karrer - guitars, soprano saxophone, violin
John Weinzierl - guitars
Falk-Ulrich Rogner - organ, clavioline, synthesizer
Lothar Meid - bass, vocals, synthesizer
D. Secundus Fichelscher - drums, vocals, guitars
(Guest personnel)
Jimmy Jackson - choir organ, piano
Olaf Kubler - soprano saxophone, vocals
Peter Leopold - synthesizer, timpani, vocals
Al Sri Al Gromer - sitar
Pandit Shankar Lal - tablas
Liz van Neienhoff - tambura
Paul Heyda - violin
Rolf Zacher - vocals

(Original United Artists "Wolf City" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

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 アモン・デュールIIの『神の鞭』1969、『地獄!』1970、『野鼠の踊り』1971、『バビロンの祭り』1972に続く第5作は前作と同年の1972年に早くも発売されました。これまでのアルバムのうち『地獄!』と『野鼠の踊り』はLP2枚組、『バビロンの祭り』も当初2枚組の予定だったとのことですし、『神の鞭』『地獄!』ではイギリス人ベーシストのデイヴ・アンダーソンとドラマーのペーター・レオポルド、ギタリストのクリス・カーレルとヤン・ヴェインツィェル、キーボードのファルク・ログナーと5人が曲を書き、『野鼠の踊り』以降は新ベーシストのローター・マイト、新ドラマーのダニエル・フィッシェルシャーも作曲をしていますから、メンバーのうち常に5人が曲を持ち寄ったり共作したりしていたので多産が可能だったのでしょう。デビュー作以来のプロデューサーのオラフ・キューブラーもサックス奏者と作曲に関与していますし、本作までのアートワークはキーボードのログナーが手がけています。女性ヴォーカルのレナーテ・クナウプは『野鼠~』では1曲のみゲスト参加扱いでしたが『バビロンの祭り』からは復帰し、キーボードのログナーは『バビロン~』ではゲスト参加扱いになりましたが本作では復帰しています。『地獄!』の発売以来毎年行うようになったイギリス、フランスへのツアーも好評を博し、チャート入りするヒットはかなわなかったもののアメリカの批評家、リスナーにもカンと並んでデュールIIはもっとも注目される西ドイツのロック・バンドの地位を固めていました。タンジェリン・ドリームクラフトワークの国際進出は1974年以降ですから、その前にジャーマン・ロックはカンやデュールIIのようにサイケデリック色を残したヘヴィなロックという認知があったのです。本作発売時のテレビ出演のライヴ映像をご覧ください。
Amon Duul II - Surrounded by the Stars (TV Live, 1973) : https://youtu.be/l5vRa6Pv3PE

 アモン・デュールIIはユナイテッド・アーティスツ・レコーズ傘下のリバティ・レーベルからデビューしましたが、前作『バビロンの祭り』からは親会社のユナイテッド・アーティスツ直属のバンドに昇格します(カンも第2作まではリバティ、第3作『タゴ・マゴ(Tago Mago)』1971からはユナイテッド・アーティスツに昇格したので、2組のバンドをあわせてプロモーションする都合もあったと思われます)。マネジメントも手がけていたプロデューサーのキューブラーの手腕もあったでしょうが、『バビロン~』を1枚もののアルバムにし、同年に『狼の街』を発売したのも恒例化していたイギリス~フランス・ツアーとの相乗効果を狙ったものだったようです。アモン・デュールの次作は『バビロン~』と本作の間に行われたツアーから収録された『ライヴ・イン・ロンドン(Live In London)』1973でした。『バビロンの祭り』もA面3曲・B面3曲とそれまでにない曲のコンパクト化と比較的ストレートなロック化が賛否を呼びましたが、同様にコンパクトな楽曲でまとめられた本作はまたもや論議の対象になりながらも、アモン・デュールIIのもっとも商業的成功を収めたアルバムになりました。

 デビュー作『神の鞭』のような濃厚なサイケデリック色は後退し、またB面全面を使ったインプロヴィゼーション曲などはありませんが、楽曲と演奏の良さ、アレンジの多彩さ、アルバム全編の統一感と完成度で本作は1枚に凝縮されたアルバムとしては『神の鞭』に並ぶ名盤になりました。楽曲自体は混沌としたサイケデリック曲が並ぶ『神の鞭』とは別のバンドのようにヘヴィさは残しているもののプログレッシヴ・ロック楽曲として整理されたものですが、音程の悪さに存在感の大きいレナーテのヴォーカルもこれまでになくメロディアスなメロディーを歌っていますし、ギターとエレクトリック・ヴァイオリンを兼任するリーダーのカーレルを始めとするメンバーのアレンジ力もレナーテ不在だった『野鼠の踊り』、コンパクト化第1弾の『バビロンの祭り』を経て向上しています。次作の『ライヴ・イン・ロンドン』をリリースしてスタジオ作の制作ブランク中に、アモン・デュールIIはベーシストのマイトをリーダーにしたセッション作『ユートピア(Utopia)』1973を制作しますが(CD化の際にアモン・デュールII名義に変更)、同作も本作の水準を保ったものでした。『ライヴ・イン・ロンドン』の次に発表されたスタジオ作『恍惚万歳!(Vive La Trance)』1974ではファルク・ログナーが抜け、オイル・ショックの影響もあったか商業主義的傾向が強まり、『バビロンの祭り』から取り組んでいた楽曲のコンパクト化、ストレートなロック化にバンドのアイデンティティの危うさが目立ってきます。リスナーの半分はここでアモン・デュールIIは終わったと見なします。そのまま次作『ハイ・ジャック(Hijack)』1975ではデュールIIらしい曲は半分しかなく残り半分は単にプログレッシヴ系ハード・ロックになってしまい、次にはひさしぶりの2枚組アルバムでコンセプト・アルバムに取り組んだ『メイド・イン・ジャーマニー(Made In Germany)』1975で新境地を拓くかに見えますが同作はドイツ以外の国ではポップなロック曲のみを選んだ1枚ものでリリースされ、1973年からポポル・ヴーに掛け持ち参加していたフィッシェルシャー(ドラムス以外ギター、ベースも演奏するマルチ・プレイヤーでした)に続いてレナーテもポポル・ヴーに移ってしまいます。『ライヴ・イン・ロンドン』『恍惚万歳!』までの7作(『ユートピア』を入れれば8作)のデュールIIのアルバムは少なくとも佳作までの水準は保ちましたが、『狼の街』(と『ユートピア』)はアモン・デュールII最後の傑作と言ってよく、それを言えば強力な専任ヴォーカリストを失った1975年以降のカンも商業的には好調を維持しましたが、初期6作とその後のアルバムの落差は明らかでした。デュールIIのようなヒッピー・ミュージシャンのバンドが5年間、8作(うち2枚組アルバム2作)の絶頂期をかろうじて続けたのはそれだけでも偉とするべきで、1996年の復活以降歌姫レナーテを含む『狼の街』前後のメンバーで現在までも散発的にライヴ活動・新作制作を行っている(しかもライヴ音源や映像からは全盛期のテンションを維持している)のはアモン・デュールIIと同世代のバンドの多くがメンバーが鬼籍に入った今(アモン・デュールIIがもっとも影響されただろうジェファーソン・エアプレインやヴェルヴェット・アンダーグラウンドもリーダー格のオリジナル・メンバーが逝去し、ポポル・ヴーのリーダーも逝去し、カンもオリジナル・メンバーの現存者は一人だけになりました)、世界的にも最古参バンドとしてなお再評価されてしかるべきでしょう。またアモン・デュールIIをこれから聴くというリスナーには、少なくとも8作の素晴らしいアルバムが待っています。とりわけ『神の鞭』『地獄!』『野鼠の踊り』『バビロンの祭り』『狼の街』の5作は一度買ったら一生楽しめるクラウトロックの古典的アルバムです。