人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

エルモ・ホープ Elmo Hope Quartet & Quintet - ホープ・ミーツ・フォスター Hope Meets Foster (Prestige, 1956)

エルモ・ホープ - ホープ・ミーツ・フォスター (Prestige, 1956)

f:id:hawkrose:20200629230806j:plain
エルモ・ホープ Elmo Hope Quartet & Quintet - ホープ・ミーツ・フォスター Hope Meets Foster (Prestige, 1956) Full Album
Recorded at The Van Gelder Studio, Hackensack, October 4, 1955
Released by Prestige Records PRLP 7021, 1956
Produced by Bob Weinstock

(Side A)

A1. Wail, Frank, Wail (Elmo Hope) : https://youtu.be/EfVLzedwxaI - 6:26
A2. Zarou (Elmo Hope) https://youtu.be/xZpP_SS9hEY - 5:12
A3. Fosterity (Frank Foster) https://youtu.be/zgl9N8MSI9E - 6:16

(Side B)

B1. Georgia On My Mind (Carmichael-Gorrell) https://youtu.be/Ftc1sfHS_6s - 6:38
B2. Shutout (Frank Foster) https://youtu.be/u1HYLygb0Uk - 5:48
B3. Yaho (Elmo Hope) https://youtu.be/6Obhp0HDXdQ - 7:40

[ Elmo Hope Quartet & Quintet ]

Elmo Hope - piano
Frank Foster - tenor saxophone
Freeman Lee - trumpet (A2, A3, B2)
John Ore - bass
Arthur Taylor - drums

(Original Prestige "Hope Meets Foster" LP Liner Cover & Side A Label)

f:id:hawkrose:20200629230821j:plain
f:id:hawkrose:20200629230834j:plain
 プレスティッジやリヴァーサイド、コンテンポラリー、デビューといった'50年代~'70年代のインディー・レーベルは系列レーベル(ニュージャズ、マイルストーンなど)とも'80年代半ば以降ファンタジー・レコーズ傘下のオリジナル・ジャズ・クラシックス・レーベル(OJC)からジャケット、レコード・レーベルともにオリジナル・デザインに忠実に廉価盤でアナログ盤・CD両方の仕様で復刻発売されていて、このOJC盤のおかげでCD時代以降のリスナーには主要ジャズマンのこれらのレーベルへの録音はほぼすべて、さらにかつて稀少だった不遇ジャズマンの幻の名盤まで容易に入手できるようになりました。OJCは復刻リリース作は決して廃盤にしないことでも世界中のリスナーから重宝されています。ただしあまりにマイナーなジャズマンの作品~アーニー・ヘンリーやポール・ホーン、ジミー・ウッズ、ジョー・ゴードン、プリンス・ラシャなどもともとサイドマン級のジャズマンのアルバムはさすがに絶対廃盤にしない方針を貫けないからか、OJCリミテッド・エディション・シリーズとして限定版扱いにされ、品切れになってさらに需要があれば再プレスする建て前ですがこちらはさすがに再プレスまでされる作品はごく一部でしかないようです。エルモ・ホープ作品はプレスティッジにリーダー作3作、サイドマン作が2作あり、またコンテンポラリーが版権を獲得した西海岸のさらにマイナーなインディーのハイ・ファイ・レコーズからリーダー作1枚、サイドマン作が1枚あり、またニューヨークに戻ってリヴァーサイド・レコーズから2作を出しています。OJCから出ているこのうちリミテッド・エディション・シリーズでないのはプレスティッジでのサイドマン作、ソニー・ロリンズの『Moving Out』、ジャッキー・マクリーンの『Lights Out』とホープのプレスティッジでの最終作『Informal Jazz』くらいですが、ロリンズとマクリーンのアルバムならばピアニストがホープでなくても廃盤にはならないでしょうし、ホープ自作名義の『Informal Jazz』は'70年代にはメンバー連名のオールスター・セッション作として新装発売されていたように、トランペットにドナルド・バード、テナーサックスにハンク・モブレージョン・コルトレーン、ベースがポール・チェンバースでドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズと、リーダーのホープだけが落ちこぼれのようになってしまったアルバムでした。残るプレスティッジでの2作『メディテーションズ』と本作『ホープ・ミーツ・フォスター』はリミテッド・エディションです。どちらも1990年代初頭のCD化なので根気良く探さないと手に入りませんが、見つかっても大してプレミアもついていない不人気アルバムでもあります。

 本作はAllmusic.comの評価は★★★で、「イノヴェイティヴな姿勢は皆無だが、バップ・ファンなら楽しめるだろう」となげやりです。フランク・フォスターは名門カウント・ベイシー楽団員のテナー奏者でこの後独立してリーダー作を多数制作しますし、3曲のみ参加しているトランペット奏者のフリーマン・リー(この後1980年代まで消息が途絶えるマイナー奏者です)はフォスターはともにエルモ・ホープのブルー・ノートでの『Elmo Hope Quintet Volume. 2』のメンバーでした。本作も勝手知ったる仲ということからフォスターとリーを招いた企画だったのでしょう。ブルー・ノート盤『Elmo Hope Quintet Volume. 2』のベーシストはパーシー・ヒース、ドラムスはアート・ブレイキーでしたが本作当時にはヒースはモダン・ジャズ・カルテットのメンバーで、ドラムスも呼べればブレイキーでも可だったでしょうが、プレスティッジのハウス・ドラマーだったアート・テイラーで良かろうと判断されたのでしょう。ホープのプレスティッジでの最初の録音になったロリンズの『Moving Out』はブレイキーがハイハットを忘れてきてそのまま制作されたアルバムで、ハッケンサックのヴァン・ゲルダーの自宅スタジオにはピアノはありましたがドラムセットは当時予備すら置いていなかったのを明らかにするエピソードです。

 しかし、ブルー・ノートでの1954年5月と同じフロント・ラインによるクインテット、または半数の曲でリーが抜けてカルテットと書いてしまうと、もうこのアルバムについて書くのはお手上げという気がします。ブルー・ノートでのクインテット録音がいかに楽曲が良く熱意もこもっていたかを思い合わせると抜け殻のような出来で、一応の水準は保っているとはいえ聴けば聴くほど印象の稀薄な、ちょっと打ち合わせしてすぐ本番録音に入って一丁上がりのような出来です。前作『メディテーションズ』のジャケットも地味なのか渋いアート感があるのか手抜きなのか微妙なものでしたが、友軍邂逅か休戦協定の情景のような意味不明の本作のジャケットは12インチLPも定着した1957年にこれはなかろうというほどまったく売る気のないジャケットならば、内容もジャケット相応に気が入っていなのです。まずトランペット奏者がいながら6曲中3曲しか参加させていないのもあまり気にならないながらアルバムの統一感を損ねていますし、6曲中1曲のスタンダードがあの臭い「Georgia On My Mind」というとやばい予想しか浮かびませんが、この曲はスウィンガーに仕立ててあってひとまず安心します。残り5曲はホープのオリジナル曲3曲、フォスターのオリジナル曲が2曲ですが、ホープの曲は3曲ともブルースで、やや洗練されたテーマを持つA2「Zarou」はまだしもこれまでのホープのオリジナル曲の水準からは落ちる楽曲ばかりですし、まだしもAA'BA'形式のフォスターのオリジナル曲2曲の方が勝っているのではホープのリーダー作たる面子が立ちません。フォスターのオリジナル曲ではリーのトランペットかホープのピアノが先発ソロを取り、フォスター自身のソロは最後というのもカウント・ベイシー楽団員らしい和を重んじた姿勢が感じられます。本作に較べるとホープ参加のロリンズ『Moving Out』、マクリーンの『Lights Out』、またコルトレーンとモブレー参加のホープ自身の『Informal Jazz』はいかにサックス奏者で持っていたかが痛感される出来で、いっそこれならフォスターのリーダー作としてリリースされたものだったならまだしも納得がいったでしょう。ホープは管入りのバンドだとよほどオリジナル提供曲が充実していないと無個性か、または気弱で勢いのない演奏になってしまうのです。

 本作はそうした「管入りのホープのアルバムはぱっとしない」という一般的な(一応ホープの主要作はひととおり聴いた)リスナーの印象通りの出来で、ビ・バップ的な熱気もハード・バップ的な完成度もまるで不十分な、ブルー・ノートでのブラウン&ドナルドソン・クインテットホープ自身の『Elmo Hope Trio Volume. 2』はいかにホープの楽曲の粒が揃いバンド全体も気合いの入った出来だったか、ホープが安定感を欠いた、ともすれば精彩を欠いてしまうピアニストだったかを逆に証明するようなアルバムです。セロニアス・モンクバド・パウエルレニー・トリスターノがソロ・ピアノからトリオ、管入りでもいかに高く優れた水準を保っていたか、ピアノ・トリオでしかレコーディングを残せず生涯にアルバム4枚しか録音の機会に恵まれなかったハービー・ニコルスが全作品でいかに強靭な個性をアピールしていたかを嫌でも比較せざるを得ないようなアルバムで、ホープが過小評価ピアニストだったのは優れたアルバムの数々が示していますが、それでもモンクやバド、トリスターノ、ニコルスらと較べると一段落ちるピアニストであったのも実力相応の評価だろうかと情けなくなるもので、こういう聴き返すほど落胆するアルバムを大事に聴くのは名盤ばかりに慣れた耳に灸をすえられるような意義もあるでしょう。再発売されても限定版しか出ないアルバムですから凡作だといって手放したら二度と手に入らないかもしれない本作を持て余すように仕方なく持っているのも、ジャズのリスナーにとっての業のようなものです。