マイルス・デイヴィス - パリ・フェスティバル (CBS, 1977)
マイルス・デイヴィス The Miles Davis/Tadd Dameron Quintet - パリ・フェスティバル・インターナショナル In Paris Festival International De Jazz - May, 1949 (CBS, 1977) : Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_nke5EROMwwl1aevG-qdOc0_64tJkGFMk8
Recorded Live at Salle Pleyel, Paris, May 8, 1949 (Side 1), May 9, 1949 (Side 2), Date Unknown (Bonus track)
Released by CBS Records France, CBS 82100, July 1977
Produced by Bruce Lundvall, Henri Renaud
(Side 1)
A1. Rifftide (Coleman Hawkins) - 4:35
A2. Good Bait (William "Count" Basie, Tadd Dameron) - 5:30
A3. Don't Blame Me (Dorothy Fields - Jimmy McHugh) - 3:58
A4. Lady Bird (Tadd Dameron) - 4:55
(Side 2)
B1. Wahoo (Cliff Friend) - 4:21
B2. Allen's Alley (Wee) (Denzil Best) - 5:31
B3. Embraceable You (Ira Gershwin - George Gershwin) - 4:09
B4. Ornithology (Charlie Parker - Benny Harris) - 3:45
B5. All The Things You Are (Oscar Hammerstein II - Jerome Kern) - 4:19
(CD Bonus Track)
10. The Squirrel (Tadd Dameron) - 3:57
11. Lover Man (Roger Ramires - Jimmy Sherman - Jimmy Davis) : https://youtu.be/rjsIXNEuXl4 - 3:23
[ The Miles Davis/Tadd Dameron Quintet ]
Miles Davis - trumpet
James Moody - tenor saxophone
Tadd Dameron - piano
Barney Spieler - bass
Kenny Clarke - drums
*
(Original CBS "In Paris Festival International De Jazz - May, 1949" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side A Label)
言わずもがなのジャズの巨人マイルス・デイヴィス(1926-1991)は1976年~1981まで一時引退していましたが、引退中にもマイルスの契約していたCBSコロムビア・レコーズはさまざまな時期の未発表音源を活動再開までの場つなぎとして正規リリースしていました。本作は中でももっとも初期のライヴ録音として話題となったアルバムで、CBSコロムビアからリリースされたマイルスの全アルバムを録音年代順にまとめた2009年発売のCD53作組ボックス・セット『The Complete Columbia Album Collection』でも1枚目に位置づけられたものです。当時マイルス・デイヴィスはチャーリー・パーカー(1920-1955)・クインテットに在籍していましたが、1949年5月8日~15日の9日間に渡って行われたこのパリでのジャズ祭ではタッド・ダメロン(1917-1965)・クインテットのメンバーとして渡仏し、やはりこのジャズ祭に招かれたチャーリー・パーカー・クインテットのトランペット奏者はケニー・ドーハム(1924-1972)が代役参加し、帰国後ほどなくマイルスは正式にパーカー・クインテットを脱退、そのままドーハムが1949年秋までの短期間代役を勤めました(1949年11月からはレッド・ロドニーが正式加入し、1951年末までパーカー・クインテットのトランペット奏者を勤めます)。パリのプレイエル・ホールでの国際ジャズ祭は前年1948年から1953年に渡って開催され、1948年にはディジー・ガレスピー(1917-1993)のビッグバンドが招聘されています。フランスのバンドに混じって1949年にはパーカー・クインテット(パーカーas、ケニー・ドーハムtp、アル・ヘイグp、トミー・ポッターb、マックス・ローチds)、マイルス/ダメロン・クインテット、マックス・ローチ・クインテット(ドーハム、ジェームス・ムーディーts、ヘイグで、パーカー・クインテットとマイルス/ダメロン・クインテットとの混成バンドでした)が招聘され、日替わりで1日4バンドの出演で最新のアメリカのビ・バップのバンドとフランスのバンドが競演しました。日程表は当時の文献がアルバムの見開きジャケットに転載されていますが、パーカー・クインテット在籍中のスター・ドラマー、マックス・ローチ(1924-2007)をリーダーとした臨時編成クインテットの出演はぎりぎりになって決まったらしく、インディー・レーベルの発掘アルバムによってこのジャズ祭での演奏が確認できますが日程表には掲載されていません。日程表によるとマイルス/ダメロン・クインテットは9日間のジャズ祭中7回分の出演を予定されたようですが(パーカー・クインテットは5回、初日と最後の2日のトリに予定されています)、ジャズ祭の全容を網羅した音源は発掘されていないので、マックス・ローチ・クインテットの参加からも推定されるように実際は予定された日程表通りに実施されなかったと思われます。しかしこのアルバムは(A面とB面の録音日は異なるものの)タッド・ダメロンとの共同リーダー(日程表にも「Miles Davis, Tadd Dameron Quintet」と表記されています)ながら、もっとも初期の22歳のマイルスの初めてのフルアルバムと見なせ、マイルスは1947年8月にパーカー・クインテットのメンバーそのままで初のマイルス名義の録音を4曲、1949年1月と4月にのちに『The Birth of the Cool』にまとめられるSPを録音していましたが、ことアルバムに関して言えばラジオ放送用音源の発掘ライヴとは言えこの『パリ・フェスティバル』がフルアルバム単位でマイルスを看板ソロイストとしたタッド・ダメロンのバンドが聴ける、ビ・バップ時代のジャズ・アルバムの逸品となっています。インディー盤からはこのジャズ祭でのパーカー・クインテット、ローチ・クインテットのラジオ放送用ライヴも発掘発売されていますが(マイルス/ダメロン・クインテットとメンバー兼任のため各バンドで「All The Things You Are (Prince Albert)」や「Ornithology (How High The Moon)」「Lady Bird (Half Nelson)」や「Allen's Alley」「Lover Man」など同一曲が演奏されており、聴き較べする面白さもあります)、正規のメジャー・レーベルからのリリースはマイルス/ダメロン・クインテットのこのアルバムだけです。また共同リーダー名義とは言えビ・バップ最盛期のダメロン・バンドがフルアルバムで聴けるのも本作だけで、後述の理由からダメロン・バンドの発掘ライヴ盤としてもマイルスの参加とともに絶大な稀少価値を誇ります。
マイルスはパーカー・クインテットの若いトランペット・ヒーローでしたからこのジャズ祭ではマイルス/ダメロン・クインテットと併記されたのでしょうが、実際にバンドを仕切っているのはビ・バップの隠れた巨匠、タッド・ダメロンです。ダメロンの黄金時代は1944年~1950年のSPレコード時代、1955年以前の10インチLP時代にあり、全盛期のダメロン・バンドのレコードは抜群のフィーチャリング・ソロイストだったファッツ・ナヴァロ、ワーデル・グレイ、クリフォード・ブラウンら夭逝ジャズマンのコンピレーションLPに分散収録されてしまったので、ビ・バップの名盤として輝くナヴァロやグレイ、ブラウンの遺作アルバムの収録曲の一部は実際はタッド・ダメロンのバンドのレコードだったのが閑却されています。またナヴァロやグレイのアルバムに分散収録されたために全盛期ダメロン・バンドだけを集めたアルバムが組まれていないので、ダメロン・バンドがフルアルバムで聴ける本作な非常に稀少なものです。このパリのジャズ祭のライヴでは、ダメロンのビッグバンドがクインテットに縮小していた時期に当たり、そろそろ1945年春以来在籍していたパーカー・クインテットから独立しようかと思案していたマイルスがパリのジャズ祭出演のためにダメロンのバンドに加わったというのが実情で、名義上はマイルス/ダメロン・クインテットですがバンドのリーダーはダメロンで、レパートリーもダメロンのバンドのものでした。バンドリーダー兼ピアニストとしてもダメロンはあくまで自分は出しゃばらずソロイストをフィーチャーするタイプでしたので、ナヴァロやグレイ、のちのクリフォード・ブラウンをフィーチャーしたのと同じようにマイルスがもっとも本領を発揮しやすい選曲とアレンジにバンドをチューンナップしています。当時のパーカーやガレスピーのバンドと共通するビ・バップ・スタンダードと言える名曲が全編ずらりと並んでいますが、マイルス在籍時からのパーカー・クインテットの定番曲B4「Ornithology」ではパーカー・クインテットのオリジナル以上に加速したテンポでぶっ飛ばし、バラードのB5「All The Things You Are」やB3「Embraceable You」ではマイルスはぎりぎり原曲のメロディーを残して崩しまくり、A3「Don't Blame Me」ではテーマ・メロディーもほとんど残らないアドリブから入っています。これらバラード演奏では後年のマイルスが得意とする一聴ミストーンのような半音階フレーズの萌芽が見られるのも注目されます。乗り乗りのバップ曲のA1「Rifftide」、B1「Wahoo」、B2「Allen's Alley (Wee)」ではパーカー・クインテット以上に奔放で、マイルスが「Half Nelson」に改作したダメロンのオリジナル曲A4「Lady Bird」は実際には「Half Nelson」のテーマ・メロディーで演奏されます。のちにジョン・コルトレーンの演奏でダメロン・オリジナルの人気曲となったA2「Good Bait」も快調で、ダメロンのリーダーとしての統率力の高さと初めての海外公演でスターとして遇されたマイルス(アメリカ国内とは比較にならない人気で、サルトルと会見の席が設けられたりジュリエット・グレコとのロマンスが芽生えたりで一躍パリの寵児となったことが晩年の自伝でも回想されています)の勢いが相乗効果となって、ベーシストだけフランス人ジャズマンながら素晴らしい演奏に結実しています。本作はフランスCBSで発掘・先行発売された後に全世界発売され、残されていた原盤がラジオ放送用のアセテート盤だったためデジタル・リマスタリングされてもアセテート盤由来の針音やアナウンサーの中継音声が除去できていませんが、ダビングも編集もない純粋なライヴ音源、しかも中味は極上で音質の限界以上の価値があり、ビ・バップ全盛期のモダン・ジャズの熱狂をそのまま伝えてくれる、言わずもがなの巨人マイルスの原点を知るにも過小評価の巨匠ダメロンの真価を知るにも最上の一枚となっています。現代の商業化されたスムーズ・ジャズとはまったく違う根源的なジャズの姿を思い知らされるこのほとばしり突っ走るようなジャズこそがビ・バップによって革新されたモダン・ジャズであり、もっと完成度の高い当時のスタジオ録音SP盤のコンピレーション・アルバムを差し置いても本作が今なお魅力を放つ、白熱と熱狂の必聴級ドキュメントたるゆえんです。