人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

冬のラヴ・ソング

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ザ・ドアーズ The Doors - ウインタータイム・ラヴ Wintertime Love (Elektra, 1968) : https://youtu.be/tv4xzDV7SnI
From the album "Waiting For the Sun", Elektra Records EKS-74024, July 3, 1968

 冬のラヴ・ソングというとクリスマス・ソングにかこつけたもの以外には本当に少ないようで、詩歌俳句でも冬の季語を使って恋の句をなすものはごく稀でしょう。春・夏・秋がラヴ・ソングの背景になりやすいのと較べると仕方がないような気もします。この曲「ウインタータイム・ラブ」はザ・ドアーズのサード・アルバム『太陽を待ちながら(Waiting For the Sun、日本盤初発売時の邦題はご覧の通り『日の出を待って』)』のA面5曲目、A面ラストのシングル曲A6「名もなき兵士(The Unknown Soldier)」の前に地味に置かれた2分もない小品で、A4「夏は去り行く(Summer's Almost Gone)」に続いて歌詞内容ではメドレーをなしていますが、ドアーズのあか抜けたセンスを示す愛らしい楽曲です。ドアーズのリーダーはオルガン奏者のレイ・マンザレクで使用楽器はファルファッサ・オルガンかヴォックス・オルガンでしたが、この曲はワルツ・テンポのリズム・アレンジだからかバロック音楽風にヴォックス・オルガンにチェンバロをオーヴァーダビングしており、やはりチェンバロを導入したセカンド・アルバムからのシングル曲「ラブ・ミー・トゥー・タイムズ(Love Me Two Times)」が変形ブルースにバロック音楽風のチェンバロ演奏で異色な効果を出したのとは対照的な成果を果たしています。ドアーズはこのサード・アルバム直後のコンサート・ツアー中に「猥褻で扇情的なパフォーマンス」「警備妨害」の罪状で告訴され、人気絶頂中に公判集結まで1年半あまりのライヴ禁止を強いられてしまうので「ウインタータイム・ラブ」は一度もライヴ演奏されない曲になってしまいましたが、マンザレクはライヴではオルガン以外を使用しなかったのでオルガンのみのライヴ・アレンジによる「ウインタータイム・ラブ」の音源も聴いてみたかったものです。このあっさりした小品が実は大変な難曲かはカヴァーがまず不可能なことでもうかがわれ、アレンジをそのまま模してもコピーかパロディ以上の演奏にはならないでしょう。本物の個性というのは元来そういうものかもしれません。