人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ポポル・ヴー Popol Vuh - ヨーガ Yoga (PDU, 1976)

ポポル・ヴー - ヨーガ(PDU, 1976)

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ポポル・ヴー Popol Vuh - ヨーガ Yoga (PDU, 1976) : https://youtu.be/N6Yom735gP8
This album was the results of a session recorded at Studio 70, Munich in 1974, and was never intended to be released as a Popol Vuh release.
Released by PDU Records Pld. SQ 6066, Italy, 1976
(Lato A)
A1. Yoga 1 - 22:10
(Lato B)
B1. Yoga 2 - 18:30

[ Personnel ]

Florian Fricke - Indian Harmonium
Beena Chatterjee - vocals
Al Gromer - Sitar
Pandit Sankha Chatterjee - tabla
Peter Müller - sarangi

(Original PDU "Yoga" LP Liner Cover & Lato A Label)
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 旧西ドイツのクラウトロックを代表するグループのひとつ、ポポル・ヴーは実質的にリーダーのキーボード奏者フローリアン・フリッケ(1944-2001)のソロ・プロジェクトで、メンバーの出入りは少なかったもののレコード制作のみでライヴは行わず、アルバム制作ごとにフリッケと親しいミュージシャンたちが集まる形態で1970年のデビューからフリッケ逝去まで30年もの間活動を続けていましたが、そうした異例の活動を可能にしたのもフリッケが旧貴族階級の大城主で機材も備えた自宅スタジオを持つ富豪であり、かつ親友だった映画監督、ヴェルナー・ヘルツォーク(『アギーレ・神の怒り』など)の映画の専属映画音楽家だからでした。ポポル・ヴーのアルバムはこのブログで初期の数作をご紹介しましたが、今回ご紹介するポポル・ヴー第9作目のアルバム『ヨーガ(Yoga)』は本来ポポル・ヴーの作品として制作されたものではなく、フリッケが友人のつてで在独インド人ミュージシャンたちとセッションした音源を現代インド音楽のアルバムとしてかつての所属レーベルのOhrに提供していたところ、Ohrはこれをドイツ発売はせずフリッケとの契約満了を待ってイタリアのインディー・レーベルに売却し、イタリアのレーベルPDUがポポル・ヴー名義で発売してしまったものです。フリッケはポポル・ヴー名義で23枚のアルバムを残しており、フリッケ逝去後全作品が未発表テイクを加えたリマスター盤CDとして新装発売されましたが、この『Yoga』だけはフリッケの遺志と版権の散佚から再発売を除外されています。しかしPDUレーベルはOhrから本作を版権ごと買い取っていたらしく、このアルバムはアナログLPでは初回プレスのみで廃盤になったものの1992年にフランスのSpalaxレーベルから初再発売・初CD化され、イタリアのHigh Tideレーベルから1993年にCD再発売されたあと再度廃盤になり、フリッケ逝去後の2007年にイタリアのAtlas Eclipticalisレーベルから限定版のCD-R再発売がされています。そうした事情で本作はリリース過程もジャケット(CDジャケットはアナログLPからのピンボケ複写!)もタイトルも内容もうさんくさいためにCD(おそらくマスター・テープ紛失のためアナログLP起こし!)も少数のプレス枚数しか出回っていませんが、同じ理由(さらにCDでは1、2の区切りなしで全1曲40分!)から不人気なので、稀少なアルバムにもかかわらずプレミアどころか中古盤ではこんなの買う客もなかろうと捨て値に近い値段で売られています。私も20年以上前に中古盤店で800円くらいで買いました。

 しかし実際このアルバムを聴いてみると、本来ポポル・ヴー作品として制作されたものではなく、発売後もフリッケがポポル・ヴー作品から除外しているにもかかわらず、本作はエキゾチックでアコースティックな現代インド音楽として聴きごたえのあるキュートでチャーミングなアルバムで、全編で流れるインド人女性ヴォーカルの囁くような歌声にはポポル・ヴーの新旧レギュラー・ヴォーカリストだったディオン・ユン(現代クラシック界の韓国人大作曲家イサン・ユン令嬢)、レナーテ・クラウプ(元アモン・デュールIIの女性ヴォーカリスト)らに劣らない魅力があります。ポポル・ヴー自体も初期2作と映画サウンドトラックではムーグ・シンセサイザーを使用しているもののサード・アルバム『ホシアナ・マントラ(Hosianna Mantra)』以降は後期のアルバムまでずっと独自のアコースティック・アンサンブルが主体のサウンドで一貫しています。本作『Yoga』には作曲者クレジットはなく即興演奏のセッション・アルバムと思われますがフリッケもインド製ハーモニウム(足踏みオルガン)で参加しており、女性ヴォーカルとインド楽器とのアンサンブルによるメディテーショナルな響きは本家ポポル・ヴー作品と並べてもおかしくないものです。再発売CDもフリッケにとっては不本意だったためフランス盤、イタリア盤しかプレスされていない不遇なアルバムですが、本家ポポル・ヴーのアルバムを聴いたことのある人もない人もこの『Yoga』は現代インド音楽とエキゾチックなアコースティック・フォークを融合したなかなかの逸品として愛聴できるのではないでしょうか。アメリカのセヴンス・サンズの『Raga』のような素人芸ではなく、イギリスのマッシュルーム・レーベルのマジック・カーペットなどはモロに本作と同じインド音楽フォーク・ロックですが、出来栄えはこの『Yoga』の方がはるかに上です。本作はイギリスのヴァシュティ・バニヤン、フランスのエマニュエル・パルナン、イタリアのサン・ジュストなどの'70年代の女性ヴォーカル・アシッド・フォークとも親近性のある、この種の音楽が好きな人にはたまらない魅力のある作品です。こういうアルバムがいくらでも埋もれているのが'70年代ユーロ・ロックのそら恐ろしいところです。

 なお参考までにポポル・ヴーの全アルバム・リストを上げておきます。ジュリアン・コープによるドイツのロック研究書『Krautrocksampler』1995にはドイツのロックのベスト・アルバム50選に『Affenstunde』『In Den Garten Pharaos』『Einsjager & Siebenjager』『Hosianna Mantra』(この順)が上げられています。日本語題があるものはフリッケ逝去後のリマスターCDが日本盤でリリースされているものです。また『アギーレ/神の怒り』『ガラスの心』『ノスフェラトゥ』『Fitzcarraldo』『コブラ・ヴェルデ』はそれぞれ同年のヴェルナー・ヘルツォークの同名映画のサウンドトラック盤です。

[ Popol Vuh Album Discography ]
1.『猿の時代』(旧邦題『原始帰母』)Affenstunde (1970)
2.『ファラオの庭にて』In den Garten Pharaos (1971)
3.『ホシアナ・マントラ』Hosianna Mantra (1972)
4.『聖なる賛美(山上の教訓)』Seligpreisung (1973)
5.『一人の狩人と七人の狩人』Einsjager und Siebenjager (1974)
6.『雅歌』Das Hohelied Salomos (1975)
7.『アギーレ/神の怒り』Aguirre (1975)
8.『最後の日、最後の夜』Letzte Tage - Letzte Nachte (1976)
9.『Yoga』(1976)
10.『ガラスの心』Herz aus Glas (1977)
11.『影の兄弟、光の子供達』Bruder des Schattens - Sohne des Lichts (1978)
12.『ノスフェラトゥ』Nosferatu (1978)
13.『魂の夜(タントラの歌)』Die Nacht der Seele (1979)
14.『静謐の時』Sei still, wisse ICH BIN (1981)
15.『Fitzcarraldo』(1982)
16.『アガペー・神の愛』Agape - Agape (1983)
17.『スピリット・オブ・ピース』Spirit of Peace (1985)
18.『コブラ・ヴェルデ』Cobra Verde (1987)
19.『フォー・ユー・アンド・ミー』For You and Me (1991)
20.『シティ・ラーガ』City Raga (1995)
22.『羊飼いの交響曲』Shepherd's Symphony - Hirtensymphonie (1997)
23.『オルフェオのミサ』Messa di Orfeo (1999)