人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - イルリヒト Irrlicht (Ohr, 1972)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - イルリヒト Irrlicht (Ohr, 1972) Full Album + Bonus Track : https://youtu.be/R8tjPGCWlTM
Recorded at Musiksaal der Freien Universitat Berlin & Klaus Schulze Studio, Berlin, April 1972 (the three original Irrlicht tracks), Early seventies (the bonus studio track)
Released by Ohr Musik GmbH / Metronome Records GmbH OMM 556. 022, August 1972
Produced and All tracks composed by Klaus Schulze.
(Reissued '75 Brain Records "Irrlicht" LP Front Cover)

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(Seite 1)
A1. 1. Satz: Ebene - 23:23
A2. 2. Satz: Gewitter (Energy Rise - Energy Collaps) - 05:39
(Seite 2)
B1. 3. Satz: Exil Sils Maria - 21:25
(Bonus Track)
4. Dungeon - 24:00
[ Personnel ]
Klaus Schulze - "E-machines", organ, guitar, percussion, zither, voice, etc.
with
Colloquium Musica Orchestra - 4 first violins, 4 second violins, 3 violas, 8 cellos, 1 bass, 2 horns, 2 flutes, 3 oboes (recorded as raw material then post-processed and filtered on tape.)

(Original Ohr "Irrlicht" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover, Insert & Side 1, 2 Label)

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 今回からは旧西ドイツのベルリンで生まれ、'60年代末から活動し、現在も旺盛なライヴとアルバム発表を続けている音楽家クラウス・シュルツェ(Klaus Schulze, 1947年8月4日- )のアルバムを追ってみたいと思います。シュルツェは当初ドラマーで、1962年から「Ones」と名乗るロック・バンドで活動していたティルゼット(現ロシア領)出身のギタリスト、エドガー・フローゼ(1944-2018)が1967年に実験的なサイケデリック・ロックに転じて結成したバンド、タンジェリン・ドリーム(Tangerine Dream)に'69年に参加、バンドは新進プロデューサーのロルフ・ウルリッヒ・カイザーがメトロノーム社傘下で起こした新レーベルのオール(Ohr)からデビュー・アルバム『Electronic Meditation』'70を発表しました。タンジェリンのデビュー・アルバムはフローゼのエレクトリック・ギター、コンラッド・シュニッツラーのチェロ、シュルツェのドラムスの3人にゲスト参加のフルートを加えた即興アンサンブルですでにロックから大きく逸脱したものでした。タンジェリンがこのメンバーで製作したアルバムはデビュー作だけで、第2作ではシュニッツラーがより現代音楽的なクラスター(Kluster)を結成して独立し(後にシュニッツラーはソロに転向、グループはClusterと改名して存続)、シュルツェは若いギタリストのマニュエル・ゲッチング(1952-)と新バンド、アシュ・ラ・テンペル(Ash Ra Tempel)結成のため脱退し、タンジェリンはフローゼ以外のメンバーを一新してフローゼ没後の現在でも活動しています。オールから'71年にデビュー・アルバム『Ash Ra Tempel』を発表したアシュ・ラ・テンペルはエレクトリック・ギター、ベース、ドラムスのトリオ編成でしたがデビュー・アルバムの後、オールの姉妹レーベルのピルツ(Pilz)からシンセサイザー奏者フローリアン・フリッケ(1944-2001)がポポル・ヴー名義で発表していたアルバムに触発されたシュルツェは初のソロ・アルバム『イルリヒト (Irrlicht)』'72(Ohr)を発表、カイザーの主宰するオール、ピルツに次ぐコスミッシュ(Kosmische)レーベルからの所属アーティストたちの選抜セッション・アルバム「コズミック・ジョーカーズ (Cosmic Jokers)」'72-'74の全8作中大半に参加しながらアシュ・ラ・テンペルにはデビュー作に次いで第4作『Join Inn』'72に参加、シュルツェ自身のソロ・アルバムは第2作の2枚組大作『Cyborg』'73(Kosmische)を経て第3作『Picture Music』'75('73録音、第4作『Blackdance』'74が先行発売)からはドイツ・ポリドール傘下のブレイン(Brain)レーベルに移籍、同年の第3作『Hosianna Mantra』'73(Pilz)からアコースティック編成に変貌してピアノに専念することになったポポル・ヴーのフリッケから当時西ドイツに数台しかなかったモーグシンセサイザーを譲り受け、電子変調させたオーケストラにオルガン、メロトロン、ギター、パーカッション、ツィターの加工音のアンサンブルで制作した『Irrlicht』『Cyborg』からシンセサイザーを主要楽器にした音楽に徐々に移行期していきます。シュルツェ公認による短縮ヴァージョンによる2枚組CDのベスト・アルバム『The Essential 72–93』'94ではディスク1が'80年の『Dig It』まで、ディスク2が'81年以降のアルバムからとなっていますので、'80年発売のアルバムまでを第1期として上げると、

[ Klaus Schulze Album Discography 1972-1980 ]
1. Irrlicht (Ohr, 1972)
2. Cyborg (Kosmische Musik, 1973, 2LP)
3. Blackdance (Brain, 1974)
4. Picture Music (Brain, 1975)
5. Timewind (Brain, 1975)
6. Moondawn (Brain, 1976)
7. Body Love (Brain, 1977, soundtrack)
8. Mirage (Brain, 1977)
9. Body Love Vol. 2 (Brain, 1977)
10. X (Brain, 1978, 2LP)
11. Dune (Brain, 1979)
12. ...Live... (Brain, 1980, live, 2LP)
13. Dig It (Brain, 1980)

 以上2枚組LP3組を含む13作は、シュルツェ参加のタンジェリン・ドリームのデビュー作、アシュ・ラ・テンペルのデビュー作と第4作、シュルツェ参加の「コズミック・ジョーカーズ」セッション作品と並んで、'70年代西ドイツのロック発祥の実験音楽の古典的位置を占めるアルバム群で、発表時にも高い評価を受けましたが現在ではそれ以上に声価の高い、'70年代音楽の至宝とされています。ソロ・デビュー作『Irrlicht』と第2作『Cyborg』は同傾向の音楽性のアルバムなので、今回はクラウス・シュルツェの初期活動の概要にとどめ、アルバム内容については次作『Cyborg』をご紹介する際に再び言及いたします。
 本作について軽く触れれば、オルガンと塊のようなオーケストラ・サウンドがトータル50分に渡ってドローン音響を響かせるアルバムで、タイトル「Irrlicht」は狂った光、自我の光、慣用句としては日本語の「鬼火」に当たり、フルタイトルは『Irrlicht: Quadrophonische Symphonie fur Orchester und E-Maschinen』、日本語にすれば『鬼火~オーケストラと電子楽器のための立体音響交響曲』となります。各曲のタイトルは「1. 第1楽章・計画」「2. 第2楽章・雷嵐」「3. 第3楽章・シルス・マリアを出でて」で、「シルス・マリア (Sils Maria)」は晩年の精神病者となったニーチェが過ごしたスイスの療養地として知られる地名です。ソロ・デビュー作にして非常に完成度の高いミュージック・コンクレート(具象音楽)作品で、シュルツェの最高傑作のひとつと('80年までのアルバムはすべてそうですが、デビュー作だけにとりわけ)評価の高い1作です。