人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ポポル・ヴー Popol Vuh - 猿の時代 Affenstunde (Liberty, 1971) / ファラオの庭で In Den Garten Pharaos (Piltz, 1972)

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ポポル・ヴー Popol Vuh - 猿の時代 Affenstunde (Liberty, 1971) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLHxAp08o24xpEsCJI_xRQDw_bCp_qKXot
Recorded at Bavaria Music Studio in Munchen
Released by Liberty Records LBS 83460, 1971
All songs composed and all arranged by Popol Vuh
(Side One) 鏡を作る私 Ich mache einen Spiegel
A1. i)夢 パート4 Dream Part 4 - 8:47
A2. ii)夢 パート5 Dream Part 5 - 4:52
A3. iii)夢 パート49 Dream Part 49 - 7:48
(Side Two)
B1. 猿の時代 Affenstunde - 18:36
[ Popol Vuh ]
Florian Fricke - moog synthesizers
Holger Trulzsch - percussion
Frank Fiedler - synthesizer mixdown

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ポポル・ヴー Popol Vuh - ファラオの庭で In Den Garten Pharaos (Piltz, 1972) Full Album : https://youtu.be/65wgQbfOoo4
Regie im Studio (Trixi-Munchen): Gertig
Released by Pilz Disk 20 21276-9, 1972
(Side One)
A1. ファラオの庭で In Den Garten Pharaos (Popol Vuh) - 17:37
(Side Two)
B1. ヴー Vuh (Popol Vuh) - 19:48
[ Popol Vuh ]
Florian Fricke - moog synthesizers, orgel, fender piano
Holger Trulzsch - afrikanisch, turkisch percussion
Frank Fiedler - moog synthesizer mixdown

(Original Liberty "Affenstunde" LP Liner Cover & Gatefold Inner Sleeve Left/Right)

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 70年代~2001年のリーダーのフローリアン・フリッケ(1944-2001)逝去まで活動した旧西ドイツのポポル・ヴー(Popol Vuh)は、2月15日付けの記事で代表作のサード・アルバム『ホシアナ・マントラ』Hosianna Mantra (Pilz, 1972)をご紹介しました。『ホシアナ・マントラ』以降のポポル・ヴーは数枚の例外(初期音源の編集盤『Aguirre』、サウンドトラック『Nosferatu』『Fitzcarraldo』『Cobra Verde』インド人ミュージシャンによる即興演奏を編集してレコード会社が無断でポポル・ヴー名義でリリースした珍盤『Yoga』など)を除けば『ホシアナ・マントラ』のアコースティックな讃美歌路線が続きます。フリッケがピアノに専念した『ホシアナ・マントラ』のキーパーソンは女性ヴォーカルのディオン・ユン(韓国出身の国際的なクラシック作曲家イサン・ユン令嬢)、トリオ編成でスペース・ロックをやっていたギラ(Gila)のギタリストのコニー・ファイトでしたが、次作『聖なる賛美(山上の教訓)』Seligpreisung (1973)ではユンもファイトも参加せずアモン・デュールIIのドラマーでギターも兼任するダニエル・フィッフェルシャーとのデュオになり、フリッケ自身が全編でとるヴォーカルがなかなか良い味を出しています。インストルメンタル中心の次作『一人の狩人と七人の狩人』Einsjager und Siebenjager (1974)も同じデュオ作ですがフィッフェルシャーの提供曲が半数になり、フリッケの瞑想的な曲とフィッフェルシャーの素朴な民謡調の曲が調和した親しみやすいアルバムになりました。
 次作『雅歌』Das Hohelied Salomos (1975)はフリッケ、フィッフェルシャーにヴォーカルのユンが復帰した『ホシアナ・マントラ』のリメイクといえる好作で、ヴェルナー・ヘルツォークの同名映画へ提供した初期音源を再編集した『アギーレ/神の怒り』Aguirre (1975)を挟んで『最後の日、最後の夜』Letzte Tage - Letzte Nachte (1976)ではフリッケ、フィッフェルシャーにアモン・デュールIIから女性ヴォーカルのレナーテ・クラウプが加わります。メンバーの2/3が元アモン・デュールIIなのでややヘヴィなアルバムになりましたがフィッフェルシャーとレナーテの抜けたデュールより格段に良いアルバムで、ただし本作はやりすぎと感じたか以後のポポル・ヴー作品はデュール色を加えつつも本来の路線に戻ります。その前に問題の『Yoga』(1976)がありますが、フリッケ自身がヴーのアルバムと認めていないものの内容はポポル・ヴー作品に通じ、22枚しかないヴーのアルバムならばこれもありでしょう。以後、フリッケとフィッフェルシャーに主にレナーテ、たまにユン、それに少数のゲスト・ミュージシュンが入るのがポポル・ヴーのレギュラー編成で、初期はテレビ出演などもあったようですがライヴはまったく行わず、レコード制作とヴェルナー・ヘルツォーク作品の専属映画音楽だけでブランクもなく30年あまりの活動を続けていたグループです。ユニットという呼び方は本邦ではすっかり陳腐な言葉になりましたが、その資格はセシル・テイラーやポポル・ヴーのように中味の伴った活動形態があってこそでしょう。

(Original Pilz "In Den Garten Pharaos" LP Liner Cover & Gatefold Inner Sleeve Left/Right)

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 以上が『ホシアナ・マントラ』以降、安定期に入るまでのポポル・ヴーの大まかな履歴ですが、当初ポポル・ヴーはフローリアン・フリッケ個人の変名であり、音楽性はタンジェリン・ドリームや、タンジェリンのデビュー・アルバム(『Electronic Meditation』1970)のみ参加してソロ活動(『Irrlicht』1972)やアシュ・ラ・テンペルのデビュー・アルバム(1971)、リユニオン・アルバム(『Join Inn』1973)の2作にのみ参加したクラウス・シュルツェら、実験的なエレクトリック・ミュージックと同じ出発点にいました。それがデビュー・アルバム『猿の時代(旧邦題『原始帰母』)』とセカンド・アルバム『ファラオの庭で』であり、また『アギーレ/神の怒り』に収録された初期音源です。編成はフリッケのムーグ・シンセサイザーとホルガー・トルツィッシュのパーカッション、フランク・フィードラーのシンセサイザー・ミキシングとなっており、『ファラオの庭で』はアフリカン・パーカッションとタルキッシュ・パーカッションの使用が明記されています。当時のムーグ・シンセサイザーはモノフォニック(単音)楽器でしかなく、音程や音色も奏者によって設定しなければなりませんでした。ムーグ・シンセサイザーとパーカッションだけのアンサンブルならばマニピュレーターもメンバーには必要だったわけです。しかし『猿の時代』『ファラオの庭で』の2作きりでフリッケはシンセサイザー音楽に見切りをつけ『ホシアナ・マントラ』に進むので、初期メンバーのトルツィッシュとフィードラーは以降のヴー作品には招かれなくなります。
 ヴー作品では初めて『ホシアナ・マントラ』はパーカッションもドラムスも入らないアルバムでしたから、ドラマー兼ギタリストのフィッフェルシャーを迎えた『聖なる賛美(山上の教訓)』、フィッフェルシャーの貢献が対等になった『一人の狩人と七人の狩人』は『ホシアナ・マントラ』以上に大胆な変化と言えるかもしれません。ちなみにフリッケのシンセサイザークラウス・シュルツェが譲り受け、シュルツェのソロ作品やアシュ・ラ・テンペル作品で使用されることになります。サントラと新曲半々の『アギーレ/神の怒り』では未発表の初期音源を使いましたが、同映画が大成功を治めたのでフリッケは以降のヘルツォーク作品の映画音楽用にシンセサイザーを買い直したようです。その頃にはシンセサイザーもポリフォニック(複音)演奏が可能になり、音色・音程ともにプリセット済みなのが当然だったので、初期のムーグ・シンセサイザーのような実験的使用は見られなくなりました。『猿の時代』『ファラオの庭で』を聴くと、風がゴーゴー吹いているだけのA面、タイコがボコボコ鳴っているだけのB面としか聴こえないかもしれません。ですが手法や音楽性の相違を越えてこれは『ホシアナ・マントラ』『聖なる賛美(山上の教訓)』『一人の狩人と七人の狩人』『雅歌』『アギーレ/神の怒り』『最後の日、最後の夜』『Yoga』といった名作と同じ精神性から生まれた音楽です。30年聴いても飽きるどころか、いつでも新鮮に聴けるのは、この音楽は風や波の音、木の葉のざわめきの音、夜のしじまの音、こめかみの鼓動のように生まれたての感覚を呼び覚ますからでしょう。本文で触れた以降のポポル・ヴーのアルバムをリストにしておきます。
[ Popol Vuh Album Discography 1977-1999 ]
『ガラスの心』Herz aus Glas (1977)
『影の兄弟、光の子供達』Bruder des Schattens - Sohne des Lichts (1978)
ノスフェラトゥ』Nosferatu (1978)
『魂の夜(タントラの歌)』Die Nacht der Seele (1979)
『静謐の時』Sei still, wisse ICH BIN (1981)
Fitzcarraldo (1982)
アガペー・神の愛』Agape - Agape (1983)
『スピリット・オブ・ピース』Spirit of Peace (1985)
コブラ・ヴェルデ』Cobra Verde (1987)
『フォー・ユー・アンド・ミー』For You and Me (1991)
『シティ・ラーガ』City Raga (1995)
『羊飼いの交響曲』Shepherd's Symphony - Hirtensymphonie (1997)
オルフェオのミサ』Messa di Orfeo (1999)