[離婚・入獄]
・咳しても所詮われひとりにはなれず
・検閲を怖れ何もかもは書けず
・中庭を歩くラスコリニコフたち
・ドア開閉壁に直立待つのみか
・三畳間・布団は斜めにしか敷けず
・鳥籠の中で日光浴が運動か(凶悪犯たちと)
・一時間ごとに足音小窓で覗くなよ
・毛布すら頭(ズ)まで被れぬ独居房
・ビックリ箱シクシクと忍び泣く立棺
・牢名主囲碁強きかな雑居房
・ラジコンよムショの夏ぞら飛翔せよ
・白泉の足音止まる廊下かな
・五階まで虫やコーモリ飛翔せず
・逆光に鳥影走る錯視かな
・ここからは全部読んだと刑務官(図書カード)
・切り干しは美味いだろうと刑務官
・髪を刈る腕鮮やかなり徒刑犯(理容師資格者)
・蟷螂の首持ち赤きランドセル(娘の入学式の日に)
・DV犯バースディーカードまで差し止めか
・誕生日ケーキとピザを作りつつ(娘とぼくと)
・壁の花わが美しき妻は料理できず
・獄中の日記は常にオン・タイム
・この歳で無精髭白髪混じりとは
・陰嚢の裏は調べず若白髪
・「女なんかシャブ打ってヤレばいいんだよ」
[友人の自殺]
・シライさん既にパスカルの深淵に
・子供部屋二段ベッドで縊死せり
・旧姓で二段ベッドはそのままに
・棺の中別れに頬も触れられず
・あるだけの花に金魚の影もなし
・友人の通夜極上寿司の旨きこと
・自殺者への追想込めて妻を抱く
・この次はこのわたくしが後追うか
[釈放・精神疾患発症]
・わたくしは餓死か凍死か腐乱死か
・腐乱汁垂らせば真夏の死がよろし
・すれ違う女いずれも股旅か
・恐怖こそわが人生の核なれば
・流血の惨事はいつか来らずや日毎
・面会の弟の顔すら見分けずに
・ランボルギーニなんと背丈は低きかな
・ローンと車そして家だけの人生か
・幼弟の錐はわが腿貫けり
・鉛筆を受けし跡今も左手首に黒鉛が
・車が跳ねし弟捨て置きて逃亡す
・逃げ先は父の祈祷せし聖堂