人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2010年のエイプリルフール(1)

入院から一ヶ月になる。連れだってデイルームに向かうとルームメイトの桂君が「今日はエイプリルフールだな」と言った。ぼくは先に女性たちが朝食の席に就いているテーブルで自分の席に掛けて、
「みなさんとの食事もこれが最後です。突然退院が決まりました。まだ心の整理もついていませんが、短い間ありがとうございました」
梅澤さんと高橋さんが、
「えっ、何で」「何かあったんですか!?」兼高さんは唖然。桂君まで「そんなこと朝から一度も…」と浮き足だつので、
「今日がエイプリルフールだと教えてくれたのは君だよ。まだ退院まで2か月ある。入院からはまだ1か月。そんなに早く出れるはずないでしょう」
梅澤さんは怒り顔、兼高さんは仏頂面、高橋さんは食器の蓋を開けながら「…だまされた自分が悔しい」
「ブラックジョークったってキツすぎるぜ」と桂君。「エイプリルフールっていう前振りは君だぜ」「おいおい、おれが悪いっていうのかよ」
お膳の配られた食卓では向かいの女性たちが互いに異なる食札を見比べていたが、兼高さんが唐突に、
「佐伯さんいくつ?」
「高校生ですよ」
「そうじゃなくてカロリーよ」
E1400、E1700、PC70、PC80など詳しい分類表記がある。「ああ、歳のことじゃなくてカロリーですか。いきなり、いくつ?って訊かれたら歳のことだと思っちゃいますよ」
すると兼高さんはいきなり話題を転換して、
「そうなの。大体あんた達(ぼくと桂君)が同じ歳だってもう知ってるわよ」
「えっ、桂君とぼくが同じ歳?」
梅澤さんと兼高さんは警戒、高橋さんは混乱し、
「おい、佐伯君、何を言い出すんだ!」と慌てる桂君を無視して高橋さんに「いくつに見えます?」
「35、6歳かと…私より歳下だと思ってたから…年令不詳というか…」
「じゃあ職業は?」「作家」「何で判るの?」「他に思いつかないから」「じゃあ血液型は?」「AB型」「当り。どうして?」「AB型以外に見えないから」「一発で当ててどう面白いんだ?作家、正確にはフリーライターだけど、他にもあるだろ?ウナギとか、ドジョウとか…」
高橋さんは両手をもみ合わせて笑い「掴みづらい」
「佐伯さんて本当に掴めない人ですね」