人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2010年のエイプリルフール(2)

「高橋さんは昭和何年生まれですか?」
と桂君。
「46年です」「46年!おい塩ちゃん、君は42年生まれだよな」「そうですよ」(と隣のテーブルから)。
桂君(すでに塩ちゃんを無視)「じゃあまだ30代?」「38です」「29でも通じますよ。いや25、6でも通じる」「(笑)何も出ませんよ」「桂君のお世辞は十割増しだから」と、ぼく。「高橋さんも二人の女の子のママよ」と梅澤さん。「ぼくも女の子二人のパパですよ」「絶対見えない」「そりゃもう離婚して親権ないですから。離婚後は会ってもいない。時々電話だけ」
ぼくは困惑した表情で「大体兼高さんがぼくを桂君と同年だと言い出すから」
「何よ、私が悪いっていうの?」
「桂君昭和何年なの?」
「39年だろ?オリンピックと新幹線の年。君も…」
「本当に同じ歳なんですか?」と高橋さん。
「そんなわけないでしょう?同じ歳に見える?」
「見えません」
「でも高橋さん、こないだ大阪万博の話で盛り上がりましたよね?」
大阪万博は昭和45年だろ?」と桂君。
「えっ、私そんな話してません」
「いやー、世の中は不思議だらけだ」と、ぼく。
「佐伯さんと桂さんは同じ歳よ」と兼高さん。
「もう私、訳がわかりません」と高橋恭子さんはお膳を下げに立った。
食事を終えた塩道君が、
「今日の佐伯さんを信じちゃいけません」
「ぼくはいつも真実しか語らないよ」
「どんな真実ですか!」
「過酷で美しい真実」
「善良で純真な女性を騙して何が面白いんですか」
「そうだね…緑陰に三人の老婆笑えりき」
「何ですかそりゃ?」
「前衛俳句作家の西東三鬼の代表作。三人の老婆はシェイクスピアマクベスだね。呪いにはペテンを」
「なんでそんな必要があるんです?」
「うん…たとえばまだぼくはあと執行猶予満了まで半年間ある」
ひとり戻って耳を澄ませていた高橋さんが息を飲んだ。誰もが視線を避けた。
桂君は一瞬ためらって「…今のはリアル」と言った。リアル、という若者言葉は国家に生活権を制限されたぼくには使えない。この話題は自然に流れた。