人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

病棟スケッチ(6・女難4)

「スゴい!なんてストレートな!」爆笑しながら山本介護士は言った。荒川ナースも笑いにひきつりながら、
「佐伯さん、じゃなくて佐伯さんのご両親ていうのがキモ座ってるわよね。それでどうしたの?」
「親の考えは分からない、とその質問には答えて、後は彼女の言うことは全部はあ、そうですか、と受け流しました。初対面の時からぼくに目をつけていたそうです」
「やるなあ(笑)」
「色男(笑)。その後は?」「彼女に見つからないように面会室で師長に相談しましたよ。病棟を移してくださいとお願いしました」
「移ったの?」
「駄目でした」
荒川ナースと山本介護士は再び爆笑した。「オチまでついてる(笑)」

深夜のナースステーション。ぼくは不眠時の追加睡眠導入剤を飲みに行き、たまたま山本さんもジュリアさん(ハーフなのだ)も巡回の合間でのんびり書類整理だったので相談したのだ。あのー、今日別の病棟から移ってきた女性患者、堀口優子さんですよね?
「そうよー」とジュリアさん。堀口は全病棟に知れ渡るトラブルメーカーだと口調だけで判る。「ああ、やっぱり本人なのか」「何かあったの?」「一昨年入院した時求婚されました」「は?」山本さんもジュリアさんも絶句した。そこでこの章の冒頭に戻るわけだ。

「一昨年は退院までの1か月とぼけて逃げ切りましたよ。大体その入院も通ってたデイケアの女性がぼくに口説かれてると妄想して問題になったからです。ぼくはモテたい時はさっぱりなのにモテたくない時は無駄にモテる。まるで自然現象みたいに。ウンコにハエがたかるのと同じだ」
「ナニよそれ(怒)!」
「しかも女性がハエ(笑)」「フリーライターやってましたから」とぼく、「レトリックには凝るんです」
「ブブー!」とジュリアさん、「そんなのTVブロスのコラムでもボツよ」
「話とかしたの?」
「数回すれ違ったけど何も。忘れているのか気づかないだけか…まだ入院しているとは思ったけど病棟合同の作業療法でも見かけないから安心してたのに」
「彼女作業療法出てるわよ」
「ぼくは毎日出てますよ」
「たまたま全部別のコマだったんじゃない?これまでがラッキーだったのよ」
「……」
「まあ今回も上手く逃げ切ればいいじゃない?退院日まであと2週間でしょ?明日しっかり申し送りしてあげるから」
ジュリアさんは約束を守った。