人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

金子光晴『若葉のうた』『元旦』

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 金子光晴(1895-1975・東京生れ)の膨大な全詩業はおよそ2000ページ、これだけでも全集の5巻を占めるばかりか全集はさらに10巻の散文作品を収めている。これは同世代の巨匠・西脇順三郎(1894-1982)を上回るが、西脇にしても金子にしても文筆で生活していたのではない。西脇は大学教授、金子はヒモで身を立てていた。
 このブログではいろいろな詩人を紹介しているが、西脇・金子のふたりだけは肩から力がぬけて、本当に無理のない日本の現代詩はこのふたりが達成したことを感じる。またともに還暦以後に真の大詩人となり、80歳まで旺盛な詩作を続けた。
 今回ご紹介の作品は、初孫の誕生(1964年)を詠った詩集(1967年)より。批評は悪かったが世評は高く、長く愛されるロング・セラーになった。

『森の若葉~序詩』 金子 光晴

なつめにしまっておきたいほど
いたいけな孫むすめがうまれた

新緑のころにうまれてきたので
わかば」という 名をつけた

へたにさわったらこわれそうだ
神も 悪魔も手がつけようない

小さなあくびと 小さなくさめ
それに小さなしゃっくりもする

君が 年ごろといわれる頃には
も少しいい日本だったらいいが

なにしろいまの日本といっはら
あんぽんたんとくるまばかりだ

しょうひちりきで泣きわめいて
それから 小さなおならもする

森の若葉よ 小さなまごむすめ
生れたからにはのびずばなるまい
 (詩集「若葉のうた」より)

 元旦の詩もある。縁起がいいから引こう。

『元旦』 金子 光晴

正月になったというのに
若葉はまだ、零歳と六ヶ月だ。

七十歳になった祖父はこの子の娘盛りまで
なまけてすごしたむかしの月日を
割戻してはくれぬかと虫のいいことを思う。

若葉は、零歳六ヶ月というのに
丸丸として、三貫二百目ある。

このぶんで大きくなっては
若見山ようになりはせぬかと
パパと祖母とが取越し苦労をする。

ねむることが一しょうばいの娘のそばで
ほどいた毛糸を一心に編みなおすママ。

小さな餅に金柑がのっているだけの正月だが
とほうもなくこころのあったかい正月だ。
 (同詩集より)

 若葉さんは今年、年女になるはず。これも金子光晴ならではの愛の詩集だろう。