人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

高橋新吉詩集「戯言集」(5)

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今回の前書き。
「こんにちは。この詩は作者の実体験に基づくものですが、狂気と監禁、権力という主題は高橋新吉と同時代の世界各地の文学に繰り返し現れます。両世界大戦の間です。狂人と罪人がともに監禁によってしか保護・治療・懲罰できないとすれば、それは直接に法権力によって管理されるもの、という認識に行き着きます。では法秩序のなかでは狂気と犯罪は社会不適合性という点で同じものなのか?世界は精神病院か?今日このテーマを直に扱うのは陳腐になりましたが、先駆けとなった詩人・作家たちの作品を顧みることには意義があることと思います」

『戯言集』

21

生が唯一のものである

生とは 死から発生した黴に過ぎないのである

22

君のように あまりに生きる事に熱くなるな

風が吹いているように生きられないか

23

私は掘出された刹那の

芋の如き存在でありたい

24

悲しみを忘れる為の労働

どんな仕事でも好い

25

私は青い星を見た

その星は青かった

其の光を

私は竹薮の竹の根の 青い石にも見た

26

私はあなたと話しがしたいのです

話をする事

此の世の中に 此れ以上の快楽はないと私は思っている

27

私は淋しくて 生きてよう居らん

此の寂蓼に 私は堪える事が出来ない

28

精も根も尽き果て 私はもう死を待つばかりである
如何に死がつまらないものであり 退屈なものであるかを 私は知り抜いている
だのに 生きている事は 死以上に退屈であり つまらない事であるようにも思う

29

此れほどの悲哀が私を襲い 私を打ちのめし 日毎夜毎に私をくさらかしている
此れほどの悲哀が 夢にもあろうとは思い及ばなかった事だのに

30

雨が今日は降っている
私は死んで行った多くの人達の事を思っている
雨の水滴の一つ一つに それ等の人の顔が輝いては土に吸い込まれていると想像する

31

此れから後の私の生活 それもやはり今までのような苦の連続であろうか
他人を食い物にして生きようとする心 此れが私にもあなたにもある そして私は今あなたの食いものになっている
(以下次回へ)