人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ストックトン「女か虎か」(再録)

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これから再録するのは8か月前の記事。アメリカ本国では中学生ならみんな一度は読む話、ポオの「黒猫」やO.ヘンリーの「最後の一葉」並みに誰もが知る短篇小説とのこと。ならばさぞかし著名作家かと思うのだが、作者はこの一篇のみで名をとどめる凡庸な娯楽小説家だったようで、今回再読して文体の古さ、表現の陳腐さ、構成のまずさには苦笑した。典型的な二流作家だったのだろう。
この一篇が発表当時大評判になり今なお読み継がれているのは「リドル(謎)・ストーリー」というアイディアによる。結末はない。読者の想像に任せる。それがリドル・ストーリーだ。
フランク・R・ストックトン(1823-1902)はフィラデルフィア生まれ、児童ものの作家としてデビューし後にファンタジー小説で大人ものに転じた。「女か虎か」は1882年発表。翻訳は「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」1958年10月号に掲載後「世界ミステリ全集・37の短篇」に収録、さらに「ミステリ・マガジン」1989年8月の「創刊400号記念特大号・1956…1988・短篇ミステリ・ベスト40」に再録された(写真はその扉絵)。雑誌で5ページほどの短篇である。

昔むかし未開人の王国があった。この国の名物は王様が考案した公開裁判で、その仕組みは一風変わっていた。被告は国の贅を尽くした専用スタジアムの中央に立たされ、左右どちらかの扉を選ばなければならない。一方の扉には国中から選び抜いた飛びきりの美女が待っており、そのままスタジアムで結婚式が行われる。だがもう一方の扉には国中から選び抜いた飛びきり獰猛な虎が腹を空かせており、スタジアムは惨劇の場所となる。この公開裁判は国民の熱狂的支持を得ていた。
王様には年頃の娘があった。よくある話だが、宮廷臣下の青年と隠れた恋仲になった。青年は宮廷女官中の人気の的だった。案の定この恋はすぐに露見し、青年は公開裁判にかけられることになった。
青年は王女が扉の秘密を知る立場にあることを了解していた。事実王女は知った。一方に虎、一方に女官のなかでも王女に匹敵する美女が選ばれたことを。
観衆の熱狂のなかで、青年は貴賓席の王女を見た。王様は右の扉を示した。
青年は一瞬の躊躇もせず右の扉に歩むと、そのまま扉を開けた。

さて、出てきたのは女か虎か?と問いかけてこの短篇は終わる。皆さんはいかがでしょう?