人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

堀口大學訳アポリネール詩集

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『病める秋』
ギョオム・アポリネール
堀口大學

病んで金色をした秋よ
お前は死ぬだらう 柳川原に嵐が荒ぶ頃
果樹園の中に
雪がふりつもる頃

哀れな秋よ
死ね 雪の白さと
熟した果実の豊かさの中で
空の奥には
鶻(はやぶさ)が舞つてゐる
恋をしたことのない
短い緑の髪を持つた松の木の上で

遠くの森のふちで
鹿が鳴いた

私は好きだ 季節よ お前のもの音が
誰も頼まないのに落ちてくる果物と
啜泣く風と林と
落ちてくる涙 秋の落葉よ
踏みにじられる落葉よ
走り行く
汽車よ
流れ去る
生命よ
(訳詩集「月下の一群」1925より)

 日本の三大訳詩集というと上田敏海潮音」1905・永井荷風「珊瑚集」1913・そして堀口大學「月下の一群」が定評あるが、前2詩集から「月下~」に移ると急に季節が開けたような気がする。現在書かれてもおかしくない内容と用語、文体が1925年に定着された。
 この訳詩集の影響は同時代から後の詩人には圧倒的に大きく、川端康成横光利一堀辰雄らの小説家にもおよぶ。堀口が20世紀の日本語を作ったのだ、ともいえる。
 ギョーム・アポリネール(1880-1918)はまさに堀口が見出し一体化した、20世紀の新しい詩の感性を一身に体現した詩人だった。世代的にはアポリネール萩原朔太郎と重なる。
 もう一篇ご紹介する。これも原詩は詩集「アルコール」1913より。やはりこれは外せない。

ミラボー橋』

ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ
われ等の恋が流れる
わたしは思ひ出す
悩みのあとには楽みが来ると

 -日も暮れよ 鐘も鳴れ
 月日は流れ わたしは残る

手と手をつなぎ顔と顔を向け合はう
かうしてゐると
われ等の腕の橋の下を
疲れた無窮の時が流れる

 -日も暮れよ 鐘も鳴れ
 月日は流れ わたしは残る

流れる水のやうに恋も死んでゆく
恋もまた死んでゆく
生命ばかりが長く
希望ばかりが大きい

 -日も暮れよ 鐘も鳴れ
 月日は流れ わたしは残る

日が去り月が行き
過ぎた時も
昔の恋もふたたびは帰らない
ミラボー橋の下をセーヌ河が流れる

 -日も暮れよ 鐘も鳴れ
 月日は流れ わたしは残る
 (同上)