人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

大島渚監督「少年」1969

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ポピュラリティでは大島渚一世一代の名作かもしれない。それまでの大島作品は「日本春歌考」「無理心中・日本の夏」「絞死刑」「新宿泥棒日記」など一作一作趣向を凝らした作品ばかりだった(次の「少年」も含めて60年代後半5年間だけで10作)。
しかし執筆3年の入魂の脚本を丁寧に演出した「少年」は、初めて難解さや実験・政治性を謳わず、どんな層をも感動させる作品だった。

○少年 創造社、A.T.G提携作品。脚色田村孟。監督大島渚。撮影吉岡康弘、仙元誠三。音楽林光。主演渡辺文雄小山明子、阿部哲夫、木下剛志。故意に自動車に触れて示談金を脅し取る家族ぐるみの一家が、全国的に犯行を重ね、やがて逮捕される。豊かなロケーションと素直な描写が印象的。ベストテン第三位。(昭和44・7・26)
(田中純一郎「日本映画発達史」)

ちなみにこの年の第一位は篠田正浩心中天網島」、第二位は浦山桐郎「私が・棄てた・女」だった。
A.T.G(アート・シアター・ギルド)にも解説がいるだろう。もともとマイナーな芸術映画の輸入会社だが、フリーの監督側とA.T.G側の500万円の折半で映画製作できないか、という企画が上がり、A.T.Gの1,000万円映画というブランドができた。
これが当時でもとんでもない低予算なのは、20年前でも3億が低予算映画の下限だったと言えば判る。

1966年、実話の映画化。足がつくのを恐れて、車の当たり屋で稼ぎつつ、高知から北海道まで流れていくホームレスの一家の話。少年は10歳、弟は3歳。父は傷痍軍人を理由に何もしないから、少年と継母の働きだけ。北海道まで来て、偶然路上で夫婦喧嘩するかれらを避け損ねて車が大破し、運転席の父も助手席の少女も即死する。
宿に戻ると父母はまったく関心を示さない。雪のなかを外に出ると幼い弟が「にいちゃん、にいちゃん」と追ってくる。雪だるまを作って女の子の赤い長靴をはめこみ、弟の大好きな「みんなを守る正義の宇宙人」の話をする。「でもぼくはなれなかったんだ!」と雪だるまを壊す少年。ぽかん、と見守る弟。
母の妊娠もあり春には一家は大阪に定住するが、身元をつかまれ逮捕される。少年は一切を否認するが、電車で押送中刑事と窓外の景色を見て「北海道には行ったよ」とつぶやく。
重いのだが吸い寄せられるように見てしまう。95分があっという間だ。