人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

サード・イアー・バンド

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簡単に言えばピンク・フロイドタンジェリン・ドリームがエレクトロニクスをフル活用してなしとげた音楽を、伝統的なアコースティック楽器のアンサンブルだけでやってみせたバンド。そして音楽要素がシンプルなだけにフロイドやタンジェリンをしのぐ酩酊感すら呼び覚ますサウンドを作り上げたバンド。それがイギリスの秘宝サード・イアー・バンド(Third Ear Band,1969-)になる。メンバー・チェンジは相次いだがリーダーのグレン・スウィーニー(ds,per,tabula)、ポール・ミンス(Oboe,recorder)は不変で、ミンス没後はスウィーニーが若手や旧友を集めてバンドの看板を掲げている。元々編成やメンバー・チェンジがあってもほとんど音楽性に変化のないバンドではあった。

基本的には先のふたりにviolin/viola,celloを加えた編成で、第一作「錬金術」'Alchemy'1969(画像1)・第二作「天地火水」'Elements'1970(画像2)はそれに当たる。ただし当時のライヴ映像を見るとさらにper,b,gを増員し、アルバム未収録曲をギタリストが歌い、それらの曲ではアモン・デュール2との類似が見られ、バンドの出自がサイケデリック・ロックだったのを伺わせる。ただしサード・イアーには混沌とした音像のなかにも風通しの良い清涼感があり、それは90年代にようやくリリースされたサントラ音源「アベラールとエロイーズ」rec.1970(画像5)や前身バンドの音源「ハイドロジェン・ジュークボックス」rec.1968(画像4)でも伺える。インスト中心のミニマリズム(反復)手法による擬似民俗音楽的(非西洋的)・呪術的音楽なのだが、おどろおどろしさや強迫的な観念性とは一線を画している。フロイドやタンジェリンに似てそれを越えるという感想はそこに由来する。

そんなバンドが当時大人気だったというのも不思議だが、80年代末の復活までは72年の「マクベス」'Music From Macbeth'(画像3)が最終作だった。ロマン・ポランスキー映画のサントラながら使用されなかったが、新加入のポール・バックマスターの斬新なアレンジで同年のマイルス・デイヴィス「オン・ザ・コーナー」に影響を与えることになる。実はとんでもない重要バンドなのだった。