Stan Kenton(1912-1979,piano,Big Band Leader)。
前回の3作の中間にうっかり落した重要作がある。53年の'Sketches On Standards'(画像1)がそれで、編曲は主にビル・ラッソ。コンテ・カンドリ(トランペット)、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、リー・コニッツ(アルトサックス)、サル・サルヴァドール(ギター)とソロイストも選曲もいい。前回の3枚と並ぶ傑作といえる。
これらのアルバムで白人モダン・ビッグ・バンドの頂点に立ったケントンは、ケントン自身のピアノとジューン・クリスティのヴォーカルだけでスタンダード集'Duet'55(画像2)を制作する。ジューンはアニタ・オディに続く楽団専属歌手で(後任はクリス・コナー→アン・リチャーズ)在籍末期に'Something Cool'53-55を制作、このアルバムの大成功で楽団から独立することになった(60年にステレオ盤が再録音されるほどのヒット作になった。オリジナルはモノラル録音)。「デュエット」は彼女の門出を祝って制作されたアルバムだろう。あえてバンドではなくピアノのみで勝負した。冒頭のコール・ポーター曲'Everytime We Say Goodbye'はハードボイルド小説の古典「長いお別れ」'The Long Goodbye'にも引用されたスタンダードだが、緊張感溢れたピアノ、丁寧に情感を込めたヴォーカルでこの曲の女性歌手ヴァージョンの決定版といえる。バンド演奏の「サムシング・クール」もいいが、このアルバムは渋い名盤だろう。
チャーリー・マリアーノ(アルトサックス)、ビル・ホフマン(編曲)を迎えた新バンドによる傑作「コンテンポラリー・コンセプト」(前回紹介)の次作'Cuban Fire!'56(画像3)は今までも単発にやっていたラテン・ジャズ路線をアルバム一枚に渡って制作した作品で、作・編曲は全曲ジョニー・リチャーズ。これは黒人ビッグ・バンドではディジー・ガレスピーが惨敗してきたジャンルだが、ケントン楽団はセールスも成功した。ガレスピーのラテン・ジャズは黒人層にも白人層にも支持されなかったが、ケントンは白人層に支持された、ということか。ベースは黒人のカーティス・カウンス、ドラムスはメル・ルイスと強力無比。