(連作「ファミリー・アフェア」その30)
「Kくんのお世辞は10割増しですから」と、ぼく。「大体OさんがぼくとKくんを同い年だと言い出すから」「何よ、私が悪いって言うの?」「本当に同じ年なんですか?」とNさん。
「Nさんこそ怪しい。大阪万博に行ってるし」
「大阪万博は昭和45年だろ?」とKくん(大阪出身)。「いやー、不思議な話もあるもんだ」と、ぼく。「佐伯さんとKさんは同じ年よ」とUさん。「もう私、訳がわかりません」とNさん(専業主婦)。
「では真面目な話を。これがみなさんとの最後の食事なんです」
「え?どうしたんだ?」
「昨晩詰所に呼ばれたんだ。学習入院は一旦中断、退院して自宅療養する」
「…」
「ひと月ほどの間でしたが、みなさんにはお世話になりました。正式には食後の朝会であいさつするよ」
「…淋しいわあ」「淋しいですね」「…」「自分でも急なことで心の整理がついていないんですが…」
「…でもなんで?」「何があったんですか?」とNさんもUさんも真顔になり、OさんとKくんに至っては呆然としていたので、
「エイプリル・フールですよ。入院ひと月では出られません。Kくんとは同い年には見えないけれど同い年ってもうさんざん話題にしたじゃないですか」
Uさんは怒り顏、Oさんは「何よそれ!」と大騒ぎ、Nさんは食器の蓋をカタカタしながら「騙された自分が悔しい」とこぼしていた。「ブラック・ジョークでもキツすぎるぜ」とKくん。「エイプリル・フールの前振りしたのはきみだよ」と、ぼく。「おいおい、おれのせいかよ」
食事が異様に速い後ろのテーブルのSくんが空いた席に来て(このテーブルは男三人・女三人と書いたが男側の左端は通路の狭い位置だったので空きの時が多かった)、
「今日の佐伯さんは一切信じちゃいけませんよ」
「きみまでおれを嘘つき呼ばわりするのか。誓っておれは本当のことしか言わないよ」
「誓ってって、何に誓っているんですか?」
「別れた妻子に、って言ったらどうだい?」
「それもどうせ嘘だろ?」とKくん。ぼくは「いや本当の話、Kくんもおれも辰年だ」「そうだ」「そしておれの執行猶予はまだ九月まである」「えっ?」とNさん。「それはリアル」とKくん。
「では話はおしまい。Sくん、後は頼む」「頼まれませんよ」
彼女とはそれがきっかけだった。