ぼくの別れた妻はCDは最新作とベスト盤で済ませるが独身時代は毎月のように来日ロック・ミュージシャンのコンサートに行っていて(国内アーティストだと毎週)、ミック・ジャガーを筆頭にエルヴィス・コステロ、スティング、ポール・ウェラーが印象強かったそうだが(生意気にもストーンズは好きなのにビートルズは馬鹿にしていた。結婚後はボブ・ディランをまだ観ていないのを心残りにしていた)、ルー・リードほどお客さんがガラガラだった来日コンサートはなく、1000人規模のホールに二割も入っていなかった。それでルーさんは警備員をどけさせ「みんな前に詰めろ」と客席を密集させてからライヴを始めたという。いい話だ。
ぼくはイギー・ポップの悲惨な初来日コンサートを、スージー&ザ・バンシーズの初来日(こちらは素晴らしかった)と前後して観ているが、マイクが断線してヴォーカルは聞こえない、緞帳を登ってアンプの上に上がったが降りられなくなり警備員に脚立を持ってきてもらう、と自分の中のイギー・ポップ像が崩壊したライヴだった。選曲も、ストゥージス初期2枚とボウイのプロデュース作品「愚者」「欲情」の計4枚からしか演奏しなかった。妻が観てきたルー・リードは、『パーフェクト・デイ』から『ワイルド・サイドを歩け』、彼女のいちばん好きな『サテライト・オブ・ラヴ』も演ってくれてすごく良かったそうだ。
「へー、『愛の人工衛星』なんか今でも演るんだ」
「やめてよ、その邦題」
ヴェルヴェットのファーストとアルバム「チェルシー・ガール」、発掘ライヴの「バタクラン'72」で共演しているニコの初来日公演は今は亡き渋谷の中規模ライヴハウス「渋谷ライヴ・イン」で観た。新作「カメラ・オブスキュラ」発表直後で、新作+82年のカセット限定ライヴ「ドゥー・オア・ダイ」で想像していた通りの素晴らしいライヴが聴けた。聴けたが、姿はアカペラで『オール・トゥモローズ・パーティー』を歌う時しか見えなかった。ニコさんはハーモニウム(足踏みオルガン)を弾きながら座って歌う人なので、客席がスタンディング状態だと最前列の人にしか見えない。でもマイクなしで立ち上がって歌うニコさんは一応見えた。この人が高校生の頃からずっと聴いてきたニコさんなんだ(この人のアルバムは20年間で6枚しかない)と思うとその一曲でも十分だった。
(後編に続く)