人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(もしきみを夏の一日に喩えても…)

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皆さま、あけましておめでとうございます。

ソネット18(もしきみを夏の一日に喩えても…)

もしきみを夏の一日に喩えたとしても
きみはさらに美しくまた優しい
粗野な風は五月のつぼみを散らし
そのうえ夏はあまりにも短い。
照りつける陽の熱気はつらく
時には黄金の天も雲が遮断する
どんな美も美ではなくなる時がきて
偶然と自然の推移に美はそこなわれる。
だがきみの夏には終わりがなく
きみの美も決して褪せることはない
この詩のなかにきみが息づいているかぎり
死の影もきみの永遠をさまたげられない。
―ひとびとが呼吸しまた目が見えるかぎり
きみはこの詩とともに生きつづけるからだ。
(シェイクスピアソネット集」1609年刊行)

作者シェイクスピア(1564-1616)はもちろんあの劇作家と同一人物で、その他単独の詩も30編以上になるが詩人としてはこの「ソネット(14行詩)集」全154編が代表作になる。推定執筆時期は1593年から翌年にかけてで、全編が二つに分けられる。前編は1~126番でW.H.と献辞にある貴族の美青年に呼びかけたもので、だから今回の詩は実は男色詩編なのだがそれは置いといて、127番以降は繰り返し色の黒さを褒めたり難癖をつける、いわゆる「ダーク・レディ」詩編でこちらは既婚女性が相手だから実は不倫詩編だがこの際それも置いといて、中世のダンテやペトラルカの系譜を継ぎ恋愛詩から芸術至上主義に純化させてボードレールマラルメらの近代詩人への架け橋となったのが、この「ソネット集」だった。

ダンテやペトラルカら中世のイタリア詩人の考え方はこうだった。現世で結ばれない相手の女性なら、不朽の詩作のヒロインとして不滅の愛としよう。これはいかにもローマ帝国の末裔らしい発想だが、本当に実行してしまったら不朽の名作になったのがすごい。シェイクスピアソネット集」もそれに倣ったが、芸術の威力への自意識の方が強くなった。ここから芸術至上主義へはほんの一歩と言えるだろう。実際、原文は近世の古語で書かれていても内容はまったく古びてもおらず、モデルを詮索する気も起らない。詩人の腕前にほれぼれするだけだ。
いや、訳詩が下手でほれぼれしない方が大半か(笑)。正月そうそう、ごめんなさい。