人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記122

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・4月1日(木)晴れ
(前回から続く)
「傷ついたよ、おれ、とKくんは言い、それもエイプリル・フールだろ?と冷やかす。早く食事を終えた隣のテーブルのSmくんが下膳から戻って通りかかり、一部始終聞いてましたよ、今日一日は佐伯さんの言うことを信じちゃいけません。きみまでおれを嘘つき呼ばわりするのか、それでは誓います、ぼくは本当のことしか言いません、信じてください。それもどうせ嘘だろ?とKくん。なにを、きみは大学出てるんだろ。まあ一応。今日は謙虚だな、いつもは喜びも悲しみも幾歳月みたいなことを言ってるのに。なんだよそれ。灯台守の妻(注)さ、クレタ島人のパラドックスって習ったろ?おれは文系はわからん。クレタ島の住民が言いました、クレタ島の住民はみんな嘘つきだ。はあ?」

「だから認めよう、Kくんとおれは同い年だ。辰年。そう、それで執行猶予が今年9月まで残っている。ええっ?とTkさん。それはリアル、とKくん。それで話はお終い、あとは頼んだよSmくん。頼まれませんよ。無駄口叩いていたのに早く食べ終えたのは、同じテーブルの女性たちもKくんも与太話がどこへ転がるかに気をとられていたからだ。しかしTkさんに実年齢より10歳若く見られていたとは思わなかった。入院という環境での相対的な印象のせいだろうと思う。入院患者はみんな疲れて歳より老けて見える。とすれば、容貌は40代半ばに見えるなら実際は30代半ばだろうという考えもできる」

「Smくんは今日の日直なので、本人は一般科(鬱病)だから服用しないが、抗酒剤服用の号令をする。今日から新年度、またエイプリル・フールでもありますが、皆さん下手な嘘をつかないようにしましょう、乾杯!(普通みんな「いただきます」と合図する。乾杯は飲酒を連想させるからだ)。みんな(アルコール科患者)は苦笑しつつ抗酒剤を飲んでいる。抗酒剤を手にしているかで一般精神科かアルコール科かわかる。不眠で休みたくなってさあ、と一般精神科入院のようなことを言っていたKwも、車椅子のKuも抗酒剤を服用していた。Kuは焚火を囲んで酒盛り中に焚火に飛び込んだと話していたが、Kwはアル中入院歴17,8回と豪語していたから、たとえ今回は一般科入院でも抗酒剤を義務づけられているのかもしれない」(続く)

(注)彼の入院初期の口癖。大阪大学博士課程卒。知らんのか?西の東大だよ。