人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記130

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・4月3日(土)晴れ
「入院したのが3月2日だからいつの間にか一か月を経過していたわけだ。だいたい満二か月で学習プログラムは一巡するらしいから、医学や薬学面の授業ももう少しで半分(入院後しばらくは入院生活馴れするまでの休養なので)になるだろう。たぶん入院生活の密度ということなら、一応三か月ということになっているうち、最初の頃が濃くて、時間とともに次第に希薄になっていくように感じる。体験一般がそうであるように、馴れてしまえば時間の経過も希薄な分だけ加速して感じられるだろう、という予感もする。これまでの入院も、拘置所に入獄した時も、離婚のために別居待機していた期間もそうだった。押し詰まってくると時間の流れは滝のように進んでいた」

「家庭を持っていた頃に、小学生の女の子が公営プールで網の外れた排水穴に吸い込まれパイプの中で水圧に潰されて死亡した痛ましい事故があった。当時は女児二人の父親だったから女児を亡くした父親の心境で悲しんだが、今になってみれば違う。吸い込まれた女の子と同じような運命をたどったのは自分自身だったのだ。ただしどの時も死ななかった。また次の危機が訪れるまでつかの間の安逸があり、気がつけば再び別の穴に吸い込まれる、の繰り返しだった。この日記も何度目かの穴ぼこ体験記にすぎない」

「朝の会が終ると週末帰宅外泊の人たちは次々と出ていく。基本的に家族がいる人たちだから学習プログラムが休みの土日は帰宅するので、一応一人暮らしの患者も所用を済ますための帰宅外泊は許されるし、また用事がなくても退院までに最低一回は週末帰宅外泊して病棟に戻ってくる、という帰宅外泊訓練のノルマがある。もちろんアルコール科入院患者は帰宅したからといって飲酒は一切禁じられている」

「女性4人、男性8人しか残らない。昼食のテーブルでKくんが、TkさんもKdさんも外泊で寂しいですね、とこのテーブルで女性のうち一人だけ残っているUzさんに話している。三輪の花が一輪になった感じですね、と引き継ぐ。もう!とUzさん。この男はすぐにこういうことを言うんだから…おれみたいにストレートに言えばいいのに。おれだってストレートだよ、言ってる内容に違いはないだろ?わかった、佐伯くんにはかなわん、とKくん。それより実は、後で二人に相談があるんだ」(続く)