人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記155

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・4月6日(火)晴れ
(前回から続く)
「そろそろ行かなくちゃ。そうね。ところでフルネームはなんていうの?愛、愛するの愛、愛ちゃんでいいわ。そうか、シンナー吸ってた愛ちゃんか、と二人で笑い、佐伯さんは?名乗ると彼女は反復して、漢字は?教えると彼女は手のひらに指先でなぞり、覚えた、それじゃ今度ね。うん、またね。…同居しているご家族に未だに責められているのはさぞかしつらいだろうな、と思いながら、しかし入院生活でなにをしているんだろうか、おたがい理解しあえそうと思えて好感を持たなければ二人きりで立ち話になどならないが、早い話中年男女のナンパそのものじゃないか」

「昼食後にKくんから聞かされた話では女性患者の病室移動が妙なことになっているという。UzさんからKdさんが聞き、Kdさんはわざわざ第三病棟のナースステーションで確かめてきたそうだが、UzさんがMtさんのいる三床部屋に移室され、もう一床にはFyさんという主婦風の女性患者が第三病棟から移ってきた。三床部屋がMtさん一人になっていたのはHAが昨日から同室を嫌がって大騒ぎしたからだが、一床部屋に移った彼女はあと一か月OTやデイケアに通って調子が良くなったら退院、と主治医に言われたとふれまわっているという。Uzさんの移室がどうも変なのには理由がある」

「Tkさんが小耳に挟んだ廊下で看護婦とヘルパーが話していた近々の移室予定によると、明日さらにもう一人女性患者が第三病棟から移ってくるという。これがすでに移ってきているFyさんのことでないなら、Uzさんを移室しなくてもMtさんにFyさんと次に来る一人で三床部屋にすれば済むはずだ。HAのあの状態でOT参加やデイケアだの、それで一か月で退院予定だというのもうさんくさい。邪推するようだが昨日のあの大騒ぎを治めるためにそういうことにしておいたとしか思えないのだ」

「10歳の頃から入退院を繰り返している、という彼女がむしろ入院していないでまともにやっていられるかを想像するほうが難しい。どのくらいの間隔をおいて入退院していたのか、一応義務教育は修了しているとは思うが…。とにかくあの女コップの中をひっかきまわさないでくれよ、おれの入院している間はよ、Uzさんだって移室されてあの女の被害者だぜ、とKくん。うーん、入院なんてこんなもんだよ、ここは精神病院なんだからさ」(続く)