人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記156

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(今回から人名はローマ字略記ではなく仮名にすることにしました)
・4月6日(火)晴れ
(前回から続く)
「昼食後にラジオ体操と掃除を済ませ、一服するのもせいぜいですぐに玄関前に集合、リサイクルセンターまでのウォーキングの点呼がとられる。アルコール科のプログラムは一般科精神科患者は特別な例、例えば体験談ミーティングなどを除けば自由参加でお照さんなどは必ず出るが、金田さんの再三の誘いでも勝浦くんはついに応じない。親しい男同士なら理由を話せても女性には話せないのだ。おれなら行きたくない理由を率直に言うけどなあ、と思うが彼が気軽に話せないのもわかる。離婚した奥さんへの恨みや憎しみが今でも消えていないので、そうした面を女の人には見せたくないのだ」

「コンビニから町田方面に向かう街道がこんなに両側に桜並木だらけだとは知らなかった。入院や予備受診の時はバスやタクシーの窓から外を眺める心の余裕はなかったし、見ても裸木ばかりだっただろう。足のむくみがまだ完全にひいていない松本さんも、15日に断酒会参加のノルマをこなせれば28日に退院が決定していることもあり、外の空気に慣れなきゃな、と参加する。途中から裏道に入ると新興住宅地と手入れのよく行き届いた公園があり、一休み。今日は小学校の始業式だからか子供も多い」

「お子さんといえば、午前中に同じテーブルの滝口さん、梅崎さんは面会があったそうで昼食中の話題にしていた。滝口さんはご主人と二人の小学生のお嬢さんが見えていたそうで、お嬢さんからもらった紙製の首飾りを腕輪にして愛しそうに撫でていた。だんだんお腹の目立ってきた梅崎さんのお嬢さんも面会に来てくれたが、娘の一言がショックだった、お母さん変な顔になってるって。だいぶ痩せちゃったんだから仕方ないわよ、と金田さん。孫が生まれても世話させてくれないかも。そんなこと今から考える必要ないわよ、ねえ?とこちらに同意を求めるので、勝浦くんともどもそうですよ、大丈夫ですよと適当に応える」

「新興住宅地はどの庭も小綺麗で、大型のすべり台やブランコを置いてある家もあり、一言で言って醜かった。書き割りのように空々しかった。もちろんこれは家庭を失い、社会的には生存価値もゼロに均しいところまで生活力の低下した人間のひがみだが、どんな幸福も見せかけだけに見えるのはつらい」(続く)