人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(20)

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 スノークくんはご存知ないかもしれんが、とジャコウネズミ博士は言いました、ヘムレンさんと私は併せて69もの学位を取得しておるのだ。これはわれわれ二人でムーミン谷に国際大学を開校するに十分な資格があることを意味する。
 なるほど、私はその唯一の生徒というわけですなはっはっは、とスノークは謙譲して答えましたが、どうやら今は社交辞令など問題ではない議題にさし掛っているのにすぐ気づきました。それで博士、おっしゃりたいことは…。
 まあこれから話すことは、すべて一種の比喩と考えてくれたまえ、とヘムレンさん。わしらは二人ともR.D.の学位を持っておる。つまり修辞学博士だな。修辞とは時として論理的な思弁よりも真実に近づくことがあるということさ。
 たとえば真実には二種類ある、とジャコウネズミ博士がすかさず言いました、雨の日は雨降り、これは帰納的真実で、雨が降ると雨の日、これは演繹的真実。だがスノークくんが一日中部屋に閉じこもっていた場合はどうかね?
 博士、私もインターネットくらいはしますよ。そしたら気象情報くらいは見てみます。
 ではそのインターネットに流されている気象情報が偽情報だったらどうかね?
 当然違反申告します。とんでもない!
 それでは違反申告した先が必ずしも適切な対応をしてはくれず、そればかりか矛盾しあう情報のいずれも自己責任として放置しているような状態だったらどう判断するね?
 ええと、何を?
 天候!今日が雨降りかどうか。言っておくがきみは部屋の中にいるんだぞ。窓の外を見るのも駄目だ。
 テレビを観ます。
 テレビは広域気象情報しかやっとらんよ。
 じゃ、地方局。ムーミン谷TVを観ます。
 あそこは自社番組は天気予報やローカル・ニュースすらやらんぞ。島根県松江市出雲市の天気を観てどうする?
 じゃあ117番に電話…
 駄目、ルール違反。そもそもきみは、質問の主旨がわかっているのかね?
 自分は何もせずに部屋にいながら天気を知る方法なんでしょう?あ、これはルール違反ではないですよね?…フローレンに訊く。
 ピンポーン、とヘムレンさんとジャコウネズミ博士は微笑みました。だがそれはきみがフローレンの兄だからだ。全世界がきみなら、きみにとってのフローレンに当る存在。それが世界とムーミンの関係なのだよ。つまり、真実を媒介する唯一の存在。
 第二章完。