人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(49)

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残飯をあさる生活といってもスナフキンの場合は、もしありつけさえすればかなりマシな残飯が得られました。いや、かなりどころではなかったのです。もちろんスナフキンはゴミ捨て場から食品を拾う行為に最初は抵抗がありましたが、まず疑問だったのはゴミ捨て場であるはずの場所に、
・作ったばかりの料理
がそのまま捨ててあったことです。ひょっとしたらこれは、おれのようなホームレスに毒を盛るための罠なのではないか、とスナフキンは疑いました。試しにそこらの野生動物にでも与えてみれば判別がつくのですが、この土地の住民はだいたいが野生動物を二足歩行させたような肢体をしており、つまりはそういう進化をとげたわけだ、とスナフキンは推察しました。猫面の女性(?)や犬顔の男(?)はいても野良猫や野良犬はいないのです。
疑問はまもなく氷解しました。相手からは見えないことをいいことに、スナフキンは民家の食事風景を窓から覗いてみたのです。着席した一家のテーブルに料理が並べられ、彼らはちょうど食事時間分団欒をすると手つかずの料理は下げられました。そういうことか、とスナフキンはひとりごちしました。ここの住民は別の方法でエネルギーを摂取しているらしい。おれには料理に見えるあれは、連中にはある種の儀式のための供物なのだ。手つかずなのはそういうわけだ。
でもひょっとしたら粘土や廃物で作ってあるのかもしれないぞ、とスナフキンは気が進みませんでしたがまた歩いているとキャベツ畑に沿った道に通りかかりました。ひどいな、キャベツが全部腐ってる。青色申告のために農地登録して脱税しているのか。資本主義国はどこも同じだな。ん?ここは資本主義国か?
それなら新鮮なうちに盗み喰いすれば良かった。しかも陰惨なことに、時季外れのコウノトリが置いて行った赤ん坊の泣き声があちこちから聞こえる。
スナフキンは数往復してこの土地二か所の孤児院の門前の捨て子箱に嬰児全員を運びました。ああ、おれはこいつらを喰ってもいいんだな。もし残飯が喰える代物じゃなかったら、おれは赤ん坊たちを喰おう。
ですが残飯は、ごく普通の食材を使った家庭料理でした。これでおれは赤ん坊を喰わずに済んだ。腹もくちた。なのにおれの存在が不可視のままなのは、これはどういうことだろう?むしろおれは、残飯より嬰児を喰うべきだったのか?