人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アンドレ・ジッド(9)ジッドのジャンル意識

1926年の『贋金つかい』と創作日記『贋金つかいの日記』から、アンドレ・ジッド(1869~1951)はかつての自己の創作を詩的散文、レシ(物語)、ソチ(風刺作品)に分類します。それは『贋金つかい』こそ自己にとって最初で最後になるだろうロマン(長編小説)という意気込みからこそでした。

若林真個人全訳『アンドレ・ジッド代表作選』は平成12年に刊行された全五巻の創作のみの全集ですが、前記のようなジッド自身の区分で収録巻が分けられています。全23作を年代順に並べ直してみましょう。訳題はより網羅的な新潮社版全集に従いました。

1891年(22歳)『アンドレ・ワルテルの手記』『ナルシス論』詩的散文
1892年(23歳)『アンドレ・ワルテルの詩』詩的散文
1893年(24歳)『ユリアンの旅』『愛の試み』詩的散文
1895年(26歳)『パリュウド』ソチ
1897年(28歳)『地の糧』詩的散文・『エル・ハヂ』レシ
1899年(30歳)『鎖を離れたプロメテ』ソチ
1902年(33歳)『背徳者』レシ
1907年(38歳)『蕩児の帰宅』レシ
1909年(40歳)『狭き門』レシ
1911年(42歳)『イザベル』レシ
1914年(45歳)『法王庁の抜穴』ソチ
1919年(50歳)『田園交響楽』レシ
1922年(53歳)『汝も亦…』レシ
1926年(57歳)『贋金つかい』ロマン
1929年(60歳)『女の学校』レシ
1930年(61歳)『ロベエル』レシ
1935年(66歳)『未完の告白』レシ・『新しき糧』詩的散文
1946年(77歳)『テーゼ』レシ

これに創作ノート『贋金つかいの日記』を加えて全23編になります。確かにこれは立派な創作歴です。故・大島渚は映画監督の真価は作品歴ではないか、と発言していましたが、どの分野の創作家にも同様のことが言えるでしょう。
この年表を見るとジッドのフランス人らしいしたたかさを感じます。したたかとは本来は批判的表現で狡猾という意味です。つまり非常な狡猾さを感じます。
ですが、ジッドの全作品をもってしてもチェーホフの掌編一編の真実性・芸術的完成には及ばない、とも思わせます。また、この著作年表には重大な欠落や矛盾があるのです。次回で検討しましょう。